我が家の地球防衛艦隊

ヤマトマガジンで連載された宇宙戦艦ヤマト復活篇 第0部「アクエリアス・アルゴリズム」設定考証チームに参加しました。

アキヅキ級宇宙駆逐艦/ユウバリ級護衛巡洋艦 中編

2013-12-21 22:21:17 | 1/1000 完結編駆逐艦(岡山のプラ板使い)


 太陽沖会戦の結果を受け、各国向けに大量建造されたユウバリ級護衛巡洋艦であったが、その結果が同級に更なる運命を供することになる。それは、ユウバリ級を次世代新型艦艇のタイプシップとして採用したいという地球防衛軍からのオファーであった。
 元々、ユウバリ級建造の契機となった『星系間護衛艦艇調達助成制度』は地球防衛艦隊の次世代外宇宙用艦艇のテストベッドという目的があった。当初の計画では、地球防衛軍は各国建造艦の設計・建造・運用データを全て吸い上げた上で、決定版ともいうべき艦を新規設計することを予定していた。
 しかし、ユウバリ級の完成度の高さ、戦場での実績、既に三〇隻を超える建造隻数や調達・運用コストがその目論見に大きな修正を加えさせることになる。新規設計による建造を断念し、ユウバリ級に小改良を加えた艦をそのまま地球防衛軍正式艦艇として採用する計画が俄に持ち上がったからである。
 この時点でユウバリ級の輸出価格は、護衛戦艦中、最も安価とされた英国POW級の輸出価格の1/2、在来の中型艦艇では比較的高価とされたオマハ級哨戒巡洋艦の調達価格の約2倍であったとされる(運用コストはオマハ級を下回ってすらいた)。
 地球防衛艦隊から艦政本部へと提示された新型艦艇の要求性能には、当初から各種装備・仕様の詳細と共に、目標とする建造予算が具体的に明示されおり、その額はユウバリ級最新バッチの輸出価格に他ならなかった。
 しかし、この防衛艦隊からの提示に対し、艦政本部は要求仕様を満たす新規艦艇の設計を期日までに完成させることは不可能であると回答。しかし、代案として既存艦艇の改設計案を提示してきた――俗に“改ユウバリ級”と呼ばれる設計試案である。
 だが、本試案を地球防衛艦隊は過去の例からすれば俄に信じ難いほどの短期間で了承していることから、事前に防衛艦隊と艦政本部の間で何らかの取り決めが為されていたと推測される(現在に至るも、決定経緯の詳細は明らかにされていない)。
 当時、艦政本部では後の“ローマ級主力戦艦”及び“アムステルダム級戦闘巡洋艦”の設計作業が大詰めを迎えており、新たな艦艇を設計する人員的余地に乏しかった。また、防衛艦隊も太陽沖会戦の戦訓から波動砲非搭載艦に対する評価を大きく改めていたことから、図らずも両者の思惑が一致し、改ユウバリ級の採用に至ったと思われる。
 オリジナルのユウバリ級からの小改良は日本国ではなく防衛軍艦政本部が行い、建造についても世界各国で行われるが、建造毎に多額のロイヤリティが支払われることが日本国へと告げられた。



