坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

ゴッホ「薔薇」

2011年03月01日 | 展覧会
印象派、ポスト印象派の代表作の来日が期待されるワシントン・ナショナル・ギャラリー展。掲載作品のゴッホの「薔薇」(1890年)も見どころの一つです。「ひまわり」や「アイリス」のシリーズと並ぶバラの連作もゴッホの代表作です。
精神を病み、サン=レミの精神療養院に入院したゴッホは、この作品が描かれる退院前の数週間は制作意欲も旺盛で代表作の数々を制作しました。
この1年前に同タイトルで制作された作品は、国立西洋美術館に収蔵されていて、療養院の庭の一隅を切り取っています。花瓶に活けられた本作は、「ひまわり」が南フランス、アルルの太陽を象徴していた黄色とは対比的に、明るい緑と白が鮮やかです。ゴッホにとって花の連作は精神の高揚を表し、この作品でも春の訪れとともに健康の回復への喜びが表わされています。
室内画でありながら、一陣の風が画面に舞いこみあふれんばかりに咲き誇る花を揺らし、画面は大きく力強いタッチで塗り込められています。