ロック探偵のMY GENERATION

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イーグルス「ならず者」(Desperado)

2017-09-14 17:35:19 | 音楽批評
 

今回も、拙著『ホテル・カリフォルニアの殺人』に出てくる曲について紹介するシリーズです。

3回目は、第二章の章題になっている Desperado。

いわずとしれた、屈指の名曲ですね。
邦題は、「ならず者」。同じタイトルのアルバムに収録されています。


Desperado というのは、西部劇に出てくるような無法者を指す言葉です。
ロックというジャンルは、結構西部劇をモチーフにすることが多いのですが、この曲もまさにそうで、『ならず者』というアルバム全体が西部劇をイメージしたものになっています。
そのタイトルチューンである「ならず者」は、作品のハイライトといっていいでしょう。5曲目に収録されていますが、アルバムの最後にも、この曲をアレンジして別の曲と融合させたものが出てきます。


この曲は、イーグルスとしては珍しく、ギターが一切使われておらず、その代わりにピアノとストリングがふんだんに入っています。この美しいアレンジも、「ならず者」を名曲たらしめている所以の一つでしょう。

イントロは、ピアノ。
G→G7→C→Cmというコード進行です。
ここで使われるⅣのマイナーというコードは、よくメランコリックな響きと表現されますが、この曲でもやはり切ない感じを醸し出してくれます。


ならず者
正気に戻れよ

と、歌は始まります。


そのあとには、you've been out riding fences for so long now と続きます。
この歌詞を直訳すると、「お前は長いこと柵の上に乗っかっている」ということになります。
そのままでは意味不明ですが、洋楽でこういう歌詞に出くわしたときは、なんらかのイディオム表現という可能性が考えられます。
ひょっとすると私の知らないそういうイディオムがあるのかもしれませんが、同じ fence という単語を使ってsit on the fence なる言い回しがあり、その変形なのではないかと今のところ私は考えています。

sit on the fence というのは、「柵の上に座っている」ということから、柵の向こう側とこちら側、どちらともつかない状態にある、という意味です。
こういうふうに解釈すると、その後の歌詞もすっと理解できるように思えます(その点については後述します)。


サビの部分では、次のように歌われます。


ダイヤのクイーンなんてひくもんじゃない
そいつは隙あらばお前を打ちのめそうとしてるんだ
いつだってハートのクイーンに賭けるのが一番さ

これもまた西部劇じみて、場末の酒場でトランプに興じているような光景です。
しかしここにも、これまで何度も書いてきたイーグルスの反・物質文明思想が反映されています。

一般的な解釈……といっていいと思いますが、ここでいう「ダイヤのクイーン」、「ハートのクイーン」は、象徴的な意味を持っています。
「ダイヤのクイーン」とは、「ダイヤ」ですから、金銭的・物質的な価値の象徴。
それに対して、「ハートのクイーン」は「ハート」すなわち心ですから、精神的な価値の象徴と考えられます。また、「ハート」は、ハートマークの一般的なシンボリズムからして、精神的な価値の中でもとりわけ「愛」という意味にとれるでしょう。

その前提をおくと、この部分は、「金銭的な価値よりも精神的な価値に目をむけろ」というメッセージと読み取れます。
物質的な豊かさを追い求めるのではなく、足元にある精神的な価値を重視しろ……これまでに幾度も紹介してきたイーグルスのスタンスがここにもあるのです。

そうなると、前述した riding fences という言葉の意味も理解できます。
柵の向こう側とこちら側というのは、拝金主義の世界か、それとも精神性の世界か、ということです。「正気に戻れ」というのは、どちらつかずの状態にいるならず者に、選択を迫っているということでしょう。

曲の最後では、それがストレートな呼びかけとなって表れます。


柵の上から降りてこいよ
扉を開くんだ


これはもちろん、柵の上から降りて、「こちら側」=精神性の世界へ来いということでしょう。


雨が降っているかもしれない
だけど空には虹がかかるだろう


そして最後は


愛してくれる誰かをみつけたほうがいいぜ
 手遅れになる前に


というフレーズで、歌はしめくくられます。
やはり、ダイヤのクイーンではなく、ハートのクイーンなのです。

「愛してくれる誰かをみつけたほうがいいぜ」というフレーズは2回繰り返され、途中にはコール&レスポンス風にコーラスが入ってきます。

コール&レスポンスというのは、労働歌に起源をもつともいわれるスタイルです。
厳しい労働のなかで、一人が呼びかけ、それに仲間たちが応じる……この形式はつまり、「どんなにつらいときも一人じゃない、仲間がいる」ということを表現しています。

どっちつかずの状態ではなく、正気に戻って精神性を重んじる世界で暮らせ、そうすれば、お前には共に生きる仲間がいる……この歌は、そんなメッセージソングともとれるのです。

音楽として美しいだけでなく、そういうメッセージも含んでいるからこそ、Desperado はロック史上屈指の名曲として名を残しているのでしょう。



追記:大変はずかしいことに、本文中「クイーン」と書くべきところを「エース」と誤記している箇所が複数ありました。
   投稿後に読み返していて間違いに気づき、訂正しました。



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