ミューズの声聞こゆ

なごみと素敵を探して
In search of lovable

アップルパイ

2017年12月25日 | 末広がり

 日曜が休みの私は部活動へ出かける子供たちに朝食を出したあと、早めに家事を片付けて家を出た。

気分転換に喫茶店アルファヴィルでコーヒーとトーストでもとろうと思ってのことだった。

最近は私もすっかり常連になっていた。

 お店にはオーナーと、アルバイトのさんがいた。

愛らしい柄の黄色いスカート姿のオーナーは大きめのツリーへ取り付けた沢山のクリスマス飾りを手際よく整えていて、それだけで一幅の絵画のようだった。

カウンター内のさんの本職は個人医院の医療事務で、ここは土日だけのダブルワークだ。

黒や紺のTシャツに黒いジーンズを好んではいていて、理事長いわく「スパイみたい」なショートカットの女性だった。

 実家の青森から届いたリンゴを使ったフレッシュジュースをその場で作ってごちそうしてくれた。

リンゴと人参をすりおろし、ミネラルウォーターで好みの濃さに整えるだけなのだが、サラサラとしたシャーベット風の食感がさわやかで、眠気が覚めるように思えた。

「そうなんです、学生時代から朝にこれを作って飲むと気分がすっきりして。人参が入った分、はちみつやミルクを入れなくても甘いでしょ?」

確かに透明のグラスをかざしてみると、中身にはほんのりと人参の赤みがついていた。

 クリスマスイヴを迎える準備を終えたオーナーが店内を見渡し、満足げな表情で言った、

さん、理事長さんにお会いしたら、おいしいアップルパイが焼けてますよ、とお伝えしていただけません?

こないだいらした時に、アップルパイがマイブームになっていて、あちこち買い歩いているってお話しされていたので。」

いいですよ、と答えながら私はすかさずそれを一個注文し、上司より先に味わうことにした。

私たちは三人してくすくす笑った。

 

 

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