 この通達に日本国は大きな喜びに包まれた。更に、ユウバリ級に対するオファーが“巡洋艦”としてではなく“駆逐艦”としてであったことも、その喜びを一層大きなものとしていた。既に公表されている地球防衛艦隊の次世代計画艦艇は“主力戦艦”“戦闘巡洋艦”“汎用駆逐艦”の三艦種であり、当然のことながら、その中でも最も多く建造されるのが駆逐艦であったからだ。
 だが、建造計画が実動し、地球防衛軍から小改良後の最終決定図面が日本国に配布されると、ユウバリ級設計チームのメンバーは驚愕した。中でも、チームを率いた設計主務者は決定図面を目にした瞬間、『これではまるで――モニター(砲艦)だ』と呻いたとされる。
 彼にそう呻かせたのは、艦の前部甲板に鎮座した巨大な主砲塔の存在だった。その主砲は新開発の一六インチショックカノン連装砲――ローマ級主力戦艦やアムステルダム級戦闘巡洋艦に搭載されたものと同一口径の巨砲であった。
 エネルギー供給や艦バランスの限界から、搭載された砲塔は一基のみであったが(実際には、若干の機動性低下や航空艤装を削減すれば、もう一~二基程度の主砲塔の増備は可能だった)、それが逆にこの艦の異形さを際立たせる結果となっていた。
 だが、この思いもよらない地球防衛軍による設計変更も、理由を辿ればユウバリ級を普及させるに至った“太陽沖会戦”へと行き着くことができる。
 太陽沖会戦において、ボラー本国艦隊の巧みな艦隊運動によって波動砲を戦術的に封じられた地球防衛艦隊は、ショックカノンの射程と威力を活かしたアウトレンジ射撃を徹底していた。いや、徹底せざるを得なかった。
 彼我の戦力比は一対五以上――真正面からがっぷり組んで撃ち合えば、数に劣る地球防衛艦隊の敗北は必至であり、それ故に地球艦は可能な限り遠距離で敵の数を撃ち減らすことに全力を傾けた。
 しかし、ボラー艦艇はガルマン・ガミラス程ではないにせよ艦の規模が大きく、防衛艦隊の中小艦の主力火砲、五~八インチショックカノンでは戦闘不能(撃沈ではない)に至らしめるまでの所要弾数量は膨大なものとなった。確かにそれらの砲でも中型以下(といっても地球戦艦並みのサイズを誇る)のボラー艦艇に対して射程でも威力でも優越していたが、アウトレンジで撃破するまでに艦サイズ相応の耐久力を発揮するボラー艦艇の射程内にまで踏み込まれ、逆に地球艦艇が撃破されてしまうケースも少なくなかったからだ。
 同会戦にて大きな戦果を上げたユウバリ級にしても、ボラー艦の射程内で激しく殴り合っており、もし同級が従来艦よりも数段進歩したエネルギーシールドを装備していなければ、確実に撃沈されていたとも指摘されている。
 それらの戦訓に対する地球防衛軍艦政本部の回答が改ユウバリ級への大口径ショックカノンの搭載であった。その点でいえば、本級は次世代外宇宙用艦艇であると同時に、数で勝るボラー連邦艦隊との大規模会戦を強く意識した艦であったと言える。
 会戦においては、本級は駆逐隊(三~四隻)毎に統制射撃を実施することを基本戦術としていた。“駆逐隊”という戦術単位で見た場合の砲撃力(一六インチショックカノン六~八門)は主力戦艦クラスと比べても遜色なく、地球防衛艦隊は本級を単艦運用する平時は汎用艦として、大規模会戦時には駆逐隊単位で用いる決戦艦として認識していたことが読み取れる。それは、従来の地球防衛艦隊が駆逐艦に強く求めた“突撃艦”とは対極に位置する思想であり、僅か数年の内に地球防衛艦隊のドクトリンが大きく変貌したことを証明している(ガミラス戦役以来、地球防衛艦隊が愛した突撃艦の系譜は、一度ここで途切れることになる。その復権は2020年代の“カイリュウ級突撃ミサイル艇”の登場を待たねばならない)。
 しかし、あまりに巨大なアキヅキ級の主砲は、平時任務においては威力の点で、戦時においては発射速度の点で運用上の問題が生じる可能性が実戦部隊から指摘されていた。事実、その懸念は実戦部隊――地球防衛艦隊の中小型艦々長や艦長経験者――から多数寄せられており、その中に、第三次冥王星会戦において本級の“フユヅキ”を率いることになる水谷二佐の名があったことは、歴史の皮肉として後世にもよく知られている。
 艦政本部が行ったユウバリ級護衛巡洋艦から改ユウバリ級への改良は、主砲の変更を除けばコスト低減を目的とした補助エンジンの削除以外、驚くほど少なかった。ある意味、それはオリジナルであるユウバリ級の完成度がそれほどまでに高かったことの証左と言えるだろう。



 そして2206年4月、改ユウバリ級は“アキヅキ級宇宙駆逐艦”として正式採用に至る。アキヅキ級の全長はユウバリ級と同様の220メートル。そのサイズはガミラス戦役時の主力戦艦『カイザー型指揮戦艦』の205メートルを上回っており、就役当時は『戦艦よりも巨大な駆逐艦』としてマスコミに取り上げられることも多かった。
 アキヅキ級の建造は2206年以降急ピッチで進められ、2207年のディンギル戦役勃発時、既に一六隻が就役済みであった――。


