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流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

和のエクササイズ

2011-01-10 | 読書
 先日、テレビ番組で、地震体験をする部屋の中に男女、職業を問わずさまざまな人が入って、誰が最後まで立ち続けていられるかという実験をやっていた。
 なかにはスポーツで身体を鍛えた屈強な学生や立ち仕事が多いガードマンや料理人なんて人たちもいたのだが、激しい振動にもめげず最後まで涼しい顔で立っていたのは何と可憐で細身のバレリーナの女性だった。
 これはバレエダンサーがその鍛錬によってインナーマッスルを鍛えているからだということだ。身体を支え、バランスをとるのは、二の腕の筋肉や腹筋ではない。この番組は身体の内側の筋肉を鍛えることが大切だということを解説するためのものだったのである。

 こうした効用はなにも西洋のバレエやダンスに限らない。日本の舞踊や和の所作の中に身体の機能を高める力があるということを能楽師の安田登氏がその著作「身体能力を高める『和の所作』」(ちくま文庫)で書いている。
 この本ではインナーマッスルを深層筋と表記しているが、能楽師が80歳、90歳になっても颯爽と舞っていられるのは、表層筋だけに頼らない独特の所作によるものだというのである。
 その所作の代表的なものとしてこの本では「すり足」を中心に取り上げ、そのエクササイズの方法を示している。
 そうした訓練によって、代表的な深層筋である大腰筋を鍛え、呼吸を深くすることで集中力を高め、持久力のある身体をつくることができるというのである。

 「すり足」は簡単なようで一朝一夕に身には着かない。私など足元に気をとられると必ず背中が丸まってしまい、みっともないことこのうえない。やはり、若い時からちゃんと勉強しておくのだった。
 この「すり足」は思えば相撲や剣道など日本古来の武術においても特徴的なもので、これは文化に深く根ざしたものなのだろう。

 竹内敏晴氏はその著作「教師のためのからだとことば考」(ちくま学芸文庫)のなかで日本人の基本姿勢について次のように書いている。
 「ヨーロッパ人の姿勢の基本は、キリスト教会のように、上へ上へと伸びあがります。そのいちばんはっきりした例はバレエでしょう。爪先立ち、胸は高く支えられ、頭はもたげられる。そして手は水平に、無限のかなたへ向かってさしのべられる。歩くにも腰から動き、膝を前へのばし、後足で大地を蹴り、腕を振る。つまり大地は人がそこから出発し飛躍する地点です。
 日本人の基本姿勢は、腰を割り水平に支えたまま、膝をゆるめ、足のうらを大地にぺちゃりとつけ、上体はゆるめて腰にのせておく。歩く時は腰を水平に保ったままややがにまた風に、ほとんど手は振りません。歌舞伎や日本舞踊の基本はみなこれです。これは大地に苗を植え泥に踏みこむ水田農耕民の姿であり、大地は帰るところ、同化する相手だといえましょう。」

 こうした基本姿勢は日本人の文化に由来するものであり、身体の動きを規定する思想でもあるのだろう。
 それは暗黒舞踏など、日本で発祥した現代の舞踊ジャンルにも色濃く反映されている。

 思えば今日は成人の日である。今年の成人は124万人、4年連続で減少を続けているとのことだが、街には和服姿の若者があふれているだろう。
 すでに荒れる成人式のニュースが流れているが、注目するマスコミに軽薄なワカイモンが煽られている面もあるような気もする。
 和の装いに相応しい振る舞いを身につけるためにも、彼らには是非「すり足エクササイズ」と呼吸法の習得を勧めたい。


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