ロック探偵のMY GENERATION

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Iron Maiden - Holy Smoke

2020-07-28 20:17:46 | 音楽批評


今日は、前回に引き続き、音楽記事です。

一昨日のスコーピオンズの記事では、メタルバンドにちなんで新種のクモに名前がつけられたという話を紹介しましたが……そこに登場した4つのバンドのなかに、Iron Maiden の名前がありました。
ということで、“クモに名前をつけられたバンド”つながりで、今回はアイアン・メイデンについて書きましょう。

クモに名前をつけられた、というと何か被害を受けたみたいになってしまいますが、名付け親であるクリスティーナ先生には、無論そんな意図はありません。

むしろそれはリスペクトであって、これらのチョイスは、単に好きなアーティストというだけでなく「人としてすごい」みたいな意味合いもあるようです。

アングラはブラジルのバンドなのでご当地枠ということなんだと思いますが、たとえばデフ・レパードのリック・アレンは、事故で片腕を失いながらもドラムを叩き続けているという人で、それがすごいと。そういうリスペクトも込めての命名なのです。

そうしてクモに名前がつけられるだけあって、アイアン・メイデンのブルース・ディキンソンも、すごい人です。

彼のただものでないポイントとしてよく知られているのは、なんといっても飛行機パイロットの免許をもっているということでしょう。
免許を持っているだけでなく、バンド専用の飛行機もあります。
しかも、小型機などではなくボーイング757を改造したジャンボ機。
その名も、Ed Force One。
アメリカ大統領の専用機エアフォース・ワンをもじった命名です。バンドの公式YouTubeチャンネルにその紹介動画があるので、貼り付けておきましょう。

Iron Maiden's Ed Force One - first arrival

メンバー、機材、スタッフを乗せた飛行機をみずから操縦して海外公演に行くという……そのバンド専用機で日本に飛来している途上であの東日本大震災が起き、急きょ成田から名古屋へ行先を変更し、公演が中止されたなどという逸話もあります。
(ただし、そのときの機体は上の動画で紹介されているのとは別のものらしいです)


このブルース・ディキンソンという超人がボーカルをつとめているのがアイアン・メイデンなわけですが、メイデンにはさらにエイドリアン・スミスというギター超人もいます。この二人は一時バンドを抜けていた時期がありますが、そろって復帰し、以後現在にいたるまで6人で活動。今年でデビュー40周年を迎えるメタルレジェンドなのです。


アイアン・メイデンの曲をいくつか聴いていて感じるのは、彼らはただのメタルではないということです。
時代性というか、鋭い文明批評的な視点が感じられるのです。

たとえば、新しいところでいうと、El Dorado という曲。この曲はリーマンショックの頃に発表されたもので、その破綻を引き起こすにいたったマネーゲームを揶揄します。

もっと古い曲でいうと、 90年代のMan on the Edge。これは、映画『フォーリング・ダウン』から触発されたものとか……

また、アルバムのタイトルチューンにもなった Brave New World は、オルダス・ハクスリーの同名小説からとったものかと思われます。
だとすると、時代性をこえて、近代文明批判という視座ももっているといえるでしょう。

私個人としては、そういう問題意識に共鳴する部分があり、そこが凡百のメタルバンドではないと感じさせるのです。




ちなみに、アイアン・メイデンとは、かつてヨーロッパで拷問に使われていた道具。



図のように、中にびっしりとトゲがとりつけられた棺桶状のもので、拷問というよりは、これに入れられたら確実に死ぬでしょう。

このモチーフに、ロック――とりわけメタル系バンドのもつある種のヒール性というものを感じさせます。

それはいうなれば“偽悪”であり、その偽悪が、保守的な道徳観念がときにもつ欺瞞をあぶりだすのです。

その欺瞞とは、たとえばハクスリーが描いたディストピアであり、映画『フォーリング・ダウン』において愛国心を声高に叫びながらダークサイドに“堕ちて”いくD-フェンスでしょう。

その欺瞞を揶揄するのがロックのありかたというもので、そうした曲の一つとして、たとえば Holy Smoke が挙げられます。

Iron Maiden - Holy Smoke (Official Video)

保守系のキリスト教団体からレコードを燃やすという目に遭ったことを題材にして歌っています。

  レコードを燃やし、本を燃やす
  聖なる戦士、ナチの顔つき

これはまさに、映画『フォーリング・ダウン』に描かれていることじゃないかと思えます(作られたのはHoly Smoke のほうが先)。

思えば、悪魔扱いでレコードを燃やすというのは、エルヴィス・プレスリーなど草創期のロックミュージシャンに対しても行われたことでした。

神の名のもとにレコードを燃やすお前たちはいったい何なのか?
お前たちの“正義”とは何なのか?
社会の裏側から異端者としての立場でそういう問いをつきつけてくる。シニカルに、アイロニカルに――これこそまさに、リアルなロッカーの振る舞いといえるでしょう。そういう意味でも、アイアン・メイデンはロックなのです。




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