長生き日記

長生きを強く目指すのでなく良い加減に楽しむ日記

38   『約束の地まで』

2015-12-01 23:09:57 | 日記
高尾文子第五歌集 角川 2015年5月刊
かりんの大ベテランの高尾さんはいつも優しい。が、(が、ではなくて、ので、か)、ともかく筋金入りのクリスチャンでいらっしゃる。その精神からこの世のあり方を前向きに憂いている。なかなかたどり着けない約束の地を目指そうとする姿勢は無理をしないで長生きつづける方針と合致するともいえるだろうか。もちろん現実のもめごととの軋轢はどうしても起こるわけであるが、他陣営(に属しそうな人)をののしり合う生き方とは相いれない。

永久凍土溶けはじめたりうら若き兵のむくろも出てくるだらう
基地の街の聖堂うつむき祈れるは肩にタトゥーの若き米兵
ほんたうの勝利を問へと秋の波うち寄せやまぬ基地の浜辺を
核廃絶と核不拡散この二語の相容れぬ距離に降る蝉しぐれ
百の名山、百の名水、秋澄めば選ばれなかつた山水恋ふる
イタリア半島南下してやさしい雨の降るこの丘に<小鳥の聖人>と逢ふ
夕霧の流らふ湖畔かなたより水上あゆみくる男(を)はなきか
めじろ二羽たれの使者(つかひ)かわが窓にいのち発光しつつ遊べり
空襲に遭ひ原発禍は知らず逝きぬ百年の間(かん)の祖父母ちちはは
古びたる看板<ばてれん食堂>を禁教なき世の島の陽てらす
隠れ言葉もて隠れ部屋に祈るこゑオラショはとほき波音に似て
西海の葡萄酒色に沈む陽よわたしは永遠を見つけるだらうか
あまた尊き脳組織顕微鏡に視ていつかたましひに遇へるや息子
たいせつなものはするりと手より翔(た)つたとへば黒髪さやけき汝れも
シュトルムを読みし青春かへらねば帰らねば秋色深むわが胸
死体の上にまた死体棄て血を流す町ありき遥かなる預言書に
ちさき夢そだてよ佳き児に糧となる本えらびをり聖夜近づく
くさむらの蟻よおまへも約束の地までゆくのか遥かな道を