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流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

夏の夜の映画会

2012-08-23 | 映画
 8月18日(土)の夜、「にしすがも創造舎」(豊島区西巣鴨)で開催された「夏夜の校庭上映会」を楽しんだ。
 ご存じのとおり、元・中学校の閉校施設を文化創造拠点に転用したこの「にしすがも創造舎」だが、ちょうどこの日まで、様々なジャンルのアーティストとともに「としまアート夏まつり2012」を開催しており、この「夏夜の校庭上映会」がそのフィナーレとなる催しなのだった。
 星空のもと、夏草の香る校庭に敷かれたシートや椅子でゆったりとくつろぎながら、設えられたスクリーンや校舎の壁に大きく投影される短編アニメーションを楽しむという趣向である。
 あいにく、この日の午前中は雷を伴った豪雨が東京近県を襲い、開催も危ぶまれたほどだったのだが、午後遅くなってからは一転青空が広がり、上映も無事に行われた。
 上映されたのは、ナガタタケシとモンノカヅエの二人によるユニットであるトーチカ、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した和田淳、世界中の映画祭で高く評価されている水江未来らの作品。
 この日は、水江未来氏がトーク・ゲストで登場、作品解説をはじめ、パソコンの前に手をかざしたり、動かしたりすると、投影される映像や音が様々に変化するパフォーマンスなどで来場者を楽しませた。

 個人的には、ペンライトの光で絵を描き、それをアニメーション化したトーチカの「PiKA PiKA」がとても好きだったけれど、そのほかどれもが面白い作品だった。
 とりわけ、水江氏の特徴である、細胞や幾何学模様の形が変幻自在に増殖し変化する映像が校舎の壁全体に映し出される様は、まるで建物そのものが異次元のものに変容したようで、観るものを日常とは違った世界に迷い込ませる。
 その校舎の周りには巨大なスクリーンを縁取るように夜空が広がっているのだが、この日は風が強く、その空を流れる雲が風に煽られて様々に形を変えていく。それ自体がそのまま自然現象の造りだしたアニメーション作品のようで圧巻だった。

 一定の年代以上の人々には、夏休みによくこんな星空の映画上映会が学校や公民館で行われた記憶があるのではないだろうか。
 映画の「ニュー・シネマ・パラダイス」には、映画館に入れず路上にあふれた人々のために、主人公の映写技師が気を利かせて、鏡を使って建物の壁に映画を映し出してやるシーンがあった。
 ビクトル・エリセ監督の「ミツバチのささやき」では、村の公民館にやってきた移動映画の「フランケンシュタイン」に魅せられる少女の姿が描かれていた。
 この日の「夏夜の校庭上映会」を観ながら、そんな昔の光景を懐かしく思い出していた。昨今のアミューズメントパーク化したシネコンでの映画鑑賞などではなく、もっと昔の、素朴で原初的な映画の楽しみが横溢していたように感じられたのだ。

 そういえば主催者からのアナウンスは特になかったのだけれど、「にしすがも創造舎」のあるこの場所は、戦前期、大都映画の撮影所だった場所でもある。
 決して芸術的ではない、チャンバラ映画や今でいうヒーローものやドタバタ喜劇など、B級映画を量産し、大衆の喝さいを浴びたという。
 この日の短編アニメーションは、いずれも手作り感にあふれた作品ばかりで、手描きの一枚一枚を積み重ねながら映画を作り上げるという楽しみを感じさせてくれるものだった。そういったワクワク感はどこか深いところで、大都映画撮影所の記憶と通底しているのではないか、そんなことを考えさせられる。
 とても素敵な一夜、夏の夜の夢だった。