Marcel Duchamp
「テーブルを囲むデュシャン」1917
Marcel Duchamp autour d'une table
横浜美術館「マルセル・デュシャンと20世紀美術」展を見に行った。
この展覧会は7つのセクションに分かれている。
1.画家だったデュシャン
2.レディ・メイド(既製品を用いた芸術作品)
3.≪彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも≫(通称「大ガラス」)とその周辺
4.ローズ・セラヴィ(デュシャンの女性分身)
5.≪彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも≫制作放棄以後
6.デュシャンへのオマージュ
7.≪与えられたとせよ 1.落ちる水 2.照明用ガス≫(「遺作」)とその周辺
この7つのセクションを順にたどっていくことで、デュシャンの作品を編年体で見ていくことができるとともに、それぞれの作品に影響を受けた(引用とパロディ)他の作家の作品と見比べることができるように配置されている。初期のキュビズム的な絵画を見ることができるのと、立体写真であるにせよデュシャンの遺作を覗き見することができるというのはいいと思うが、「Tu'm」という、最後の絵画作品を見られなかったのは残念だ。
デュシャンは「芸術家が使用する絵の具のチューブは既製品だからあらゆる油絵は『手を加えたレディ・メイド』だ」と言った。そしてデュシャンは洒落や地口を好む。言葉もまたレディ・メイドであり、洒落や地口によって意味をずらされるというわけだが、それはルイス・キャロルやレーモン・ルーセルと関連づけられるし、ジャック・ラカンやジャック・デリダと結びつけたりもできるだろう。
デュシャンの作品に影響を受けた作品は、デュシャンの作品につけられたタイトルを文字通りそのままやってみたというものが多かった。これらの作品が並置されるとき、その間にはウィトゲンシュタイン的、もしくは吉本興業的空間が現出するだろう。レオナルドの「モナリザ」に髭をつけた「L.H.O.O.Q」というのは、そのアルファベをフランス読みすればElle a chaud au cul(彼女の尻は熱い)となるが、その作品に対して燃えた椅子の残骸を提示し、それは熱い尻のせいで燃えたのだとするアルマンの作品や日本人にしかわからないが、巨大なカラス=大ガラスというオヤジギャグを臆面もなくやってみせた吉村益信の作品、「階段を降りる裸体」というキュビズム的、あるいは未来派的な絵画作品に対して、全裸の女性が階段を降りていく久保田成子の「デュシャンピアナ」(映像)とゲルハルト・リヒターの「エマ」(写真)などなど。誰でも思いつくようなものといえばそれまでだが、実際にやってしまうところが芸術家たるゆえんなのだろう。しかしそれらの作品に驚きのようなものはあまり感じられなかった。
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