長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

岐阜と、名づける

2010年11月05日 12時52分00秒 | ネコに又旅・歴史紀行
 「岐阜と、名付ける」
 久しぶりに岐阜へ来て、もうこのセリフを20回ぐらい言ってしまった。
 稲葉山城の天守閣からはるか下天をながむれば、どうしたってノブナガくんの心境にシンクロせざるを得ない。

 初めて岐阜を訪れたのは、まだ芸名が杵屋衛蝶のときで、名和昆虫博物館で岐阜蝶のテレカを喜び勇んでゲットしたのだった。
 このテレカは、そのころ、現・松緑が二代目の辰之助を襲名した折の、蝶の小袖姿の「寿曽我対面」の五郎テレカや、自分の千社札とかといっしょに手帳の内ポケットに入れて、いつも持ち歩いていた。友人が揚羽蝶の紋の入った暖簾をプレゼントしてくれたり、名前にキャラが入ってる役得、とでも申しましょうか、実に有難いことで、日々愉しかった。
 前名と別れるときは、さみしかったものである。

 ギフチョウは、アゲハチョウの斑紋を、虎斑にアレンジしたような美しい翅の文様を持つ。すごいシャレ者、伊達な蝶なのだ。自分がトラ年のせいもあって、そこはかとない、夢見るような儚げな白い蝶が好きな私でも、ギフチョウには密かにシンパシィを感じている。
 人間、自分と似た要素を持つものには、無条件でシンパシィを感じてしまうものである。

 織田信長は平氏の子孫ということになっているから、五つ割木瓜のほかに、平家の紋である揚羽蝶の柄なども好んで着用していたらしい。いったん死んだように蛹になって、再び華麗な姿に生まれ変わる蝶は、命を張って生きている業態の者にとっても、憧れの存在ではあったろう。それになにより、美しい。
 そして、美しいのに、自分の存在に疑問を持つかのように、ふらふらしている。
 きれいなのに心細げで、可愛い。…どうしたって、応援したくなる要素を翅に標榜して、中空を彷徨っているもの、それが蝶なのだ。

 武家が好む柄にトンボ柄がある。日本の国を表す秋津虫とも、勝ち虫とも呼ばれていたから、当然のキャラ遣いである。
 旗本の末裔である友人は、好んでトンボ柄のものを持っている。彼は源氏であるから、私が蝶キャラグッズを持っていると、え゛~~それ平家じゃん、と嫌そうな顔をした。
 その嫌そうな顔が見たくて、私は人様から頂いたハナエモリのハンカチやらアナスイのお財布やらを、ことさらに明示した。

 岐阜に行ったら、必ず吉照庵に寄る。荻窪の本村庵によく似た、細身のお蕎麦がものすごくオイシイ、蕎麦の名店である。
 以前は旧家のゆったりとした店構えだったが、場所が変わって、たいへんモダンできれいなお店に生まれ変わっていた。味は変わらず美味しかった。

 さてこれから、永禄十一年(1568)九月、足利義昭を奉じて京に上った信長くんにシンクロして西を目指すのである。
 しかし、美濃平尾に着く前に、私の目の前に犀川が。
 …墨俣城址にはやっぱり寄らねばなるまい。美濃攻略のための足がかりが藤吉郎一夜城の墨俣城だから、ちょっと手順が逆になるけれども。

 川風に吹かれながら、長良川沿いを南下する。…と、ビックリ!!
 墨俣城址とおぼしきあたりに、金の鯱鉾を戴いた四層の天守閣があるではないか!
 あまりのことに思わず爆笑しながら、まろびつつ、平成の墨俣城に駆け寄った。
 なんて楽しい。さすが、サービス精神旺盛な豊臣秀吉の精神を体現している。
 それにしても、いつの間にこんなことになっていたのだろう。秀吉が一代の出世のきっかけとなった墨俣城は、城とはいえ川の中洲に拵えたものだから、掘立小屋の砦のようなもので、平屋だ。
 まっこと、城めぐりはメルヘンですねぇ。
 域内の豊国神社のわきに「名誉城主 竹下登」と碑がある。ふぅむ、なるほどねぇ…。

 そしてまた、愉快なことに、昭和53年に刊行された私の手許の資料・別冊歴史読本によると、永禄九年九月廿四日、つまり、444年前のちょうど昨日、本来の墨俣城が築城されたのだ。(本稿この部分は2010年11月1日月曜日、つまり太陰太陽暦の平成廿二年長月廿五日の紀行によります。ちょっとくだくだしいですが…)
 何たる奇遇。
 なんだか妙に面白い心持ちになって、私は休館日で入れないその城の周囲をぐるりと回った。ちょうど、犀川が長良川に流れ込む洲股にあるのだった。整備された堰堤がものすごい勢いの水流を呑み込んでいる。パワーシャベルも掘削機もなかったあの時代に、こんなところに築城しちゃうなんて、大したもんだ。
 南面の神籤結び所に奉納された無数のひょうたんが、朱房の紐で括りつけられて、気持ちよさそうに、ゆらゆらゆらんと、風に揺れていた。

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