Peace of Mind を求めて…

悲しいことがあっても、必ず新しい朝は来るのですよね

ワリス・ディリーの本

2010-12-25 22:34:50 | 

ソマリアの砂漠に遊牧民として生まれた少女が逆境を乗り越えスーパーモデルに!!!
ワリス・ディリーの辿った軌跡=奇跡としかいいようのない数奇な運命について、ワリス自らが綴った2冊の著書を続けて読みました。

『砂漠の女ディリー』(ワリス・ディリー 著、武者圭子 訳) 草思社


山羊とラクダ以外、必要最小限の物しか持たず、水や草を求めて家族と共に移動する厳しい遊牧生活の中で育った少女が、数々の苦難を乗り越えて大都会ニューヨークでスーパーモデルとして活躍するようになり、ジャズバーで出会ったドラマーと恋に落ちて男の子を出産するまでを克明に綴ってあります。

ワリスは13歳のころ(正確な生年月日は不明)、強権的な父親からラクダ5頭と引き換えに、60歳の老人と無理やり結婚させられそうになったのをきっかけに家族の元を抜け出し、裸足で走り続け(ライオンと遭遇したり、ヒッチハイクしたトラックで危険な目にあったり…)、奇跡的に親戚や姉が住む都会までたどり着いた後、母親の親戚にあたる駐英ソマリア大使一家のメイドとして、ロンドンで暮らすチャンスを手に入れます。

ワリスの母方の一族はソマリアではかなりのエリート階級だったようですが、その恵まれた生活を捨て去り、一目惚れしたワリスの父親との過酷な砂漠での生活を選択し、子どもたちを守りながらたくましく生き抜いているワリスの母親は、なんとしなやかで強い女性なんでしょう!!!

それに比べ、エリートで裕福であるはずの駐英ソマリア大使夫妻は、姪であるワリスを使用人としてしか扱わず、字を学びたい!学校へ通いたい!というワリスの勉学に対する強い向上心を全く受け入れようとしませんでした…

ソマリア大使一家が帰国する際、ワリスはソマリアへ帰りたくないがため、パスポートを失くしたとうそをつき、その結果ホームレス状態で置き去りにされます。

しかし運よくソマリア人の女の子と知り合いになり住む場所を手に入れ、その後、マクドナルドでアルバイトをしていた際、かねてから声をかけられていたカメラマンと再会し、思いもかけずモデルとしての輝かしい生活がスタートすることになります。

この後、正式なパスポートを手に入れようとして、悪徳弁護士に大金を騙し取られたり、偽装結婚をした相手の男からストーカーのようにつきまとわれたりしながらも、ジャズバーで出会い、ワリスの方から夢中になったシャイなドラマーと一緒に暮らし始め、男の子を出産します。

20歳近くまでソマリア語しか話せず文盲だったワリスが、これまでの劇的な経緯を克明に書き上げたことだけでも十分賞賛に値するのですが、ワリスが行った最大の功績は、アフリカのイスラム諸国に暮らす女性に施されている、身の毛もよだつおぞましい因習=女性性器切除の実態を世に知らしめたことでしょう。

ユダヤ教で、男子に割礼を行うことは知っていましたが、今日の社会で、これほどまでに冷酷、野蛮で非人道的な残虐行為が「無知と盲信」から幼い女の子たちに平然と行われ、多くの女の子たちが命を落としているという事実……
4000年もの間伝えられてきたこの悪しき慣習は、決してコーランに書かれているものではなく、男性側の身勝手な男尊女卑の考えから行われているのです。

ワリスの母親も、この悪習をやめることはできませんでした…なぜならソマリアの遊牧民社会で女が結婚し生活していくには、これを行うしか生きていく術はないのだから…。母は自分がされてきたことを娘に繰り返したにすぎないのだから…。

ワリスは国連の特別大使として、女子割礼の廃絶に向けて活動をしています。何百万という少女たちをこの蛮行から救うために…。

『ディリー、砂漠に帰る』(ワリス・ディリー 著、武者圭子 訳) 草思社

前作で、かわいらしい男の子を出産し、幸せに満ちていたワリスでしたが、3年後にはすでに夫と別れ、自信を失い、疲れ果てているのです。

遊牧民の少女がスーパーモデルになり、生活が激変してしまったことも原因だろうけれど、イスラム諸国の少女たちを救うため女子割礼の問題について話すことで、自分の愛する国や大切な家族を結果として告発している…という心の葛藤がワリスを苦しめているのでした。

そんなときワリスが思い出したのは、なつかしい母親のこと…。20年も会っていない愛する母親にどうしても会いたい気持ちが募り…
今はオランダで暮らしている弟と一緒に、内戦で無政府状態に陥っている危険なソマリアへ母を捜す旅に出、奇跡的に母親を捜し出すのです。

この本を読むとソマリアの人々の暮らしがとてもよくわかります。電気もガスも水道もなく、病院も学校も十分な機能を果たしてはいません。
男尊女卑の考えも根深く、先進国での暮らしが身についてしまっているワリスの言動は、ソマリア滞在中あちこちで軋轢を生み、非難されたり、石を投げられたり無視されたり…。でも、美しい風土、働き者でたくましい女性たち、陽気でちょっといい加減な男たちを、ワリスは同じソマリア人として、暖かいまなざしで活き活きと描き出しています。そして、ソマリアへ帰国したことで、自分が何をなすべきなのか…「本当の戦いの場はソマリアだ」ということに気づくのです。
ソマリアを愛しているからこそ、女子割礼の問題を、ソマリアの人々が分かってくれるように、耳を傾けてくれるような言い方で、話していかなければならない…ということに。。。

どんな境遇にあっても、決してあきらめず、たくましく生き抜いてきたワリスの強さは、きっと砂漠で家族を守り抜いてきた母親ゆずりなのでしょう。ワリスの勇気ある活動によって、アフリカでは女子割礼を法律で禁止する国も出てきたとか!

シネマクレールでもうすぐ公開される『デザート・フラワー』もぜひ観にいきたいと思っています。