杉本さなえ作品集 「Close to my ears」のこと。
今回の本「Close to my ears」は
4年前に尾道の紙片さんで開催された個展の展示作品、全てを掲載しています。
当初は紙片さん単独発行の予定でしたが、やりとりをしていく中で
紙片さんとうちと共同発行というやり方で出版することになりました。
11/20の発売以来、しばらくは紙片さんのみで販売してましたが
12/5から当店でも販売がはじまりました。
ありがたいことに、本についてお問い合わせ頂くことが増えてきましたので
本の周辺のことをすこし書いてみようと思います。
お問い合わせの内容はいたってシンプルなものが多いです。
ただ、自分の場合、シンプルにお返事するのが不得意なので
ひとりひとり、すごく長い文章でお返事をしています。
(メールが届かなかった方も若干います、すみません)
そして、いまから書く文章もシンプルな内容ではないので
曖昧で回りくどく、わかりにくいと思いますし
疑問にお答えしているものではないかもしれません。
できればじっくり読んでもらえたらうれしいです。
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これまで、うちの店では15冊の本を作ってきて
新しい本を作る度に展覧会も開催してきました。
今回の本のように自分のお店でなにもイベントや展覧会をやらずに
普通の営業の中で普通に並べて売るというのは初めての試みで
これはこれでなかなか新鮮でおもしろく、とても心地よいです。
新しい本を作ると、人に見せたくなってしまって
ついつい光を当てたくなってしまいます。
これ自体、とても健康的で自然な行為だと思っています。
今回も例外ではなく、やっぱり見てもらいたいし、見てもらえたらすごくうれしいです。
正直なところ、もうちょっと、じゃーん!と紹介してみたい気もします。
ただ、いつもとちょっと違うのは、ぼくがこの本に感じているもの。
4年前に紙片で開催された杉本さんの個展を観たときに感じたもの。
なんとなくその辺のことがずっと頭の中をぐるぐるしています。
4年前の個展の空間に杉本さんのこんな言葉がありました。
”しずかに
耳をとじて
目をひらいて
それでもかすかに
きこえてくるもの”
杉本さんの絵を感じ、紙片さんの空間を感じたとき
この言葉がじわじわと沁みてきて
ぼーっとしてしまって、もうなんにもやりたくなくなりました。
無気力ではなくて、ものすごく心地よい感覚。
こんなにも静かでよかったのか、という感動、驚き。
あの頃、なにか音を発さないと気付いてもらえない気がして
お店としても個人としても じたばたしていた時期だったんだと思います。
正直、いまもそういうことは多々あるので
相変わらず自分には杉本さんと紙片さんがやったようなことはできないけど
それでも、あんな出来事に出会えたこと、立ち会えたことは
自分のなかでとても大切な宝物のようになっています。
だから、なんとなくの感覚ではありますが
今回の本は、紙片さんとうちの店の店頭販売のみで充分な気がしました。
(なんなら紙片さんだけで充分とも思っています)
自分たちが慌てなくても騒がなくても、ほんとにあるのかわからないくらいの存在感で
それでも どこかのだれかに気付いてもらって、時間が経って、忘れられたり思い出してもらえたりして
そしていつかまた、だれかにばったり見つけてもらうくらいがちょうどいいような。
いま、この情報を知らない未来のだれかにも届くような時間の流れで
いまだけではない たくさんの時間の中で、一人の人間の中に流れるたくさんのタイミングの中で
偶然だったり必然だったり、作り手の熱や時間軸とは無縁な世界で
わずかに交差する時間の中で出会えることがあってもいいんじゃないかと考えています。
こんな状況でこんな不便なやり方をしてしまってとても心苦しいのですが
いまはこんな感じがしっくりきているので、ご理解頂けたらありがたいです。
あと、うちの店は現在、期間限定営業なので たまにしか開いてないですし
そもそもが不便な上に、こんな不便なやり方なので売り切れることがあるとしたら
それはずーっと先のことだと想像しています。もちろん、約束はできないのですが。
いつか、現在のこの状況が落ち着いたときにでも
実際に触れて、ゆっくり見てご判断頂ければ幸いです。
この作品が生まれた尾道の紙片さんと、
共同発行元である当店の店頭のみで販売しています。
当店は、12/29(火)まで14時-20時で営業しています。
(水曜定休と、12/19(土)、20(日)も休みます)