むらぎものロココ

見たもの、聴いたもの、読んだものの記録

ジョスカン・デ・プレ

2005-06-09 20:36:39 | 音楽史
JosquinJOSQUIN
Missa Pange lingua, Missa La sol fa re mi
 
Peter Phillips
THE TALLIS SCHOLARS

ジョスカン・デ・プレ(1450-1521)もまた、若い頃にイタリアに滞在した。1459年から1472年までミラノ大聖堂の聖歌隊員であったし、ガレアッツォ・スフォルツァの宮廷でも活動していた。1486年から1494年まではローマ教皇庁で活動し、1500年頃に故郷のフランドルに戻った。マルチン・ルターに「ほかの作曲家は音に支配されているが、彼だけは音を支配している」と言わしめたこの音楽家は、ルネサンス期最大の音楽家として生前から現在に至るまで称賛され続けている。

ルネサンスの音楽様式を完成させたジョスカンの作品は生前から数多く出版され、広く愛唱されていたという。その様式は声部が互いに模倣しあうもので、いわゆる通模倣様式と呼ばれる。当時、作曲家の創意はメロディをつくることにではなく、与えられた旋律をいかに処理するかにあり、ジョスカンは和声・リズム・対位法の処理において高度な技法を駆使したが、作為を感じさせることなく、むしろ自然なものと感じさせた。また、彼は音楽と歌詞の意味をより緊密に結びつけた。このことはのちのマドリガーレにおける音画法や劇的な表現を準備し、さらにはオペラへとつながっていく。

ジョスカンはレオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)とほぼ同年であり、ともに盛期ルネサンスを代表する芸術家である。ジョスカンの通模倣様式がオケゲム的なポリフォニーの、聴覚的には情報過剰な状態を整理、抑制するものであったのと同様に、レオナルドが絵画の技法として生み出したスフマート(ぼかし)は、すべてを明確に描いてしまうことによる、視覚的には情報過剰な状態を整理、抑制するものであり、ルネサンス期の音楽と美術において、この二人のスタイル・技法は相似した意義と価値を持っているとの指摘もある。
→田村和紀夫・鳴海史生「音楽史17の視座」(音楽之友社)「イタリア・ルネサンスの美術と音楽」

「ミサ・パンジェ・リングァ」はジョスカン晩年の作品であり、通模倣様式の典型である。タリス・スコラーズのアルバムはこの曲の決定盤として不動のもの。カップリングされた「ミサ・ラソファレミ」は、私にまかせろ(Lascia fare mi)と言うばかりで、給料を払ってくれないアスカニオ・スフォルツァへのあてつけであるとのこと。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