顔を上げると、机の前にざしき童子が立っていた。
明日提出予定の補助金申請書類の細部の確認に熱中していて気がつかなかった。
「おひさしぶり。」
あまのじゃくの僕は、そうでしたか?と答えた。
どうぞ掛けて。
前の家主の様子を見に行ってたの。はい、お土産。
丁寧に解いた包み紙の下から、箱に入った小ぶりのおまんじゅうがあらわれた。
可愛らしい絵柄ですね。
僕はその包装紙をひっくり返して店の住所を確かめたいという欲求を何とかこらえていた。
「訊かないの?」
なにをですか、ととぼけようとして、やめた。
「僕はそういうタイプじゃないので。
でも、僕の前のかたの家業が、きみがいなくなったことで傾いていないかどうかは、気になりますが。」
ざしき童子は箱の真ん中のおまんじゅうを一つ掴んだ。
投げつけられるのかな、と身構えたが、違った。
ノートパソコンの上に静かに置くと、じゃあ行くね、と言って彼女は消えた。
気を悪くしたろうか。
長い時間僕はおまんじゅうを手に取って眺めていたが、思い切って食べた。
むっちりとゴマあんが入ったそれは、くやしいことにとてもおいしかった。
僕はおいしいですよ、と声に出した。