ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
『ホテル・カリフォルニアの殺人』(宝島社文庫)発売中です!

川本真琴「ドーナッツのリング」

2020-02-05 19:59:32 | 音楽批評


川本真琴さんがデビュー前に制作したデモテープ『No.1 Hippie Power』が本日発売ということです。

 

本名の川本和代名義で、カセットテープのみでの発売……

カセットテープのみでの発売というのが、いかにも川本さんらしいところですが……これを記念して、今回はこの川本真琴というアーティストについて書こうと思います。


川本真琴さんといえば、やはり一番有名なのはアニメ『るろうに剣心』にも使われた『1/2』でしょうか。
自由奔放な曲の展開や、ぶっ飛んでいて、それでいて深い歌詞。川本真琴らしさが存分にあらわれた曲といえるでしょう。

そんな川本真琴さんは、一時期メジャーの世界から姿を消していました。
以前このブログで紹介した山羊Oなどは、そのインディーズ期間にはじまった活動のようです。

メジャーシーンから退いた理由に関しては、本人がツイッターで明かしています。
セールスのための戦略ということで、自分の好きではない服を着せられるというようなことがあったそうで……おそらくそれはファッション以外のところにも及んでいて、そうしたことが背景にあって、いったんインディーズでの活動に転じたようです。その経緯からすると、“メジャー落ち”という言い方は必ずしもあたらないということでしょうか。

なんだかんだいって、メジャーの世界はやはり商売です。
そこでは商業の論理が厳然としてあって、ミュージシャンは――程度の差はあれ――それを受け入れざるを得ないわけです。それが、“好きじゃない服を着る”ということにつながってくる。これは、メジャーでやる以上宿命といえます。

ただ、私個人としては、あまりに割り切った商業ロックみたいなのもそれはそれでどうかという思いもあり……やはり商業の論理とクリエイターの活動との間に一定の緊張関係はあるべきではないかとも思ってます。

そしてときに、その緊張関係が亀裂を生じさせ、そこから“リアル”が垣間見える――そんなアーティストが、“ロックンローラー”なんだと私は認識してます。

そういう意味でのロックンローラーは日本では稀有ですが、その稀有ななかの一人が忌野清志郎ということで、このブログにはしょっちゅう清志郎が出てくるわけなんですが……

私は、川本真琴さんもまた、キヨシローとは違った意味合いでリアルをみせてくれるアーティストだと思ってます。

一度Mステに出演した際に、歌詞を忘れて「ラララ、ラララ~」と歌っていたことがありました。
忌野清志郎やスティングみたいに確信犯でやってるわけではないでしょうが、やっぱりこういう調和のほつれ目から“リアル”は顔をのぞかせるわけなんです。純然たる放送事故とはいえ、この一件もまた、川本真琴というアーティストがただものではないということを私に印象付けました。

しかしながら、商業ミュージシャンとしては、テレビ出演で歌詞を忘れるのはプロとしてけしからんということにしかならないでしょう。
川本さんはデビュー当初音楽誌でコラムを連載していましたが、そのコラムでも音楽会社社員とのぎくしゃくした関係をにおわせるようなことを書いていたことがありました。まあ、そういったことがあって、メジャーの世界からいったん姿を消したということでしょう。

では、メジャー復帰は、メジャーの論理を呑んだということなのか。

まあ、いくらか折り合いをつけられるようになったという側面はあるでしょう。

近年発表された曲では、以前とはだいぶ違った歌唱法に取り組んだりもしているみたいです。たとえば、この曲。


川本真琴「ドーナッツのリング」 (撮影・監督:佐内正史)

もともとは、Mステで「ららら~」と歌っていた『桜』のカップリング曲で、オリジナルはかなり大がかりなアレンジになっていますが、それがこんなふうにピアノ弾き語りになっています。
こういった音源を聴いていると、“落ち着いた”という評価もできるかもしれません。

ただ、忌野清志郎なんかは、商業の論理と最後まで“和解”はしませんでした。
レコード会社が発売中止というような措置をとっても、彼一流のしたたかなやり方で決して屈することなく活動し続けていました。願わくば、川本真琴さんもそんなふうになっていてもらいたいところです。




最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。