先日『いのちの食べ方』という本を読んで以来、気になっていた著者:森達也さんが、今日は映画監督として岡山に来てくださいました。
岡山に住む20~30代の若者が「岡山に森達也氏を呼ぶ会」を立ち上げ、今日のイベントを企画してくださったらしい…(ありがとう!)
会場(岡山三丁目劇場)は幅広い年齢層のお客でほぼ埋まり、20代の若い観客も多く、活気のある楽しい会になりました。
プログラムは
10:30~『A』 上映 (135分)
13:00~『A2』 上映 (126分)
15:30~森監督講演 (90分)
17:30~『放送禁止歌』 上映 (53分) とても充実したプログラムですよね!
私は朝から出かけ、『A』『A2』を観、森監督の講演まで参加してきました。
会場にBGMとして流れていた「自衛隊に入ろう」「私たちの望むものは」「チューリップのアップリケ」(これを聞くと泣いちゃうよ~!)等の放送禁止歌(?)が胸に響き、最後まで観て帰りたかったのですが、夫に頼んできたとはいえ、やっぱりインフルエンザの娘が気になって…
でも『A』と『A2』を続けて観たら、森監督の世界にどっぷりつかり、講演もとても興味深くてあっという間に時間が過ぎてしまったのですが、会場を出るころには自分の中にあまりに多くのものを一度に詰め込んでしまったので、ヘトヘトになっていました(笑)!
『A』はオウム真理教の広報担当者・荒木浩に密着取材したドキュメンタリーなのですが、弱冠28歳の、弱々しい、育ちの良いお坊ちゃまタイプの荒木氏が、攻撃的で、無礼なテレビ局の取材陣たちを相手に決して怒らず、しなやかにスルリとすり抜けるように応対していくのです。
オウムの起こした事件とはずっとタイムリーに接してきましたが、今から思えばその情報はいつも外側から、オウム信者たちを理解不可能な不気味な集団として捉えており、その未知の世界に対する恐怖感を煽り立てるような記事や映像ばかりでした。
しかし、この作品に登場する信者たちはみんな真摯で穏やかで、つつましく禁欲的な生活を送っているんですね…非常識で攻撃的なテレビ局のクルーの方がよっぽど理不尽な連中に思えてしまいます。(オウムの味方じゃないんですけど…)取材陣の中ではNHKのクルーが一番良識的でしたね。NHKの女性記者の、信者に寄り添うような取材姿勢には心打たれました。(NHKの味方でもないですけど…)
ひたすら修行に励み、禁欲的な生活をしている信者たちが、なぜあの凶悪な数々の恐ろしい事件を起こした、薄汚い俗物としか思えない麻原をあがめるのか、なぜ教団として正式に社会に対して謝罪をしないのか…このことが一番の疑問点だったのですが、荒木氏は「罪を認めると、オウムを全否定してしまうことになる。それは自分にはできない」というようなことを言葉少なに語っていました。28歳の広報部長には重すぎる責務なのかもしれません…。
『A』の中で一番衝撃的なシーンはやはり「転び公妨」でしょう!
警察が、どうしても相手を逮捕したい時、その本人の前で自分から率先して転び、「公務執行妨害!」と叫んで逮捕するという方法です。
『A』の中では公安警察の人が信者に道の真ん中で因縁を着け言い合いになり、逃げようとした信者に乗りかかり、そのまま押し倒してしまうのです。頭を打ち付けた信者は起き上がれない状態なのに「公務執行妨害!」と言われてパトカーに押し込まれてしまうのです!
鴻上尚史さんの『ドン☆キホーテの休日7』(扶桑社)の中でも『A』のこのシーンについて書いておられますが、私もこのシーンにはショックを受けました。
「えぇ~!!???、こんなことが公然と行われていいの~??」「こりゃ、どうみても警察が悪いだろ~!!」
でも、もっと衝撃なのは、なぜ警察がこの明らかに不当な逮捕場面の撮影を停めようとしなかったのか、ということでした。
警察はマスコミを「不当逮捕を見逃す存在として認識していたから、彼らは撮られることを意に介さなかったのだ。」(森監督の『A』撮影日誌より)
…警察にもマスコミにも、オウムのような恐怖集団に対しては、どんな不当なことをしても許される…あいつらは人間として扱う必要はない…という暗黙の了解があったということでしょう…
あの当時の自分を振り返ると、教団に対する怒りや恐怖から、この考え方に加担していなかったかといわれれば否定はできません…恐ろしいです。
『A2』では、日本各地で起こったオウム信者の排斥運動を中心に、信者と地域住民、右翼団体、サリンの被害者・河野義行さんたちとの対話が描かれています。
日本各地の教団道場が地域住民の攻撃の的になり、はちまきをしたデモ集団の「出て行け」シュプレヒコールやヒステリックな住民集会が次々と登場します。数々の手作りのオウム排斥スローガンを掲げた看板も映し出されます。
…当時はそれ(追い出すこと)が当然だと思っていたし、住民の方々にとっては大真面目で真剣な言動だったのでしょうが、今から映像で観返すと、妙に笑えてしまうのはなぜでしょう…??
こわ~い右翼の方たちが集団でデモ行進しているのもちょっと微笑ましかったりして…右翼の方たちにも彼ら独自の主張があって、「出て行け~!」ではまた場所を変えて存続し続けるから、「解散せよ」「賠償せよ」「謝罪しろ」とデモで叫んでおられました。一理ありますよね!
信者を監視するために監視テントを建て、見張りを続けていた住民たちが、いつのまにか信者と仲良くなり、理解しあい、最後には双方が協力してテントを撤去するという、マスコミでは絶対に流されない情景も映し出されました。監視テントが地域住民の交流の場になっていて、信者が出て行くのを名残惜しそうにみんなで見送っているのです。
信者を1人の人間として捉える視点は、最近読んだ村上春樹の『約束された場所で』の中でも貫かれていて、相手を知るという行為で理解が深まれば、無知や恐怖感から生まれる憎悪のようなものは消えていくのだと思います…
ただ、松本サリン事件の被害者・河野義行さんのところへ教団の村岡代表と幹部らが面会に行ったときの彼らの態度には腹が立った!。言葉に尽くせない苦しみを被った河野さんに対して、きちんと謝罪しに行ったのかと思えば、河野さんの面前でヘラヘラと笑いながら雑談する代表ら…!
「笑いながら話すことじゃないだろー!!」「何するつもりで来たんだよー!!」
「ちゃんと謝罪文ぐらい用意してこいよー!!」
と怒りが込み上げましたよ。まったく!!
森監督の講演は、「あるある大辞典」の番組捏造の話から始まり、オウム事件後、不安と恐怖を抱えた国民が、安心したいために外に敵を作ろうとすること(北朝鮮・オウム等、恐怖を煽る番組を作ると視聴率が上がるのだそうです)、映像と音がファシズムを誕生させたこと等、とても興味深いものでした。
国民全体が、視点が画一的な、わかりやすく白黒ハッキリしたものを求めるようになってきていることは過去の歴史を振り返ると危険な感じがします。
でも今日の催しに20~30代と思われる若者が大勢参加していたことが救いですね…
講演の後の質疑応答も、若者たちがどんどん手を挙げ、肩肘はらない天然~っていう拍子抜けするような質問が多かったのですが、結構楽しく聞けました。
休憩時間に森監督のサイン会があって、私は2番目に勇んで並んでいたのに、実際目の前に監督が現れると、何もしゃべれず、「とてもよかったです…」と言うだけで精一杯でした。(小学生の作文かよ~!!) でもとても充実した1日だったのでした!