海神奈川吹奏楽部愛好会ブログ

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古墳少女佑奈4  その13

2006年09月27日 16時30分17秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その13

第13章 亀山の奇跡

 古墳少女である上月佑奈を本国に拉致しようと命知らずなことを考えた国がある。それが Φ国だ。総統の命令をうけた情報員9人が大塚町に潜入していた。 Φ国と日本ではあまり人種的に違わないのでかすかに Φ国なまりの見られる日本語を気にしなければ彼等は十分に日本人で通っただろう。大塚町の住人も彼等をまったく不審に思っていなかった。9人は入国に先駆けて佑奈の身辺を調査していた調査班から古墳少女 上月佑奈についての詳細なレポートを受け取りそのすべてを頭に入れていた。
「おい、古墳ガールの帰宅ルートに間違いはないんだろうな」
「調査班の報告によればこの道で大丈夫であります」
実行部隊は佑奈が下校次第作戦実行の手筈を整えていた。前方後円墳である大塚亀山古墳の墳裾(古墳の丘のふもとのこと)部の道で古墳ガールを挟み撃ちにして捕獲する作戦だ。そこに無線が入る。
「247から714へ」
「714だ」
「古墳ガールがスクールから出てきました。少し写真と違う印象ですがどうしましょう?」
「714了解。写真の印象なんて撮り方によって違うものだ。ましてや相手は外国人だ。勾玉の腕輪をしているかを確認しろ」
「247了解」
少し間を置いて247から返事がくる。
「こちら247。この女子生徒は左手首に勾玉の腕輪をしています。よって古墳ガールと特定」
「714了解。そのまま監視を続けろ」
「247了解」
「こちら714、各員へ。古墳ガールが動いた。手筈通り行動されたし」
「811了解」
「935了解」…
と各情報員から返事がきて上月佑奈と、勾玉の腕輪をして髪形もそっくりで同じセーラー服を着た長谷川茜を取り違えたまま古墳ガール捕獲作戦がスタートした。調査班の報告書に長谷川茜についての記事と写真ももちろん載っていたが茜の写真は髪をバッサリと切る前の物でまるで印象が異なり勾玉の腕輪をしていることもあって Φ国の情報員247号は茜を完全に佑奈と誤認してしまったのだ。

 長谷川茜はそんな謀略が巡らされていることになど気付かぬまま校門を出て大塚亀山古墳に向かった。茜は後円部の墳裾を回り込んで大塚町の自宅に帰るのだ。それを935と325が後を付けてゆく。後円部を半分くらい回り込んだところで714以下4人の目付きの悪い男達が道をふさいだ。
「おい、古墳ガール。我々と一緒に本国まで来い」
最初は変質者かと思ったが古墳ガールと言われてすっかり佑奈になりきっている茜は佑奈に間違われたとはまったく思っておらず、この男達は古墳少女の長谷川茜を拉致しにきたものだと思った。
「いっ、いやですの」
と言いもと来た道を学校へ戻ろうとすると325たち別の男5人が茜の退路を断っていた。茜は絶体絶命のピンチになったとわかった。
「もうお前は袋の鼠だ。おとなしくついてこい」
「いやぁーっ」
上品な長谷川茜とは思えないようなはしたない声を出し茜は大塚亀山古墳の墳丘(古墳の丘のこと)をかけ上がり始めた。走るのに邪魔なので茜は大塚中学校のスポーツバッグを投げ捨てる。校則通り膝下5cmのスカートが走りにくい。大塚亀山古墳の墳丘は割合と急斜面でこの1500年の間に生えた雑木林の木々の根が張り出していて最初優勢だった茜はけつまづいて転んでしまった。その間に情報員9人が茜を包囲するかのごとく短刀を抜いて油断なく墳裾側から近寄っていく。情報員たちは
「さぁ追い詰めたぞ。古墳ガール、おとなしくしろ。抵抗するなら薬で眠らせるぞ」
「捕獲のため少しくらい傷つけてもいいと命令されている。ケガをしたくなかったらいい子にしな」
「おじさんたちと楽しい海外旅行に行こうね」
とすごむ。茜は怖くて腰が抜けもはや立ち上がる気力もない。
「ひっ、ひっ…」
と恐怖に声も出ない様子で茜にはもう為すすべもなく、最後の力をふりしぼって
「佑奈お姉様、たすけてぇーっ!」
と絶叫した。

