長唄三味線/杵屋徳桜の「お稽古のツボ」

三味線の音色にのせて、
主に東経140度北緯36度付近での
来たりし空、去り行く風…etc.を紡ぎます。

長唄絵合せ【リモート編】風流船揃

2020年09月27日 23時35分10秒 | お知らせ
 さて、通年行事たる年内の演奏会はことごとく中止となりまして、何となく心のうちにウロを抱えたような…心もとない秋は来にけり…という中途半端な令和2年9月。

 当ブログでも以前ご紹介いたしました、浮世絵と長唄のコラボライブの企画で、東京都の「アートにエールを!」動画配信プロジェクトに応募いたしました。
 このたび有難いことに、無事採択されサイトに公開されましたので、リモート版「長唄絵合せ」を、皆さまにお届けいたしたく、ご高覧賜れますれば、うれしく存じます。

 お聞きいただきます長唄は「風流船揃(ふうりゅうふなぞろい)」の、抜粋演奏です。
 幕末のペリー来航から3年後の1856(安政三)年二月、二世杵屋勝三郎による作曲作品です。
 1853(嘉永六)年九月、幕府は大船建造の禁令を解き、堰き止められていた奔流が怒涛をうって流るるが如く、開国へ、諸外国との交易・条約締結へと舵を切ります。
 そのような時代背景でありながら(あるからこそ?)、長閑な江戸の掘割や隅田川を行き交う猪牙(ちょき)、荷足(にたり)、網引く漁船、花見の屋形船など、庶民の太平を描く曲が作られたのは、実に興味深いことです。

 今回ご覧いただきます浮世絵は、横山實コレクションのうちより、
  鈴木春信 ◆ 『風流江戸八景 両国橋夕照』(瀟湘八景にちなんだ見立て絵)
  歌川豊春 ◆ 『江戸名所両国の図(花火大会)』(浮絵)
  鳥居清長 ◆ 『見南美十二候 四月』(中判) 御殿山から品川沖の景色
  鳥文斎栄之 ◆ 『隅田川の舟遊び』(大判の五枚続き)
  渓斎英泉 ◆ 『江戸八景 両国橋の夕照』(大判の三枚続き)
  歌川廣重 ◆ 『東都名所 日本橋之白雨』
  葛飾北斎 ◆ 『富嶽三十六景 御厩河岸より両国橋夕陽見』
 以上、制作年代順に表記いたしました。
 横山先生が、風流船揃の歌詞に合わせて選んで下さった、選りすぐりの名品揃いです。

 演奏は、唄:杵屋徳衛、三味線:杵屋徳桜、杵屋徳衛。
 撮影は、深堀篤。
 動画編集は、わが杵徳社中の若手ホープ・鈴木翔媛くんです。
 
https://cheerforart.jp/detail/6833

 風流船揃の歌詞は絵の邪魔になるので、字幕を入れておりません。
 ご参考までに、演奏部分の歌詞をご紹介いたします。

    風流船揃
  …見渡せば 海原遠く 真帆片帆
  行き交う船の数々は かすみの浦に見え隠れ
  白波寄する磯近く 千鳥カモメの浮き姿
  網引く舟や釣り舟の みな漕ぎ連れて往き通う
  眺め のどけき春景色

  …月よ花よと 漕ぎ出だす
  屋形屋根船 猪牙 荷足り
  御厩隅田の渡し舟 
  遥か向こうを 竹屋と呼ぶ声に
  山谷の堀を乗り出だす 恋の関屋の里近く
  花見の舟の向島 軒をならべし屋根船の
  簾のうちの爪弾きは…

  佃 佃と急いで押せば
  また上手から 二挺三味線 弾き連れて
  様は山谷の三日月様よ 
  宵にちらりと見たばかり しょんがいな
  負けず劣らぬ 往き合いの
  船の横から三筋の糸に
  二挺鼓を 打つやうつつの 浪の舟…

  
 YouTubeのサイトでもご覧いただけます。



 何かと心惑うことの多いコロナ禍を、幕末の世情に流されながらも生き抜いた庶民の暮らしぶりに思いを馳せ、令和を生きる心の糧として頂けましたなら、これにすぎるよろこびはございません。
 

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