〇第三次冥王星会戦
 アキヅキ級就役開始直後に勃発したディンギル戦役は、同級にとってはいきなりの試練となった。
 母星の滅亡に伴い、地球への移住を目指す閉鎖的軍事国家――ディンギル帝国は、全地球人類の抹殺を目的とした大規模攻撃を開始。この攻撃は完全な戦略的奇襲となり、地球防衛艦隊は各地で窮地に立たされた。特に土星圏での大規模会戦では、人類の一時避難先となっていた軌道コロニーと避難船団を救出すべく内惑星艦隊主力が急行したものの、ディンギル機動艦隊の伏撃を受けて壊滅的損害を受けてしまった。
 その後、ディンギル機動艦隊は地球と月への大規模攻撃を敢行。都合一週間にも及んだ連続攻勢では、各地の航宙関連設備が集中的に狙われ、一時的にではあったが地球・月の稼働宇宙戦闘艦戦力はほぼゼロという状況にまで追い詰められてしまう。
 その間、地球防衛艦隊も残存する太陽系外周艦隊を中心に反撃を図ったが、奇襲に伴う命令系統の混乱から攻撃は統制の取れない散発的なものとなり、逆に数で勝るディンギル帝国軍に各個撃破の好機を与えてしまう結果となった。
 純軍事技術的にみれば地球に劣る部分すら多数抱えたディンギル帝国軍であったが、その投入物量は圧倒的の一言に尽きた。彼らに守るべき母星は既に無く、地球への奇襲攻撃には彼らの保有する全機動戦力の実に90%以上が叩き込まれていたからである。
 宗教的背景に起因する強固な閉鎖性故、単一星系国家から遂に脱皮することのなかったディンギル帝国であるが、その閉鎖性は他星系国家に対する極端なまでの攻撃性と表裏一体でもあった。その結果、彼らの軍事力は単一星系国家としては破格の規模であり、この時期、既に多星系国家(星間国家)へと歩みだしていた地球連邦と比較しても、特に規模の面で圧倒していた。
 圧倒的物量、そして戦略的奇襲の成功も相まって、ディンギル帝国軍は緒戦において地球軍事力の封殺にほぼ成功する。数少ない例外は、戦役勃発に先立つ偶発的遭遇戦によって大破し、地下ドックで修理中だった宇宙戦艦ヤマト、そして月の大深度工廠で精密点検中だった新鋭の一個宙雷戦隊のみであった。
 これらの僅かな戦力が臨時混成部隊“第一遊撃部隊”として再編され、緊急出動を果たしたのは、ディンギル機動艦隊の地球圏撤退から僅か一週間後のことであった。彼らの任務は、地球人類の封じ込めを図るディンギル帝国軍の太陽系封鎖線を突破、ワープによって人為的な急接近を続けている水惑星“アクエリアス”の地球接近阻止であった。



 しかし、ヤマトの修理が未了(波動砲使用不可)であることを筆頭に、部隊としてのコンディションは最悪だった。各艦共に修理中や点検中の状態から強引に動員された為、人員・弾薬・物資共に最低限の水準をようやく満たしているに過ぎず、特に乗員が定数を大きく下回っていることは、被弾時のダメージコントロールを考えると大きな不安があった。
 しかし、今度は迎え撃つ立場となったディンギル機動部隊も万全には程遠い状態だった。その最大の原因は、地球宇宙戦力の封殺という戦略目的達成にあたって強いられた、あまりにも膨大な損害にあった。
 完全喪失四割・損傷二割という損害は、軍事的には“全滅”を通り越して“壊滅”にも近く、通常の軍隊であればとっくに機能不全に陥っているところだ。
 その結果が示す事実は二つ。
 これほどの損害を受けても尚、未だ軍としての組織と機能を維持しているという点で、ディンギル帝国軍の組織・命令系統が非常に強固であること(“硬直”の裏返しでもあったが)。
 そしてもう一つは、地球軍事力の予想を超えた“強靭さ”“獰猛さ”であった。
 圧倒的多数から奇襲を受けた地球防衛軍は、各部隊・各艦が孤立した状態にあっても非常に頑強であり、ディンギル帝国軍に大量の出血を要求した。事実、戦役後の調査で判明した地球とディンギルの中型艦以上の損害比率は、地球側の圧倒的劣勢下という状況の中でも、地球『1』に対してディンギル『3』にまで達していたとされる。
 この結果、太陽系を一時離脱した時点で、ディンギル機動艦隊の稼働戦力は開戦時の四割にまで低下していた。しかも、その内の更に1/3をディンギル軍本隊である『都市衛星ウルク』の直衛に充てることになり、機動艦隊の戦力低下は一層深刻化していた。
 しかし、当の機動艦隊指揮官“ルガール・ド・ザール”はこの時点で地球艦隊の壊滅を確信しており、自軍戦力が危険なまでに低下していることについても、殆ど不安を覚えていなかったとされる。それは、ヤマトを主力とする第一遊撃部隊の存在を探知した後も変化はなく、寧ろたった一〇隻に過ぎない艦隊編成から、新たな各個撃破の好機として麾下部隊の補給と出撃を急がせた。

