長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

夏色に染まる

2024年08月02日 00時23分28秒 | 近況
昼過ぎに外出先での用事が済んだ。
これ幸いと、早く帰って懸案事項を片付けたいのは山々だが、炎天下の熱風に吹かれて家路を辿るのに臆した。
駅ビルで涼もうか…夏物のセールでも覗いてみるか…いや、映画館で日暮れまで酷暑をやり過ごす手もあるぞ……

7月の初旬、余りにも暑いので、35年ぶりにバッサリ髪の毛を切ってもらった。
鏡の中の私は妙に懐かしく、百年ぶりに昔の自分に逢ったような気がした。



…この顔は……そうだ、ジブリの『おもひでぽろぽろ』のタエ子ちゃんでは…
何より、髪を結う作業から解放されたのが堪らなく爽快であった。
それから暫くして、犬神家の一族の草笛光子演じる三女梅子の髪型にも似てきたので、更に着る物の断捨離を挙行して身も心もサッパリと真人間、還暦過ぎの刀自に相応しい風体になるべく心掛けてみたのだが、どうも当節のアパレル業界のラインナップがしっくり来ない。

そこでふと、吉祥寺駅ビル上階のユザワヤに立ち寄り、染色コーナーで染め粉を入手。
もう二十年以前に求めた夏のカーディガンが、甘いペールブルーで最早着られない色合いだったのを、ものが良いので捨てられずに持っていたのだった。これをどうにか色揚げして、生ける衣に出来ぬものか。



何と懐かしいみやこ染め。
昭和の頃聞いたきりの固有名詞に廻りあえる歓び。
説明書通りに、粛々と手順を追ってゆく。
染め粉を溶いてカーディガンを溶液に漬け込み、待つこと30分。ぬるま湯と水で濯いで色止めの溶液に20分。脱水して干す。
思い掛けず、心地よい夏色に染まった。

思えば、染色作業に勤しむのは、小学校だったか中学校だったかすっかり忘れてしまったが、家庭科の授業でろうけつ染めをして以来だから、まさしく50年ぶりのこと。
自分の手でこんなに簡単に染め替えが出来るとは、有難いことである。

そんなわけで、酷暑を凌ぐには、注意深く神経を傾注しつつ没頭できる、何かしらの手作業が最適なことが判明。
むかし名画座で観た成瀬巳喜男監督の『おかあさん』では、家業のクリーニング屋さんで帽子の染め替えを請け負っていたっけ…と、髪型ひとつでおのが記憶のタイムラインを縦横に往き来する、令和6年夏、極熱地獄の一日。


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