もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記⑯ ・・・ なぜ? どーして?

2015-01-13 14:28:31 | E市での記憶
「聞きたがりのねねコ」って
この前、おとうちゃんが言ってた。

「とにかく、何言っても
『なぜ?』って聞き返してくるからなあ」

おとうちゃんは笑ってたけど
でもちょっと、困ってるみたいな
もしかしたら、ちょっと迷惑そうな?顔だったから
なんかアタシも・・・困っちゃった。

どのこと、言ってるのかなあ。

そういえば、昨日の夕方
おとうちゃんだけ
早めに晩御飯食べてるとき
テレビでお相撲やってて・・・

アタシはいつも不思議だったから
聞いてみたんだ。

「おすもうさんは、なんでマワシしてんの?」

おとうちゃんは、なんかすごーく考え込んで
「・・・昔はだれでもしてたんだよ」

よけいにワカラナクなった。

みんなあんなカッコして
道歩いたり、ご飯食べたりしてたの?

で、つい聞いちゃった。

「どーして?」

おとうちゃんはもっと考え込んで
「とにかく・・・無いとつかんで
相手を投げられないだろ?」

「ウワテナゲとか
シタテナゲとかっていうの?」

おとうちゃんは嬉しそうに
「そう!そういうの」

ふ~ん。

「じゃあ、ウワテってなに?」

おとうちゃんんはまたか・・・って顔。

「お相撲さんは、向かい合って組んだとき
片手は上、片手は下側になるんだよ」
「で、上になったほうの手で投げるのが『上手投げ』」

う~ん・・・「上」?「下」?