 冥王星宙域で激突した両軍の戦略目標は非常に明確だった。地球艦隊はディンギル機動艦隊の突破(ディンギル艦隊撃破は副次的な目標に過ぎない)であり、対するディンギル機動艦隊の目標は地球艦隊の殲滅、ただ一点であった。
 ディンギル機動艦隊の戦力が激減している現状(開戦時の三割以下)にあっても、未だ物量という点で圧倒的に劣勢な第一遊撃部隊であったが、自らディンギル艦隊へ突撃するような航宙軌道を採っていた。
 第一遊撃部隊としては、仮に太陽系外縁に遊弋しているディンギル機動艦隊を避けてアクエリアスへ直接アプローチした場合、アクエリアスを直衛しているディンギル軍と追撃してくる機動艦隊に挟撃されてしまうことを強く懸念していた。それならば、機動艦隊を一撃することで混乱(無力化ではない)を惹起、その隙にアクエリアスへの到達と直衛戦力の各個撃破を狙ったのである。
 これに対しディンギル軍は、当初は地球艦隊の接近軌道を訝しんだものの、彼らの本来のドクトリンが“伏撃”であったことから、ある意味嬉々として迎撃準備を進めた。その主力は、彼らの唯一無二の対艦決戦兵器“ハイパー放射ミサイル”と、それを各二発搭載した“グティ級重宙雷艇”五〇〇余隻であった。
 宗教的背景から長年に渡り鎖国を続けていたディンギル帝国にとって、自らのテリトリーへの侵入者は絶対悪であり、問答無用で殲滅すべしとされていた。その為に開発された兵器が、大威力の対艦誘導弾であるハイパー放射ミサイルと、そのキャリアーであるグティ級重宙雷艇である。
 その開発コンセプトは、侵入者に通信という名の悲鳴を上げる暇すら与えず一撃で撃沈可能な大威力と弾頭起爆時に撒き散らされる放射性物質による高い殺傷性、そして命中直前まで攻撃を気取らせない高度なステルス性にあった。
 ディンギル星系でヤマトが受けた奇襲や、土星圏での戦闘で内惑星艦隊主力が受けた伏撃も、地球艦艇はミサイルの命中直前までその存在を探知することができず、その有効性を証明している。更に、戦役後の調査で、過去にディンギル星系へ偶然侵入してしまったボラー連邦やガルマン・ガミラス帝国、更にはデザリアム艦艇が一切気取られることなく撃沈されていたことも判明した。それらの艦は、攻撃を受けたという至急報すら発信できないまま悉く撃沈されており、各国で“事故”として処理されていた。

 しかし、ディンギル帝国におけるステルス技術の研究は、ミサイルや艦艇といった兵器単体レヴェルに止まらなかった。彼らは、暗黒物質にも似たガス状の欺瞞物質を開発、それを星系内に大量散布することで、自星系そのものをほぼ完全にステルス化していたのである。この物質は、無差別ワープによって偶然ディンギルが存在する星系(アンファ星系)内に飛び込んでしまったヤマトによって赤色ガスとして初めて観測され、戦役後の調査で星系ステルス化技術の存在と効果が初めて確認された。
 ディンギル星を含むアンファ星系は太陽系から僅か三千光年という比較的近傍に位置するにも係らず、太陽危機における『第二の地球探し』においても、その存在を一切気取られていなかった。それは、この近傍宙域の支配権を争っていたボラー連邦やガルマン・ガミラス帝国も同様であり(バース星が存在したバジウド星系はアンファ星系より僅か二千光年の距離にあった)、その事実からもディンギル帝国の欺瞞技術の有効性は証明されている。

 一方のグティ級重宙雷艇も、ハイパー放射ミサイルを隠密裏に運搬・投射することに性能・仕様を特化させており、伏撃に使用するには最適な兵器であった。しかし、言い換えればステルス性以外の性能――防御力や機動力といった生存性――は極限まで切り詰められており、ある意味ではディンギルという名の帝国の実態を最も如実に示す兵器とも言える。



