ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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山田風太郎展

2022-06-06 21:33:46 | 旅行


昨日のことになりますが、姫路で行われている山田風太郎展というものに行ってきました。



山田風太郎は、姫路の出身。
ということで、姫路で行われている展示です。巡回展ではないらしく、ここでしか見れないということで姫路までやってきました。昨日がその最終日……ぎりぎりですべりこんだというところです。

出身地である姫路で、生誕100年という記念でもあり……この企画に親族の協力も得て集められた資料は、質、量ともに相当なもの。そういうかたちでの展示なので、多くの資料が複製ではなく現物となっており、そこがまたすばらしい。


山田風太郎といえば、なんといっても忍法帖シリーズでしょう。
それらの作品は、『魔界転生』や『SHINOBI』など、今世紀に入ってから新たに映画化されたりもしています。
しかし……山田風太郎がはじめに商業作家として世に出たのは、探偵小説というジャンルにおいてでした。
しかも、凡百のミステリー作家ではなく、江戸川乱歩や横溝正史とも親交のある正統本格派なのです。
乱歩が風太郎を高く買い、高木彬光や香山滋らとともに“戦後派五人男”と呼んだことは以前どこかで書きました。今回の展示会では、そういったミステリー界の大物たちと交わした書簡などもあり、非常に興味深いものでした。
意外なところでは、中井英夫とも交流があったそうです。中井英夫といえば、奇書『虚無への供物』。アンチミステリというか、メタミステリというか、そういう方向の人であり、本格推理とは一線を画する作家ですが……山田風太郎も本格推理の世界にどっぷりつかっていたわけではないので、ある種通じ合う部分があったのかもしれません。ただ、直接会ったことはなく、手紙のやりとりをしていたということらしいですが……
さらに意外なのは、ミステリーの枠を超えて色川武大などとも親交があったといいます。
色川武大、またの名を阿佐田哲也……そう、あの麻雀放浪記の阿佐田哲也です。風太郎もまた名うての雀士(ただし自称)であり、阿佐田哲也ともよく卓を囲んでいたとか。そういう文壇の麻雀仲間みたいなものがあって、その縁で角川から特製の雀牌を贈られたということで、その牌も展示されていました。どこが特製かというと、一筒四枚の中央に「山」「田」「風」「太郎」という文字が刻印されているのです。これはもう、国宝級の雀牌といってもいいでしょう。



山田風太郎といえば日記文学でも有名ですが、今回の展示ではそれらのもととなった日記の実物も展示されていました。

なかでも特に目を引いたのは、1945年8月15日のことを書いた日記でしょうか。
おそらく作品として刊行されているのだと思われますが、正直私はそちらのほうにはあまり詳しくなく、初見でした。

1945年8月の時点で山田風太郎はまだ学生であり、いつもどおりに大学で講義を受けていました。
その日の朝、「政府から重大発表がある」ということが告知されていて、しかも、天皇自身の肉声がラジオで放送されるらしいということで、それは何だろうかと学生たちのあいだで話題になっていたようです。
「休戦、降伏、対ソ戦宣言」という三つの選択肢が挙げられていて、風太郎は「対ソ戦宣言」一択と考えていました。
降伏などありえない、対米英戦争が抜き差しならぬところにソ連参戦という未曽有の国難にあたって、天皇自らが国民に呼びかけようということに違いない……と。
山田風太郎でもそうだったのだなあ、と思わされます。
まあ、その時代はたいていそんなものでしょうが……やはり、プロパガンダが行き届いていると、山田風太郎でさえ目が曇ってしまうわけです。つまりは、いまのロシアみたいな感じだったんでしょう。



ちなみに、姫路文学館では、別の企画もやっていました。



こちらは、本格系のミステリー作家たちが、文章やイラストなどを寄せたもの。

このなかで、方丈貴恵さんに関しては、たまたま最近この方の作品を読み、また、ご自身のツイッターアカウントで山田風太郎展に行ってきたとつぶやいておられるのも目にしました。出身が姫路なんだそうで……そういう点でも特別だったのでしょう。

さらに、この姫路文学館には、姫路ゆかりの作家らに関する常設展示もあり、また、司馬遼太郎関連の展示などもあって……いろいろと刺激を受けました。こうして姫路まできた甲斐があったと思います。




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