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ツェムリンスキー

2007-02-05 02:25:00 | 音楽史
ZemALEXANDER ZEMLINSKY
LIEDER
Cord Garben(pf)
Barbara Bonney(s), Anne Sofie von Otter(ms)
Hans Peter Blochwitz(t), Andreas Schmidt(b)

アレクサンダー・ツェムリンスキー(1871-1942)はウィーンに生まれた。彼は4歳からピアノを始め、10歳の頃にはシナゴーグでオルガンを弾くようになっていた。13歳のときにウィーン音楽院に入学し、ピアノと作曲を学び、とりわけピアノでは学内で賞を取るほどの優れた才能を示したが、次第に関心は作曲へと移行していき、1890年頃から作曲を始めた。
1893年に音楽家協会に入会し、ブラームスの支援を得るようになり、ブラームスの推薦でクラリネット三重奏曲を出版することができた。ツェムリンスキーの初期の作風はブラームスからの影響のもと、古典主義的なものであった。
1895年、ツェムリンスキーはアマチュアのオーケストラである「ポリヒムニア」の指揮をしたが、そこにチェロ奏者として参加していたシェーンベルクと初めて出会った。二人は親密な間柄になり、親友となった。ツェムリンスキーはシェーンベルクに対位法など彼が習得した作曲技法のすべてをシェーンベルクに伝え、当時、ヴァーグナーに熱狂していたシェーンベルクに対し、ブラームスの音楽の魅力も教えた。シェーンベルクはブラームスの音楽の革新性を後に高く評価することになるが、それはツェムリンスキーからの影響が大きい。初めての出会いから6年ほど経って、シェーンベルクがツェムリンスキーの妹マチルデと結婚し、二人は義理の兄弟となった。
1897年にツェムリンスキーの「交響曲第2番」がウィーンで初演されると、この作品は好評をもって迎えられ、作曲家としてまずまずのスタートを切ることができたが、1900年にオペラ「昔あるとき」がマーラーの指揮で初演されたときはそれほどの成功をおさめることができなかった。ツェムリンスキーはブラームスの影響下にあったものの、彼なりに新しい音楽を志向しており、ウィーンの保守的な傾向とは相容れないものを持っていた。
ツェムリンスキーは1904年にシェーンベルクとともに「創造的音楽家協会」を創設した。この協会は、「ウィーン分離派」をモデルに、前衛的な音楽家の作品を演奏することを通じて「現代音楽にウィーンにおける永久の市民権」を与えることを目的としていた。この協会はグイード・アドラーの支持を得ることとなったが、アドラーはこの協会の後ろ盾になるようにマーラーを説得し、マーラーもこのような若い音楽家たちの活動を支持した。
マーラーは1902年にアルマ・シントラーと結婚したが、それ以前にアルマはツェムリンスキーから作曲を学んでいて、アルマとツェムリンスキーは恋愛関係にあり、結婚を考えていたほどだったのだが、マーラーの音楽的才能やウィーン宮廷歌劇場の監督としての地位もあって、アルマはマーラーと結婚することを決意し、そのことをツェムリンスキーに打ち明けたが、ツェムリンスキーはそれを許した。
ツェムリンスキーは1906年にウィーン国立歌劇場の首席指揮者となり、以後、指揮者としての活動が活発になっていった。1911年から1927年までの間、プラハのドイツ歌劇場の首席指揮者として活動、その後ベルリンに移り、クレンペラーのクロル・オペラに招かれた。指揮者としては、同時代の前衛的な作品を積極的に演奏したが、それだけでなく、モーツァルトの演奏でも高い評価を得た。
しかし、1933年にナチが台頭したことにより、ツェムリンスキーはウィーンに逃亡せざるをえなくなった。公的なポストを失った彼はときおり客演する程度で、作曲に専念する日々を送っていたが、1938年にオーストリアがドイツに併合されたのを機にアメリカへ亡命し、ニュー・ヨークで生活することになった。しかし、この新しい環境にツェムリンスキーは適応できず、シェーンベルクのように大学で教えることもなく、作曲も手につかないまま、病を得て死去。誰一人知る人もいないニュー・ヨークでは、一人寂しくピアノに向かいながら昔の作品を弾き、かつてプラハやベルリンで指揮者として華々しく活躍していた頃を懐かしみながら過ごしていたという。

ツェムリンスキーの音楽は、その初期の作品にはブラームスからの影響があるが、次第にヴァーグナーやマーラーの影響を受け、拡張された和声を用いるようになり、後期の作品では調性感が希薄になっている。しかし、彼はシェーンベルクのように無調や十二音技法には向かわず、ぎりぎりのところで踏みとどまった。

→H-L・ド・ラ・グランジュ「グスタフ・マーラー失われた無限を求めて」(草思社)


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