 冥王星域へと侵入した第一遊撃部隊は直ちに艦載機隊を発艦、部隊前面へ防空バリアーを展開した。艦載機隊はヤマト固有の航空隊に加えて、宙雷戦隊が月面の航空隊(の生き残り)から根こそぎ掻き集めて満載したコスモ・タイガーⅡ約六〇機であった。
 これに対し、ディンギル機動艦隊は展開が遅れ気味だった。主力たる重宙雷艇こそ発艦と布陣を完了していたものの、これを支援するはずの空母艦載機隊(戦闘機と戦闘攻撃機が主力)の進撃が遅れていたのだ。
 その結果、会戦序盤において単独で強引に突破を図った重宙雷艇集団は地球側防空隊にまともに捕捉され、大きな損害を被ってしまう。その損害数が百を超える頃、遅れていたディンギル軍制空隊がようやく戦場に到着。その圧倒的機数で地球艦隊の防空バリアーを突き崩すことに成功する。
 制空隊が切り開いた血路から奔流のように突撃してくる宙雷艇は未だ三百隻を遥かに上回っており、僅か一〇隻に過ぎない地球艦隊に“数”の暴力を叩きつけようとしていた。
 この頃から、地球艦隊も主砲・副砲による防空射撃を開始していたが、その戦果は決して芳しいものではなかった。確かにヤマトであれアキヅキ級であれ、その主砲射撃が命中すれば一撃で宙雷艇を撃沈、いや掠めただけで轟沈することができた。命中精度にしても、従来よりも著しく進化したFCSの精度に宙雷艇の機動力の乏しさも加わって、ほぼ百発百中という状況だった。しかし――多方位に分散した宙雷艇の数に対して圧倒的に手数が乏し過ぎた。
 本来ならば、こうした状況は波動カートリッジ――その中でも、拡散特性を持たせた波動エネルギーを充填した“コスモ三式弾”――の想定する戦術状況そのものであったが、この時、第一遊撃部隊各艦は殆ど波動カートリッジを搭載していなかった。僅かな例外はヤマトが搭載した主砲用の新型波動カートリッジ弾が僅か二斉発分のみであり、アムステルダム級とアキヅキ級に到っては、主砲用は元より宇宙魚雷用まで含めて搭載皆無という状況だった。
 ヤマト以外の艦は、直前まで就役後初の精密点検の為に月の大深度地下ドックに入渠しており、搭載弾薬の大半を陸揚げしていた。不運にも、ディンギル機動部隊による地球・月への大規模攻撃によって月の宇宙艦艇用弾薬庫が喪われた為、波動カートリッジ用弾頭を再搭載することができなかったのである。
 その不運を、第一遊撃部隊は己が身を以って味わうことになった。未だ二〇〇隻以上の重宙雷艇の群れが必殺の長槍――ハイパー放射ミサイルの投射を次々に開始したからだ。
 その投射は、射程に達した宙雷艇から各個に行うというもので、地球防衛艦隊のお家芸の一つ、“統制宙雷戦術”と比べれば稚拙極まりないものであった。しかし、ディンギル帝国側は全く気にしなかった。彼らは、自身のドクトリン――多方位からの飽和攻撃――に絶対的な自信を持っていた。
 波状的に放たれたハイパー放射ミサイルの総量は最終的に四八四発。結果的に第一遊撃部隊は対陣した重宙雷艇の凡そ半数の発射阻止に成功したが、絶対量で言えば未だ“焼け石に水”に過ぎず、これ以降は阻止対象を宙雷艇からミサイルへと変更することになる。
 しかし、敵艦深くに食い込んで二重弾頭を起爆させるハイパー放射ミサイルは非常に強靭な外殻を備えており、通常の防空ミサイルやパルスレーザーは明らかに威力不足だった。その結果、迎撃はソフトキルと手数の限られるショックカノンに頼らざるを得なかった。
 砲やミサイルによる直接迎撃に比べ、一見地味にも思えるソフトキル(各種の誘導攪乱)だが、ディンギル帝国の電子技術が地球に対し相対的に劣っていたことから、結果的には最も大きな効果を発揮した。本会戦の記録映像を見ても、“ミサイル(誘導弾)”である筈のハイパー放射ミサイルが、まるで無誘導のロケット弾のように直線的に飛び去っていくシーンを多数確認することができる。戦後の調査でも、ソフトキルによって実質的に無力化されたミサイルは三〇〇発以上にも及んだと結論付けられている。
 ――しかし、それらの努力を以ってしても、五〇〇発近い対艦ミサイルの群れを完全に押し止めることはできなかった。
 十重二十重の迎撃を潜り抜け、命中を果たしたハイパー放射ミサイルは一一発。命中率はディンギルが本会戦に投入したミサイル総数(約一千発)から逆算すれば、僅か一パーセントに過ぎない。ある意味、ガミラス戦役後に再建された地球防衛艦隊がこの七年間で重ねてきた技術的・技量的研鑽を物語る数字といえる。
 だが、それを達成した第一遊撃部隊にとっては何の慰めにもならなかった。命中を果たした一一発の超大型対艦ミサイルは部隊に情け容赦のない破壊と殺戮をまき散らしたからである。
 最新鋭のローマ級主力戦艦ですら僅か二発で戦闘能力喪失、四発以上の被弾で撃沈確実と言われるハイパー放射ミサイルの威力は圧倒的だった。被弾は宙雷戦隊に集中し、戦隊旗艦として部隊先頭に位置したアムステルダム級戦闘巡洋艦“ヤハギ”には実に四発のミサイルが命中、一瞬で爆沈した。その他にも四隻のアキヅキ級が一発乃至二発を被弾し、最終的に全艦が喪われている。



