フィル・スペクターが死去したという報がありました。
フィル・スペクター……
これまでに何度かこのブログで名前が出てきました。
著名な音楽プロデューサーで、ビートルズ、ジョン・レノンとの仕事でよく知られます。どこかで一度書いたと思いますが、彼は殺人を犯していて、医療機関をかねた刑務所のような施設に長らく収監されていました。その獄中で死去したようです。
死因について詳細ははっきりしませんが、一部報道ではコロナ感染の合併症とも。ロック史における伝説のプロデューサーも、最期はコロナか……と、複雑な気持ちにさせられます。
フィル・スペクターといえば、“ウォール・オブ・サウンド”というキーワードがよく知られています。
音響効果を利用し、重厚な“音の壁”を構築する……それが、たとえばビーチボーイズのブライアン・ウィルソンにも影響を与えたといわれています。
いっぽうで、その個性的な人格で、手がけたミュージシャンとのあいだでたびたびトラブルを起こしてもいました。
先ほど名前が出てきたビーチボーイズに関していえば、ブライアン・ウィルソンがベースを弾くのを聞いて「お前は二度とベースを弾くな」といったという逸話は、以前も紹介しました。
因縁は、たとえばポール・マッカートニーとの間にもあります。
ビートルズ作品のなかでフィルが手掛けた作品といえば
Let It Be
ですが、このアルバムは、ビートルズが事実上活動休止状態に入っていたときに塩漬けになっていた音源をフィルに託して作品化したもの。その音源をフィル・スペクターはみずからの音の世界に染めていくわけですが、これがポールの逆鱗に触れました。
数十年後、なにかのパーティーでたまたまこの二人が出席する機会がありました。
その際、フィル・スペクターがやってくると聞いたポールが、「多重オーケストラをつけられる前に帰らなくちゃ」といって中座したというエピソードがあります。
せっかくなので、ここで聴き比べてみましょう。
曲は、とりわけポールが不満を持ったという The Long and Winding Road です。
まずは、フィル・スペクターが手掛けたバージョン。
The Long And Winding Road (Remastered 2009)
そして、後年 Let It Be ... Naked として発表されたアルバムのバージョン。
こちらが本来のかたちとされています。
The Long And Winding Road (Naked Version / Remastered 2013)
もう一曲、Across the Universe で。
やはり、まずはフィルのバージョン。
Across The Universe (Remastered 2009)
そして Naked バージョン。
Across The Universe (Naked Version / Remastered 2013)
同じ曲でも、誰がプロデュースするかでこれだけ違うということです。
ポールにしてみれば、勝手なことをしやがってということになったわけでしょう。
あと、フィル・スペクターがプロデュースを手掛けたアーティストとして有名なのはラモーンズですが、ラモーンズの場合も一部メンバーとやはり軋轢があったようです。
こうした話を聞いていると、なかなか扱いの難しい人であったようです。殺人を犯してしまったというのも、その延長なのかもしれません。
しかしながら、それもアーティスト気質というものでしょう。
強烈な個性のぶつかり合いから、すぐれた作品は生み出されるものかもしれません。
そういう意味で、やはりフィル・スペクターは、ロック史にその名を残す名物プロデューサーなのです。