仕事や家事の合間に本を読むのは、私にとって至福のときです☆
…といっても夜はすぐに眠くなるし、もともと読むのが遅いので、1冊を読み終わるのにとても時間がかかってしまうのですが…
最近読んだ中で印象に残ったのは…
●『オオカミ少女はいなかった -心理学の神話をめぐる冒険-』(鈴木光太郎著・新曜社)
このタイトルからしてショックでした!!
大学時代、児童学が専門だったので、インドで発見されたアマラとカマラの話は授業でも習った記憶があるし(アーノルド・ゲゼル著「狼にそだてられた子」をみんなで読みました。)、娘Tも学校の教科書に載っていたといいます。人間が成長していく過程で、環境や教育がいかに大切であるかを語る際、引用されることの多いこの話、実は作り物だったらしい…。
実際は、重い自閉症のため遺棄された子どもたちが森の中で野生児として生き延び、ある時村人たちに生け捕りにされた。たまたま伝道旅行にやって来た牧師が自分の孤児院へ連れ帰り、他の孤児たちと一緒に養育する。イギリスとアメリカの新聞に2人のことを報じる記事が出たため専門家から質問や問い合わせが来るようになり、その圧力で引っ込みがつかなくなった牧師は意識的にオオカミらしさを強調する日記や写真を捏造せざるを得なくなった…というのが本当のようです。
確かに、アマラとカマラの写真もよく見れば矛盾だらけ!!!8歳と1歳半のはずなのに、重なり合って眠っている写真はどう見ても同年齢だし、3年半の間で別々の日時に撮影されたとする写真が、周りに映っている人物や背景から見て、実は同じ時に撮影されていたり…。
今日まで信じ続けられて教科書にも載っているなんて…確かに人々の好奇心を刺激する事例ではあったけれど…なんだかちょっと…人間って簡単にだまされてしまうものなんですねぇ。。。
「オオカミ少女」の話以外に、ハンスという天才ウマ(人間のように数やことばを解し、質問に正しく答えることができる)やワトソンのアルバート坊やを被験者とした恐怖条件づけ実験等の分析がなされているのですが、事例も古くてあまり関心が湧かず…やっぱり「オオカミ少女」の話が一番おもしろかったです。
●『ポトスライムの舟』(津村記久子著・講談社)
この本には「ポトスライムの舟」と「十二月の窓辺」の2編が収録されています。
「十二月の窓辺」の方が先に書かれていて、この中で主人公の女性は女性上司から壮絶なパワハラを受け、退職に追い込まれます…。「ポトスライムの舟」は、その後日談という感じで、工場で契約社員として働く主人公が、自分の年収とほぼ同じ163万円の世界一周クルージングを夢見ながら、実際は夢など持ちようも無い、何の保障も無い、生きるだけで精一杯な生活を送る様子が淡々と描かれています。
水に差しておくだけでどんどん増えていくポトスライム(主人公宅の廊下にコップに差してずらりと並べられている)を「本当にお金がなくなってしまったら食べればいい」と思わせるまでの苦しい現状……現代社会を覆っている貧困の問題を静かに痛切に訴えています…。
一生懸命真面目に働く人たちが報われる世の中になってほしい…心からそう思いました。
●『僕は人生を巻き戻す』(テリー・マーフィー著、仁木めぐみ訳・文藝春秋)
子どものころ、最愛の母親の死を目撃してしまったことから「時が流れるのは進むこと。進んだ先には死が待っている。時を巻き戻さなくては愛する家族が死んでしまう」という強迫観念に囚われてしまった青年エドが、重症の「強迫性障害」から自力で回復していくまでを描いた実話です。
「強迫性障害」については、何度も何度も手を洗ってしまう…という症例を聞いたことはありましたが、詳しくは知らなかったので、エドの症状の深刻さは想像を絶するものがありました。
階段を上がったら後ろ向きに降りる…これを繰り返すため、階段を上がるのに何時間もかかる。ものはみな決められた位置に置いておかねばならず、コオロギが脚にくっつけて運んでしまった綿ぼこりでさえも、何時間もかけてもとの位置に戻さなければならない。地下室に閉じこもり、1年以上シャワーも浴びず、ジップロックの袋に便を、ゲータレードの瓶に尿を溜め込み、身体中に床ずれがある…
こんな絶望的な状況の中、エリート医師マイケルがエドを救おうとやってきます。マイケルは子どものころから問題児で反骨精神旺盛な若者に育ちますが、ベトナム戦争でトラウマを抱えて帰還した後、思うところあって医学部へ入り直します。患者に対する献身的な対応で臨床医としても研究者としても認められた、強迫性障害の専門家でした。しかしそんなマイケルの熱心な治療でさえ、エドの病気は治すことができなかったのです…。自分の力の限界を感じ絶望したマイケルは、哀れに衰えたエドの目の前で泣き崩れます…。
驚くべきことに、一生治る事はないとさじを投げられたエドが、この時を機に回復へと向かっていくのです。マイケルが自分のために流してくれた涙を見て、彼は突然内面の強さを取り戻すのです。
その後のエドは、病気を知った上で何もかも受け入れて愛してくれるマヤダという美しい女性と結婚し、2女の父親になり、高級住宅地に自分で建てた新しい家で家族と幸せな生活を送れるまでになるのです…。
………私の場合、いつも、どんなにつらくても、夫の前では絶対に涙を見せてはいけない!!!、よけい夫を追い詰めてしまうから…と思い続けてきたけれど、家族の涙がときには本人の強さを呼び覚ますこともあるのだろうか……??(今度、やってみよう…か…な???)
とにかく、こんなに重症の精神病でも回復する可能性はあるのだということがわかり、私の心の中にも少しだけ希望をもたらしてくれたのでした。