 命中弾が一どきに集中したアムステルダム級はともかく、アキヅキ級は対エネルギー兵器防御を重視した設計思想が完全に裏目に出た格好だった。またそれ以上に、ヒューマン・ファクターに起因する要素も大きかった。本会戦に参加したアキヅキ級はいずれも、整備点検中から急遽動員された為、乗員数が定数を大きく割り込んでおり、ダメージコントロールを十分に機能させることができなかったのである。
 会戦後のシミュレーション検証においても、放射能防御を徹底した乗員を定数揃え、適切なダメコンが実施されれば、少なくともたった一発の被弾では(大損害は免れないにせよ)完全に戦闘能力を失うことはなかったと結論されている。

 尚、本会戦におけるアキヅキ級の被害は、部隊主力であるヤマトを守る為に、その長大な艦体を自らミサイルに晒した結果でもあった。そうした献身的犠牲もあり、第一遊撃部隊の戦力は激減こそしたものの、部隊としての戦闘航行能力と指揮統制は辛うじて維持されていた。

 一方、ディンギル帝国軍にとってこの戦果は、同軍の軍事ドクトリンと飽和攻撃の正しさを証明するものであった。しかし、ディンギル機動艦隊指揮官“ルガール・ド・ザール”は戦果に満足するどころか、寧ろ強い不満と怒りすら覚えていた。
 投入した重宙雷艇は約五〇〇隻、それらが搭載したハイパー放射ミサイルは実に一千発にも及ぶ。それだけの戦力ならば、僅かな数の地球艦隊など鎧袖一触、一隻残らず撃沈できて当然と確信していたからである。
 しかし、実際の戦果は彼の確信を大きく裏切った。沈めた地球艦艇は半数に過ぎず、何よりも自軍の損害が甚大であった。帰還した重宙雷艇は半数以下の二百隻強。その中で再出撃に耐えられるのは一五〇隻程度に過ぎなかった。
 その結果を受け、ルガール・ド・ザールは重宙雷艇部隊と空母艦載機隊に第二次攻撃の準備を指示すると共に、後方の移動要塞母艦に随伴していた空間打撃戦部隊(艦隊)には即座の前進を命じた。また、自らの乗艦を要塞母艦からドウズ級大型戦艦へと移し、後詰として進発することも決定されている。
 ある意味、その命令は現ディンギル帝国元首嫡男という立場を持つ彼の政治性の表出であったとされている。
 ディンギル帝国軍内部には“艦隊閥”“航空閥”“宙雷閥”の三大派閥が存在し、長年に渡り勢力争いを繰り広げてきた。そして、ディンギル帝国の時の権力者(大神官大総統)は、この派閥争いをコントロールすることで、軍政面において自らの権力を盤石なものとしてきた。
 だが、母星の水没と消滅によって発生した対地球戦争において、歴代の大総統が絶妙なバランスでコントロールしてきた派閥間のパワーバランスが大きく崩れてしまう。より具体的には“宙雷閥”の権勢が大きく伸長し、対照的に“艦隊閥”が著しく力を失ってしまった。
 その原因は勿論、地球防衛軍との戦闘によって生じた戦果と損害にあった。
 艦艇性能において著しく劣勢だったディンギル艦隊は、多勢であったにも係らず地球防衛艦隊の反撃によって戦果希少のまま大損害を被っていた(キルレシオは一対三以上)。これに対し、宙雷艇部隊は地球艦隊の目がディンギル艦隊に引きつけられている間に伏撃や奇襲を成功させ、大きな戦果を得ていた。
 また、“航空閥”にしても地球と月の防衛軍根拠地への攻撃において一定以上の戦果を挙げていたが、“宙雷閥”の挙げた地球機動戦力の殲滅という派手な戦果の前では、その存在はどうしても霞みがちであった(第一次攻撃時、空母艦載機隊による宙雷艇隊への支援が遅れたのも、“航空閥”によるサボタージュであった可能性が指摘されている)。
 それら軍内の“空気”を、絶対権力者の子息特有の鋭い嗅覚で察知した彼は、大きく崩れてしまったパワーバランスの復元が必要だと感じていた。戦後の――地球への移住完了後の――彼と一族の安泰の為には、軍内部が常に三竦みの状態であることが望ましかったからだ。そして、戦場で失われたバランスは戦場でしか取り戻すことができず、彼の視点では既に戦争が終幕へと向かっており、そのチャンスは残り僅かと考えられた。

 ――地球の小艦隊は未だ半数が健在とはいえ、その戦力は第一次攻撃に対する迎撃によって著しく消耗している――。
 ――ならば、(性能的に劣勢な)空間打撃戦部隊(艦隊)でも十分殲滅が可能であり、そしてその戦果の偉大さは、直前の宙雷艇部隊の苦戦と損害が一層強固なものとしてくれる――。