「上ってどっち?」

「上は上」

ワカラナイ。

あ、もしかして・・・

「外側と内側のこと?」

おとうちゃんはまた喜んで
「そう!『上』は外側。『下』が内側」

ふ~ん。

「じゃあ、どーして『上』手投げなの。
『外』じゃなくて」

おとうちゃんは小さな声で
「どう言ったらいいんだろ・・・」


そこへ、おかあちゃんが来たから
おとうちゃんはそっち向いて

「この年頃だけなんだろうけど
なんで、なんでってキリがない」

おとうちゃんは笑ってたんだけど
おかあちゃんはウルサそうに
顔をシカメて、早口に

「そんな真剣に答えなくていいのよ」

「いや~オレも子どもの頃
いちいち聞くんで困ったらしいから」

おかあちゃんは「あーそーですか」みたいな顔で
ナントカさんが来られましたよ・・・
とかなんとか言って
あっという間に居なくなった。

おとうちゃんもご飯食べるのやめて
ドッコイショって、
診察場の方に行っちゃった。


アタシはそのまま
ひとりでお相撲見てたんだけど・・・

もしかして、おとうちゃんも
お相撲もっと見たかったのかも。

ご飯もあんまり食べられなかったし。

アタシがジャマしたのかなあ。

大体いつも、アタシは
聞いたことゆっくり考えないで
「じゃあドーシテ・・・」って
次の不思議が浮かんじゃう。

で、そのまま次を訊いちゃうから・・・

前に、近所の散髪屋さんでも
若い男のひとが、アタシの散髪しながら

「よく喋るね」

アタシはすごーくハズカシくて
そのあとはひと言も喋らなかった(と思う)。

でも、ちょっと経つと
元に戻っちゃうんだよね。

おとうちゃんにも散髪屋さんにも
アタシ悪いことしちゃんたのかも。

でも、「聞きたがり」も「オシャベリ」も
直らないみたいな気がするし・・・

仕方ないよね。




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ねねの日記⑮ ・・・ シノクラさんの雪 

2015-01-10 12:32:30 | E市での記憶
お正月が過ぎて
でも、まだ学校はお休みの頃
おじいちゃんが
シノクラさんに連れてってくれた。

おじいちゃんは、あんまり
アタシたちと出歩いたりしない。

大体、あんまり
家から外にも出ない・・・と思う。

だからおねえちゃんと三人で
遠くの神社にお参りに行くなんて
とっても珍しい。

シノクラさんに行くのも
アタシは初めて。

どこにあるのかも知らないから
行ってみてちょっとビックリした。

とにかく「遠い」。

歩いても歩いても
なかなか着かない。

サンノウさんや
カメヤマさんよりずっと遠くて
アタシはちょっと
歩くのに飽きてきた。

そのうちに
前を歩いてたおじいちゃんが
振り返ってアタシたちの方を見た。

遠くにちっちゃく
神社のトリイが見える。

わ~あとちょっと。

でも、トリイが近づいて来るほど
雪がだんだん深くなって・・・

トリイの下をくぐったら
とうとう「道」が無くなっちゃった。


雪の中の「道」っていうのは
誰かが歩いたあとにできるんだけど
トリイの向こうは、まだ
誰も歩いてないみたい。

雪がもうちょっと少なかったら
「わ~い、いちば~ん」って
おねえちゃんと競争して歩くんだけど
長靴の高さより、積もってる雪の方が
ずっと高いから・・・

歩こうとしても
ずぼっ、ずぼって
ゴボってばっかし。

長靴の中に雪が入って
脱いで、はらっても
だんだん靴下がぬれてきて・・・

とにかくおじいちゃんの足跡の上を
気をつけて歩く。

でも、おじいちゃんは背が高いし
オトナだから一歩が大きい。
アタシが真似して歩くのは無理みたい。

やっぱり、あちこち
ゴボリながら歩く。

おじいちゃんが急に振り向いて
「そこはアカン」。

木の枝にこんもり雪が乗ってて
落ちてきたら危ないってこと・・・みたい。

そういえば、シノクラさんの木は
どれもモノ凄く太い。

トリイを過ぎてから
ずっと足元ばっかり見てたけど
周りを見たら
雪が積もった木がいっぱい。

見上げても、空が見えないくらい
どの木もみんな高かった。


なんとか神社にたどり着く。

呼んでもだれも出て来ない。

どうするんやろ・・・って思ったけど
オジイチャンは全然困らなくて
すたすた中に入ってく。

廊下の途中でカンヌシさんに出会うと
おじいちゃんは笑顔になって
「おめでとうございます」とか
平気で普通にあいさつしてた。


カンヌシさんにオハライしてもらって
うちに帰る頃には
ちょっとだけお日さまも出てきて
景色が全然違って見えた。

来るときの神社の森は
なんだか夜だったみたいな気がして。

白と黒と緑しかなかったからかなあ。
アタシはちょっと怖かった。

大きな木が、雪をかぶって
じわじわ押し寄せて来るみたいな気がした。

でも今、お日さまの光があたってると
雪はなんだか「白」じゃなくて「金色」。
木の「緑」も「黒」も、
おんなじように輝いて見える。

空の色も明るくなって
ほんのちょっとだけ「青」も見える。

長靴の中は冷たかったけど
アタシはなんとなく嬉しくなって
元気出して歩いて帰った。

おじいちゃんは、やっぱり
なんでもないみたいな顔してた。





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ねねの日記⑭ ・・・・・ さざんか

2015-01-09 12:34:39 | E市での記憶
おじいちゃんの庭には
サザンカの木が一本ある。

母屋の近くに立ってるから
花が咲くと、すぐわかる。

でも、この木にいっぱい花がついてるの
アタシはあんまり見たことない。

咲いても、いつもほんの少しだけ。
(アタシがちゃんと見てないのかなあ)


「花は、いちりん、にりんって数えるんよ」って
オダさんが教えてくれた。

いちりん、にりん・・・って
なんか可愛い。鈴の音みたい。

「雪囲い」の竹とワラ縄の間から
緑の葉っぱの蔭になって
花びらがちょっとだけ見えてる・・・

そういうときのサザンカは
雪にこんもり覆われてる庭で
たった一つの「紅い」色。

どんなに小さくても、よく目立つ。

咲いたばっかりのサザンカは
「いちりん」って感じがする。

でも・・・

ほんというと、アタシは
サザンカ、好きかどうかわからない。

花が咲いて、時間がちょっと経つと
花びらは茶色っぽくなって
そのうち下に落ちてしまう。

その色はもう「紅」じゃなくて
もっとナマナマしい
気持ち悪いような色。

たま~にしか見ることないけど
カンゴフさんがノーボンに
取り替えたガーゼ載せて運んでるとき
あんな色してる・・・気がする。

白い雪の上に落ちた血が
時間が経って固まった・・・

そんな感じがして
アタシはサザンカのこと
好きになれないんだと思う。

なんだかお侍さんたちが
木のそばで斬り合いしたみたい・・・

でも、こんなこと誰にも言わない。
ヘンな子って思われるから。


アタシは、夏のサザンカの方が好き。

一年中、葉っぱは緑で
ピカピカ光ってる。

花のついてないサザンカ見て
「いちりん」だけ咲いたときのこと
思い出してるときが、たぶん一番
アタシは好きなんだと思う。



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ねねの日記⑬ ・・・ すいせん・シシマイ・お正月  

2015-01-04 16:03:28 | E市での記憶
お正月の朝起きたら
スイセンの花のにおいがした。

どこからするのかなあ・・・って
家のなか探してみたら
洗面所の鏡の前に
牛乳ビンに2本入ってた。

こんな少しで
こんなに甘~い香り?

