坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

アンフォルメルとは何か? 20世紀フランス絵画の挑戦 展

2011年03月02日 | 展覧会
戦後パリにおいて、旋風を巻き起こした美術運動〈アンフォルメル〉。アメリカではポロックら抽象表現主義が新たな絵画のビジョンを打ちだしていました。同時発生的に抽象的な広がりの幕が開けられました。絵画は外界を映す窓ではなく、筆のストロークを大きく躍動させたり色彩そのものの鮮烈さを画面いっぱいに炸裂していきます。それは身体的と言ってもいいでしょう。
アンフォルメルは不定形と訳され、美術評論家、ミシェル・タピエが先導し、ジャン・フォートリエやヴォルスらが中心となって、厚塗りの画面に落書きをするかのように削ったりして、物質感を強調する絵画を生み出しました。
1950年代から60年代、当時パリにいたドイツのアルトゥングやイタリアのルーチョ・フォンタナ、ロシアのポリアコフ、中国のザオ・ウーキー、日本の堂本尚郎、今井俊満らもその運動に賛同し大きな波を起こしていきます。
戦前の抽象絵画がモンドリアンらが推進した幾何学的な抽象とは異なり、理性ではとらえられない意識下の心の状態を前面に押し出していきました。より原初的な力強さを感じさせる作品群は、現代においても新たなインスピレーションを起こしてくれることでしょう。

◆アンフォルメルとは何か? 20世紀フランス絵画の挑戦/4月29日~7月6日/ブリヂストン美術館(東京・京橋)

ゴッホ「薔薇」

2011年03月01日 | 展覧会
印象派、ポスト印象派の代表作の来日が期待されるワシントン・ナショナル・ギャラリー展。掲載作品のゴッホの「薔薇」(1890年)も見どころの一つです。「ひまわり」や「アイリス」のシリーズと並ぶバラの連作もゴッホの代表作です。
精神を病み、サン=レミの精神療養院に入院したゴッホは、この作品が描かれる退院前の数週間は制作意欲も旺盛で代表作の数々を制作しました。
この1年前に同タイトルで制作された作品は、国立西洋美術館に収蔵されていて、療養院の庭の一隅を切り取っています。花瓶に活けられた本作は、「ひまわり」が南フランス、アルルの太陽を象徴していた黄色とは対比的に、明るい緑と白が鮮やかです。ゴッホにとって花の連作は精神の高揚を表し、この作品でも春の訪れとともに健康の回復への喜びが表わされています。
室内画でありながら、一陣の風が画面に舞いこみあふれんばかりに咲き誇る花を揺らし、画面は大きく力強いタッチで塗り込められています。