 後に地球防衛軍の捕虜となったディンギル機動部隊司令部要員の供述によると、その際に司令部内で交わされた会話は以上の様なものであったらしい。
 つまり、ディンギル帝国軍は派閥間の力関係を考慮した結果、圧倒的威力を誇る宙雷艇部隊ではなく、空間打撃戦部隊でもって地球艦隊の最終的な殲滅を行う決定を下したのである。軍事作戦にこうした“政治”を持ち込むことの危険さについてルガール・ド・ザールが考慮したかは不明であるが――結果的に彼とその司令部の検討・考慮は全て徒労となった。
 なぜなら、この時すでに彼らの頭上には“死告鳥”たる存在が悠然と旋回を続けていたからだ。その名は零式宇宙艦上戦闘機六四型――“コスモ・ゼロ”として知られるヤマト艦載機であった。



 地球防衛軍にとっての反撃の狼煙、そしてディンギル帝国にとっての“終わりの始まり”である第三次冥王星会戦の顛末は、後の世にも良く知られている通りである。
 ディンギル機動艦隊の実質的旗艦である移動要塞母艦は、後方での空母と宙雷艇母艦への補給作業中に、ヤマトの波動カートリッジ弾による超遠距離精密砲撃によって撃沈。補給作業中だった各種母艦群も搭載機(艇)を抱えたまま悉く喪われている。

 この砲撃に用いられた波動カートリッジ弾は、新たに開発された“タキオン波誘導型射程延伸砲弾”であった。以前より指摘されていた波動カートリッジ弾の射程不足に対する回答として地球防衛軍技術本部が試作中の兵器であり、この時ヤマトが搭載していたのも未だ数少ない増加試作品だった。
 その最大の特長は、砲弾に封入された波動エネルギーの一部を推進エネルギーに転用している点で、従来よりも砲弾長を延長することで誘導装置と簡易な噴射装置(通称:波動ブースター)を設置するスペースを確保している。噴射装置は大幅な射程の延伸のみならず砲弾の軌道修正が可能であり、指向性の強いタキオン波を誘導波としたスマート砲弾化に成功している。

 観測機の役割を担ったコスモ・ゼロから伝えられた概略座標へ発射された誘導砲弾は、ヤマトと目標座標との間に存在した小惑星群を波動ブースターの作動により回避しつつ更に飛翔。最終段階ではコスモ・ゼロが照射したタキオン波に導かれ、照射対象である超大型母艦へと次々に突入した。
 砲撃はヤマトが搭載していた二斉発分(一八発)全てを用いて行われ、作動不良を起こした二発を除く実に一六発全てが命中した。それは、初めて実戦投入された新兵器としては驚異的な作動率と命中率であり、地球防衛艦隊でも最高を謳われるヤマト技術班と戦闘班の能力を見せつける結果であった。
 尚、この時発射された誘導型波動カートリッジ弾は、あたかも重力下で大遠距離射撃を行った時のような山なりにも見える軌跡を描いていたとされている。
 そして、地球艦隊殲滅に燃えるディンギル帝国軍空間打撃戦部隊の末路も悲惨なものだった。五〇〇メートル級の大型戦艦六隻を中心とする三〇隻のディンギル艦隊の前に立ち塞がったのは、見事な単横陣を組んだアキヅキ級宇宙駆逐艦四隻だった。
 彼女たちはディンギル帝国艦艇の有効射程の倍の距離から一斉に砲撃を開始。その砲撃は、四隻から全く同じタイミングで放たれるばかりか、全て同一目標を捉えており、完全な統制射撃だった。その命中率は六〇パーセントを超え、ディンギル艦隊がアキヅキ級を射程内に捉えるまで、一方的な砲撃戦を展開することになる。それは、苦戦の続いた本会戦において、初めてアキヅキ級の真価が発揮された瞬間だった。
 もちろん、数と規模で圧倒するディンギル艦隊をアウトレンジ砲撃だけで殲滅することはできず、ディンギル艦隊が地球艦隊を射程に捉えて以降は激しい乱打戦となった。しかしその後、移動要塞母艦を葬ったヤマトが戦闘に加わったことで、ディンギル艦隊の指揮統制は遂に崩壊、本宙域において一隻残らず殲滅されている。
 とはいえ、それは決して一方的な勝利ではなかった。ディンギル帝国特有の“熱狂的な”攻撃は最後まで健在であり、激しい砲雷撃戦の末にアキヅキ級三隻が失われている(内一隻は、最後に残ったディンギル中型戦艦の体当たりによるもの)。

