阿部康男第二歌集 角川2017年2月刊
阿部さんは東京近辺のかりん長老男性の一人。93歳の今も矍鑠と歩く姿は壮年のようである。言いたいことをはっきりおっしゃりながら全体的配慮が優れている方だ。この歌集では、短歌を始められたきっかけであった、今は亡き奥様の病床の様子や一緒にされた旅行の歌、戦地の経験、近年の思いなど様々な題材が取り上げられている。「よっ、どうした、元気か」なんて呼びかけられそうで、本物の長生きの神髄に近づかなくてはと身が引き締まる思いがする。
「
夢てふは届かぬもの」と人のいふつねに抱きて追ひたし吾も
父われとショッピングすれば店員に「奥様」と呼ばれふくるる娘
臼杵湾の海に突き出す亀ケ城キリシタン大名の布教所も在りし
男橋・女橋相会ふところ出会橋ほたる群れ合ひ人も群れ会ふ
柳川のうなぎ屋の家紋「違ひ鷹」わが紋と同じのれんをくぐる
油物喰べてはならぬ妻の食やつと見つけしワイン煮の鶏
「キリスト」と言はずに「神」といふオバマイスラムとの和に秘めし心は
耳許に「いつも居るよ」と囁けば妻はかすかにほほゑみ返す
惨敗に碁石見る気も失せたるに時経ればまたやる気出る不思議
「かまぼこ」の仙崎訪ぬ亡き妻の愛せし金子みすゞの育ちし
満洲で耐寒訓練終へたあと突如転進の命南方戦線へ
船団十艘中古商船の改造ものスクリュー波に浮き速力五ノット
わが隊は台南上陸の米軍に背後ゆ斬込む竹槍訓練
核有(も)たず武器も売らない稀有の国グローバル・プレイヤーたれ我が日の本よ
新年のウィーンフィルのラディッキー満場の手拍子いいな平和は
戦後間なし渡月橋下流で泳ぎたる吾をたしなめ笑ひをりし君
言ひたいこと言ひ合へどしこり残らざる歌会は清(すが)し 世界は混沌
生きるとは何にやあらむとつね想ふ所詮懸命にただ生きること
阿部さんは東京近辺のかりん長老男性の一人。93歳の今も矍鑠と歩く姿は壮年のようである。言いたいことをはっきりおっしゃりながら全体的配慮が優れている方だ。この歌集では、短歌を始められたきっかけであった、今は亡き奥様の病床の様子や一緒にされた旅行の歌、戦地の経験、近年の思いなど様々な題材が取り上げられている。「よっ、どうした、元気か」なんて呼びかけられそうで、本物の長生きの神髄に近づかなくてはと身が引き締まる思いがする。
「
夢てふは届かぬもの」と人のいふつねに抱きて追ひたし吾も
父われとショッピングすれば店員に「奥様」と呼ばれふくるる娘
臼杵湾の海に突き出す亀ケ城キリシタン大名の布教所も在りし
男橋・女橋相会ふところ出会橋ほたる群れ合ひ人も群れ会ふ
柳川のうなぎ屋の家紋「違ひ鷹」わが紋と同じのれんをくぐる
油物喰べてはならぬ妻の食やつと見つけしワイン煮の鶏
「キリスト」と言はずに「神」といふオバマイスラムとの和に秘めし心は
耳許に「いつも居るよ」と囁けば妻はかすかにほほゑみ返す
惨敗に碁石見る気も失せたるに時経ればまたやる気出る不思議
「かまぼこ」の仙崎訪ぬ亡き妻の愛せし金子みすゞの育ちし
満洲で耐寒訓練終へたあと突如転進の命南方戦線へ
船団十艘中古商船の改造ものスクリュー波に浮き速力五ノット
わが隊は台南上陸の米軍に背後ゆ斬込む竹槍訓練
核有(も)たず武器も売らない稀有の国グローバル・プレイヤーたれ我が日の本よ
新年のウィーンフィルのラディッキー満場の手拍子いいな平和は
戦後間なし渡月橋下流で泳ぎたる吾をたしなめ笑ひをりし君
言ひたいこと言ひ合へどしこり残らざる歌会は清(すが)し 世界は混沌
生きるとは何にやあらむとつね想ふ所詮懸命にただ生きること