Pの世界  沖縄・浜松・東京・バリ

もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

ウブドでバリ舞踊をみる

2007年09月25日 | バリ
 「7時から始まるから、いい席に座りたければ早く来た方がいいね。この時期、観光客が多いからね。くれぐれも早く来ることだよ。」
 久しぶりにウブドの王宮で観光用に上演されるバリ舞踊を見るために、路上でチケットを販売しているお兄さんからチケットを買うと、くどいほど「早く来い」と言われる。確かに8月から9月のウブドにはまだ観光客を多く見かけるが、いつ行っても観光客がわんさといる気もする。
 夕食をとって、いわれた通り30分前に会場となるウブドの王宮に行ってみると、今日は王宮の儀礼の準備があるし、雨も降りそうだから会場は隣の集会場だという。空を仰ぐと、雲ひとつない夜である。しかし「儀礼があるので」という言葉は、水戸黄門の印籠に匹敵するのがバリである。「さっきは王宮であるっていったやろ!」なんて激昂しても自分が哀れになるだけなので、言われた通り集会場に向かったのだった。
 ところがである。まだ開演まで半時もあるというのに観客席はほぼ満席ではないか?なんて観光客は気が早いのだろう?この調子では1時間以上も前に来て席をとっているに違いないのだ。しかも席の並べ方が全く最低である。舞台は1メートルくらいの高さのところにあるのだが、狭い集会場には後ろまでイスが並べられているだけで、客席には全く段差がない。ということは後ろの客にとっては、前の客の頭でひじょうに舞台が見にくくなるわけである。王宮で上演する場合は、前方は桟敷になっているし、屋敷の中には少し高くなっている場所もあるため、観客にとってはそのバリ的な雰囲気も手伝ってか、ひじょうに気持ちよく鑑賞できるのだ。
 80,000ルピア(約1,000円)も払って見ようとしているのに、まるで観光客の頭を見に来たようなものである。後ろの席は半額にしてもらいたいものだ。さらに頭にきたのは、前方にはやたらと座高の高い西洋人が座っていることである。君たちの「頭」を見に来たわけではないのだ!しかし、どうしようもない。私は「早く来い」といわれたにも関わらず、他の観光客よりも「早く」は来なかったのだし、ガタガタ文句を言ったところで、どうにもなるものではない。インドネシアでは文句を言って成就する場合と、成就しない場合の見極めが大切なのだ。
 「チェッ、やられたぜ」なんてふてくされながらも、あきらめて、シルエット状の観光客の頭と、明るい舞台で繰り広げられるバリ舞踊をカメラ片手に鑑賞したのだった。すると終演30分前、会場はとんでもない豪雨に襲われた。屋根に当たる雨音は、ガムランの金属音を消し去ってしまうほどの大きさである。
 それにしてもバリの村に住む人々の天気予測は正確である。私が調査する村でも、ちょっとした気圧や風向き、強さを感じとって、「雨が降るから」と庭に干してあったクローブの実をあっという間に片付けると、その10分後には本当に雨が落ちてくる。天気予測はすべて彼らの五感でおこなわれるのだ。ちなみに私にはなぜこんな天気がいいのに片付けが始まるのかたいていの場合は理解不能である。
 この雨にあたって頭からびしょ濡れになってデンパサールに帰ることになったら・・・と思うと、席の場所や、前に座る西洋人のことなんてどうでもよくなってしまった。なんだか、踊りに感激するよりも、バリの人々の天気予測に感心した芸能鑑賞だった。ところで、撮影した写真の大半には、はっきりシルエットになった前方の観客の輪郭が映っている。これもいい記念である。