 その時上月佑奈は海老名市立大塚中学校の音楽室で吹奏楽部の練習に出て<プスタ>の合奏をしていた。クラリネットが主旋律を奏でている最中に呪文を詠唱し結印したわけでもないのに千里眼の術が発動して大塚亀山古墳の墳丘で短刀を手にした外国の情報員たちが長谷川茜を追いかけ転んだ茜を包囲して追い詰めている様子が見えた。これがCIAの連絡係の女子高生が言っていた Φ国の情報員か。情報員たちが古墳ガールと言っているのでどうやら髪形を同じにして勾玉の腕輪をした茜を佑奈と取り違えたようだ。 Φ国の情報員は長谷川って子じゃなかったんだ! 合奏中にもかかわらず佑奈はがばっと立ち上がると
「先生、あたし亀山へ行ってきます」
と言う。演奏がストップする。いきさつを知らない他の部員たちが呆然と佑奈を見ている。佑奈はイスの上にクラリネットを置き一目散に駆け出した。
「ちょっと上月さん、待ちなさい合奏中よ…」
という部長の声も耳に入らなかった。佑奈は
「あたしと似たような格好するからよ。まったくもぉ」
と言いながら昇降口で佑奈は上履きを白スニーカーに履き替えて校門を出て大塚亀山古墳へ全力で走った。

 佑奈が大塚亀山古墳の後円部の墳丘に着くとすでに戦いは済んでいた。墳丘の木々が十数本バチバチと燃えていたので佑奈は呪文を詠唱し結印して水流(すいる)の術を発動してウルトラマンのウルトラ水流のように手から水を放ち燃える木々を鎮火させた。状況が沈静化すると大塚亀山古墳が佑奈にそれまであったことを映像にして伝えてきた。

  Φ国情報員たちに挟み撃ちにあい、墳丘をかけ上がってきた茜は木の根にけつまづいて転んでしまう。その間に情報員たちに包囲され絶体絶命のピンチにいたり茜は
「佑奈お姉様、たすけてぇーっ!」
と絶叫した。すると茜の佑奈への強い思いに大塚亀山古墳がこたえて茜に力を与え、茜が知るはずもない古代日本語の呪文を無意識に詠唱し始め正しく結印を行う。佑奈はこれって真火の術じゃないのと思っていると茜のニセモノの腕輪を媒介し真火の術が発動する。炎が噴き出し一瞬にして Φ国情報員たちは焼失してしまい、墳丘の木々にも火の手が上がった。術の発動で膨大なエネルギーが流れたため茜のニセモノの腕輪は砕け散り、茜の体も反動で2mふっ飛んで木の幹にぶつかり気絶した。
 我に返った佑奈は茜の体を抱きかかえ
「ごめんね。あたしに間違われたばっかりに…」
と涙を流した。

エピローグ

 この事件をきっかけに佑奈は茜を妹と認めてやった。茜が Φ国情報員たちに襲われ古代日本語の呪文を詠唱し結印して真火の術を発動する様子を1年生の女子生徒3人組が墳裾を通る道から遠巻きにおそるおそる見ていたのだ。だから1年3組の長谷川茜が本物の古墳少女2号であった!という情報が瞬く間に海老名市立大塚中学校の全生徒に知れ渡った。その伝達に1年3組の石田莉奈と2年1組のおしゃべり好きな高田瑞穂がおおいに貢献したのは言うまでもない。
 長谷川茜は毎朝佑奈を堂々と家まで迎えに行けるようになり楽しげに佑奈と登校している。茜はふたたび手芸店でプラスチックの勾玉を買ってきて新たに作った佑奈のとそっくりな腕輪を手首に着けている。佑奈の妹として認められた茜も吹奏楽部に入り佑奈からクラリネットの奏法の特訓を毎日受けている。今朝も茜の
佑奈お姉様、早く起きて下さい。朝練に遅れますわ
という声が大塚町に響いた。

あとがきという名の言い訳

 古墳少女 佑奈4がついに完成しました。上月佑奈、泉崎礼香、高田瑞穂+古谷の主人公4人組はすべて同学年(本作では中学2年生)で上下関係がないので後輩を登場させたかったのです。古墳少女 佑奈1と2の間に入るエピソードを書いてばかりいたのでようやく4を書くことができました。古墳少女 佑奈5の構想もすでに練っています。
 長谷川茜という少女は泉崎礼香以上に上品な少女に設定しました。上月佑奈、泉崎礼香、高田瑞穂は自分を『あたし』と言うのに対して長谷川茜は『わたくし』で語尾も『~ですの』『~ですわ』となっています。海老名市立中学校よりも私立女子中学校に似合いそうな少女です。茜の過去は明らかではありませんがもしかしたら何らかの事情で私立女子中学校から大塚中学校に転入してきたのかもしれませんね。

 さて、小説を書いていると太宰治がなぜに玉川上水に身を投げたのかがよくわかります。イメージをエピソードで語るというのは簡単そうに見えてなかなか難しいのです。古墳少女 佑奈4は筆者の頭の中ではもっとおもしろい冒険活劇だったのですが、筆者にイメージをエピソードで語る文才がないためにこの程度の作品になってしまいました。
長谷川茜ちん ゴメンね。
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