なんか、おかあちゃんの香水みたいだけど
ほんとかなあ・・・って思ってたら
「お座敷と玄関に、奥さんがいけてたよ」って 
オダさんが教えてくれた。

奥さんっていうのは
おかあちゃんのこと。

「でも少し残ってたから、もらって
あたしが牛乳瓶にいれておいたんよ」だって。

オダさんは、なぜかわからないけど
ちょっとハズカシソウだった。


お正月の、特に最初の日は
おじいちゃんやおばあちゃんにいろいろ言われる。

お正月は朝寝坊しちゃいけない。
「元旦から朝寝してると、一年中寝坊する」から。

お正月は、なるべく新しいキレイな服を着る。
「そうじゃないと、一年中キタナイ格好になる」から。

アタシは、おねえちゃんとお揃いの
新しい編み込みのセーター着てる。
「雪の結晶の模様だね」って
おねえちゃんが言ってた。

お正月はお餅ついて食べる。
「昔はお米はなかなか食べられんかった」から
・・・みたい。

お正月はイロイロ食べる。
「マメに働けるように黒豆」
「昆布はよろこんぶ言うて、おめでたい」
「数の子は子どもがたくさん」

意味のワカルのもワカラナイのもあるけど
アタシは、甘いおしょうゆつけたお餅と
あとは玉子焼きだけでいいんだけどな~。


お正月は、雪が降ってるのと
降ってないのとで、全然違う。

降ってるときは、コタツに入って
みんなでゲームをしたりする。
普段はあんまり一緒にいないおとうちゃんや
たま~には、おかあちゃんも
一緒に遊んでくれたりする。

なんかすごーく特別な感じ。

いつもは「子どもは風の子。
外出て遊びなさい」って言われるのに
お正月はあんまり言われない。

キレイな格好してないといけないから
外に出て遊んでベタベタになったら
ダメなのかもしれないけど。


雪が降ってないお正月だと
シシマイが来る。

アタシはほんと言うと
シシマイって、ちょっと怖い。

いつだったかヒロちゃんが
「シシマイって、子どものアタマ食べるんだって」
「どんどん家の中、入ってきたりするんだって」
なんて言ってたから。

ほんとかなあ・・・

足は人間の足(たぶん)だけど
顔は違うから・・・

ときどき尺八吹きながら
玄関に来る虚無僧も怖いけど
アレは人間だってことはわかってるから
まだマシだと思う。

アタシはシシマイが一軒一軒廻ってるときは
あんまり近寄らないようにしてる。

でも、一回くらい
う~んと近くから見てみたい気もする。

おばあちゃんは
「昔は正月はマンザイが来て
そりゃあニギヤカやった」って言う。

面白いの?って聞いたら
「もお、オモシレエったらなかった」って。

TVで日曜日にカドザのチュウケイしてて
漫才もよく見るけど「あんなの?」って聞いたら
おばあちゃんは、ちょっと顔をしかめて
「アレたぁちごうて、もっとずっとええ」。

「マンザイ」にもイロイロあるらしかった。




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ねねの日記⑫ ・・・ は、つ、ゆ、き

2015-01-01 13:52:59 | E市での記憶
桜とか、イチョウの葉っぱがぜ~んぶ落ちて
風がますます冷たくなって

もう「秋」じゃない・・・って
はっきりわかるようになった頃。

朝目が覚めると、きのうまでとは

「空気が違う!」

顔とか、鼻先とかの「冷たさ」の感じも
もう、全然違ってる。

台所のおばあちゃんか
モリシタさんとかオダさんとかが
「おはよう」って言うまえに教えてくれる。

「雪が降ったよ」

わ、わ、わ~~~きゃ~~

おねえちゃんと競争で着替えて
玄関に飛んでいく。

ふんわりした粉を
うす~く撒いたみたいに
道が白い。

「ほんとだ!!」
 
おねえちゃんの口からも
アタシの口からも
機関車の白い煙みたいに
「息」が見える。

大急ぎで長靴はいて
雪の上、歩いてみる。

古い小さくなった長靴だと
すべって転んだりするから
気をつけてそぉ~っと歩く。

人がまだ踏んでないとこ探して
足跡つける競争。

あっという間に
道路は足跡だらけになっちゃって・・・

「はよ、ご飯食べてしまい~」

で、シブシブ
おねえちゃんもアタシも家に入る。

ちょっと苦いカブラのおつゆも
湯気がなんだか、いつもより一杯。
早く外に出たくって
タマゴかけごはんも一生懸命食べる。

でも・・・

アタシたちが学校行くときはもう
道路の雪は消えちゃってる。

どうしてなんだろ。
早すぎるよね。

でもでも、屋根とかゴミ箱とかの
蔭になってるとこにだけ
くっきり白く残ってたりするから・・・

おねえちゃんと「雪」探ししながら
走って学校行く。

会う子みんなに
「雪ふったね~」って言うんだよ。

なんだかみんなも嬉しそう。



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