ミューズの声聞こゆ

なごみと素敵を探して
In search of lovable

このたびの東日本大震災で被災された多くの皆様へ、謹んでお見舞い申し上げます。

大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。 また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。

詩情

2016年09月12日 | ジョン・フォード

 一番好きな映画は?と尋ねられてもその時の気分によって違うのだけれど、「荒野の決闘」と答えた回数が一番多いかもしれない。

 1881年アリゾナ准州コチーズ郡トゥームストーンで保安官であるワイアット・アープ兄弟と牧場主クラントン一家が果し合いをした。西部史上に名高いOKコラルの決闘である。普通“OK牧場の決闘”で通っているが、正確にはコラルとは家畜置場のことだ。
 この決闘をクライマックスにした「荒野の決闘」の原題は「マイ・ダーリング・クレメンタイン」、主題曲に日本語の歌詞がつけられ「雪山讃歌」として愛唱されているのは御存知の通り。元々は西部の民謡で、1849年にカリフォルニアでのゴールドラッシュに群がった男たち[フォーティナイナーズ]の一人にクレメンタインという娘があったのだが、まもなく病のため亡くなってしまった彼女を悼んだ歌だという。
 
 3人の弟たちと東部まで牛を運ぶ途中、トゥームストーンの街へ立ち寄り旅の垢を落としている隙に牛を盗まれ、末弟を殺されたワイアット・アープ(ヘンリー・フォンダ)は、もめごとを解決した際に要請された保安官の職を受ける。町で幅を効かせていたのは乱暴者のクラントン一家と悪名高いギャンブラー、ドク・ホリデイ(ビクター・マチュア)。ワイアットとドクの間には初め激しい火花が散るが、徐々に友情が芽生え出す。
腕のいい歯科医だったのが肺病を悲観して東部へ出たという過去を持つドクを探して彼のフィアンセ、クレメンタイン・カーター嬢が町へやって来る。一目で彼女に魅了されてしまったワイアットだが、彼女を邪険にするドクをたしなめたり、と無骨な紳士ぶりをみせる。
 ドクの女チワワに横恋慕したビリー・クラントンによって牛泥棒はクラントン一家と判明した。ビリーを深追いした二人目の弟まで殺されたワイアットは、一人残った弟(ワード・ボンド)とドクを伴い夜明けと共にクラントン一家の待つOKコラルへと出向いて行く。
 
 クライマックスの凄絶なガンファイトも見ものだが、この映画の魅力はなんといっても画面からあふれんばかりの詩情であろう。空に流れる雲の筋一本、町の背景の荒涼とした岩山までが詩情を感じさせる。日曜の朝、棟上げなった教会の鐘が鳴る中、ダンス・パーティへとクレメンタインをエスコートするワイアットが板張りの通路をコトリ、コトリと歩くシーン、いつ観ても胸が熱くなる。またワイアットとドクのクレメンタインへの想い、そしてチワワのドクへの想いの美しさ。ドクが“クレム”と愛称で彼女を呼ぶのに対してワイアットが劇中ずっと“ミス・カーター”と呼んでいるのがとても奥ゆかしく、いじらしい。それゆえにラストのセリフが効いてくるのだ。



クレメンタイン・カーター:保安官、わたくし日曜の朝が大好きですの。
               空気が澄んでいて。
               ―なんだか砂漠の花の香りもしますね。
ワイアット・アープ:・・・それは私です。・・・床屋で(香水を振りかけられて)。

かつてはこの場面が見たくて、放映されるたびテレビにかじりついていたものである。

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「恋におちて」

2016年09月09日 | ハリウッド


 「恋におちて」(1984年)のロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープが出会うリツォーリ書店のシーンを観ていておや、と思った。
モンゴメリー・クリフト(50年代に活躍した俳優)のパネルが壁に掛けてあるのだが、その半年程前に渋谷のタワー・レコードで買い求めたポスト・カードと同じ写真なのだ。
有名な写真なのかしらん?と映画館から帰ってからよく見ると、なんのことはない、リツォーリ製のカードだった。

 

デ・ニーロの肩越しにパネルが見える



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バーボン

2016年09月05日 | 珠玉

 学生時代から、安いバーボンを好んで飲んでいたのだが、この仕事に就いてからはいつ呼び出しや緊急事態があるかわからないため、口にする機会はほとんどなくなってしまっている。
 もうずいぶん前のある日の夕方、来客があり、珍しいバーボンをいただいた。
客が帰った後、個人事務所の机の上に置いた箱をちらちら眺めながら、今日はもう店じまいして開けてしまおうか、いや、平日のしかも午後5時前だし、何かあっても困るから、と心の中で小さな葛藤を繰り返し、とうとう誘惑に打ち勝った。
その夜の12時過ぎのことである、小規模多機能ホームぽらんから緊急連絡が入ったのは。車を飛ばしながら、こういうことってあるのだな、と胸をなでおろした。



 ワイアット・アープをバート・ランカスターが、ドク・ホリディをカーク・ダグラスが演じた「OK牧場の決闘」(1957年)は、同じ題材の「荒野の決闘」とは大きく異なり、講談調の男臭いアクション映画である。
結核を患うドク役のダグラスの豪快な飲みっぷりが最高で、よく真似てはそのたびみっともなくむせたものだ(注:上の映像はスペイン語吹替版です)。


イディス・ヘッドが衣裳を担当している

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「隣の女」

2016年09月02日 | フランス映画

 思い立って安価な再生専用のビデオデッキを購入し、録りためてきた古い映画を久しぶりに何本か観ました。
自宅にあるデッキは二台ともずいぶん前から故障していて、もうテープも全部捨ててしまおうかな、とも思うのですが、(繰り返し観た)市販されていないフランス映画のテレビ吹き替え版や、DVD化されていない作品のことを考えると決心が鈍ります。

 「そうさ、僕はなにもわかっていない、男はみな何もわかっていない、男は愛についてアマチュアなのだ」

 「あなたと一緒では苦しくて生きられない、あなたなしでは生きられない」

 「昔、女性のスカートの下は神秘的だと思っていた」「今は?」「時々ね」

 「僕の名前はなんだ?本当に知っているのか?だったらなぜ他の名前を呼ぶ?きみが寝ながら呼ぶ名前を教えてやろうか?」





 まだ珍しかった、ふかふかの座席、定員入れ替え制、飲食禁止のミニシアター、新宿のシネマスクエアとうきゅうで公開時(1982年)に観た際は、場内が明るくなっても膝がガクガク震えてなかなか席から立つことができませんでした。
これが愛なら、自分の中にはないし、自分には無理だ、とも思ったものです。

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