 ――勝敗は決した。

 会戦終了時、地球艦隊は未だヤマトとフユヅキが健在であり、フユヅキは撃沈艦乗員の救助の為に戦闘宙域に残留したものの、ヤマトは当初の予定通りアクエリアスに向けて急進。一方のディンギル機動部隊は辛うじて離脱に成功したドウズ級大型戦艦(ルガール座乗艦)一隻のみが、孤独な退却行を続けていた。
 戦略的にも戦術的にも明らかに地球防衛艦隊の勝利であり、結果的にこの会戦の結末がディンギル戦役における地球連邦の逆転勝利のきっかけとなる。
 しかし、その勝利は手放しで喜べるようなものではなかった。

 艦艇損耗率:八〇パーセント
 航空隊損耗率:四五パーセント
 人員損失率――六〇パーセント

 いかに、ある程度の損害を前提に組織化された軍隊といえども、たとえそれが母星を死守する為の尊い犠牲であったとしても、許容できるような損害レヴェルでは到底なかった。
 故に、戦役終了直後から、本会戦は様々な角度から分析と検証が行われることになる。
 中でも、第一遊撃部隊において数的主力を担ったアキヅキ級に対しては、徹底的な検証が行われた。本級は、今後最低でも一〇年間は建造が継続し、その運用は四半世紀程度続くものと各部門で理解されおり、ここでの評価によっては以後の建造中止や代艦の建造も十分に考えられたからだ。
 幸い、第三次冥王星会戦において示した数々の戦果から、本級は今後も建造を継続するに足ると結論付けられたが、それでも幾つかの装備においては変更と改善が加えられることになった。その最大のものは主砲装備であり、オリジナルのユウバリ級が装備していた八インチ三連装砲三基を装備したサブタイプが一定数建造されることが決定した。
 この決定は、会戦の序盤と終盤で本級に対する評価が正反対であったが故の妥協の産物であったとされている。
 会戦序盤において、アキヅキ級は手数の乏しさという欠点を曝け出したものの、終盤には規模と数で勝る敵大型戦艦に対し、長射程と大威力を活かして優位に砲戦を展開していた。
 この結果に現仕様肯定派は、本級が会戦時に主砲用若しくは宇宙魚雷用波動カートリッジを定数搭載していれば、序盤における苦戦は回避できたと主張。複数回実施された戦術状況の再現シミュレーションにおいてもその主張の正しさは証明された。
 これに対し、仕様改善派は肯定派の主張に賛同を示しつつも、賛同派とは異なるアプローチからの意見を述べていた。
 彼らは、波動砲に比べれば遥かに使い勝手が良いとされてきた波動カートリッジですら、今後の地球を取り巻く戦略環境・戦術状況によっては使用を制限されてしまう可能性を指摘していた。それをより具体的に示せば、“平時下”での不正規戦や低強度紛争において安易に波動カートリッジを使用した場合、過剰な武力行使――直截的表現を使えば“虐殺”――を自国世論や周辺国家から指摘されてしまう可能性に対する懸念であった。
 特に、過去の戦役で地球連邦が滅亡させてしまったデザリアムやディンギルの残党が地球連邦に対する大規模な不正規戦――ゲリラ戦やテロ行為に及んだ場合、彼らが主戦兵器とするのは安価で建造・調達も容易な魚雷艇などの小艦艇になると考えられた。当然、誰よりも地球防衛艦隊の実力を知る彼らは、小艦艇を少数投入したところで戦果を挙げられるとは考えないだろうから、本気で殴り掛かる(地球側に損害を与える)気であれば、かなりの数を揃えてということになる。
 もしそのような状況が、戦時ではなく『平時において』『奇襲的に』実施された場合、大威力兵器である波動カートリッジを躊躇なく使用できるのか?もしそれが人類居住構造物(コロニーや惑星・衛星都市等)や民間船舶の近傍であったら?更にそれが他星系国家の目がある宙域であったら?
 軍事的に正しく、法制上は許容されたとしても、現実的観点で言えば、れっきとした大威力兵器である波動カートリッジの使用が今後高度な政治性を帯びてしまうのは避けられそうになかった。故に、彼らはより運用柔軟性の高いオリジナル兵装(八インチショックカノン)の復活を提言していた。
 この指摘は、“駆逐艦”という本来は最も汎用性を求められる艦に“決戦艦”としての側面を強く求め過ぎた故の弊害であった。しかし同時に、地球連邦という取るに足らない新興星系国家が、大きな質点変化を起し始めた一つの証左でもあった。

――後編へ続く


文字数制限に達してしまいましたので、更に後編に続きます、、、
いやー、驚いた(;´▽`A``

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