もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記⑰ ・・・・・ おとうちゃんのカマクラ   

2015-02-07 13:48:25 | E市での記憶
オダさんは
雪かきが好きみたい。

ときどき、スコップで雪あけたあと
小さなカマクラ作ってくれる。

雪だるまなんて
もっとしょっちゅう。

道路と玄関の前の雪かきで
どこの家の前も
あけた雪が山になるけど
うちは、救急車が来たりするから
玄関の前は、ひろ~く空けとかないと
いけないんだって。

患者さんは、タンカにのって
来ることもあるし。

でも、雪かきはけっこう
大変なのかも。

アタシなんか
あんまりさせてもらえない。

オトナの力じゃないと
「かえってジャマになる」みたい。

「子どもは遊ぶのが仕事」って
おばあちゃんも言ってた。


雪がたくさん降るようになると
屋根の上に積もったのも
降ろさなきゃいけなくなる。

アタシも一度くらい
二階の屋根に上がってみたいけど
もう、ぜーったいダメって言われる。

一階の屋根なら
二階の窓から出れば行ける。

でも、それくらいでもおかあちゃんに
死ぬほど怒られそうな感じ。

高いとこ、アタシ好きなのになあ。

屋根雪を降ろすときは
庭に近い方の屋根は庭へ
道路に近い方はそのまま
道路に向かって放り投げる。

だから屋根雪降ろしてるの見たら
歩いてるときでも「通りま~す」って
大きな声で言ったりする。

気がついてもらえないまま
頭の上から、雪の塊が降ってきたりすると
大ケガするからって学校でも言われた。

大声で言ったのに、聞こえてなくて
そのときは空からの雪も降ってて
屋根からのは、そんなに
大きいカタマリじゃなかったのに
ホネが折れて、傘がダメになっちゃったこともある。

でも、ほんとにたくさん雪が降る年だと
「サンパチのゴーセツ」とかいって
もうしょっちゅう「屋根雪降ろし」にあう。

だって、きのう降ろして
すっきりペッタンコになった屋根に
次の日にはまた1メートルほど
積もってたりするから。

庭も道路の両側も
一階は雪の壁になっちゃう。

道の真ん中は歩けるんだけど
そこもだんだん、狭く高くなって
歩いてても上がったり下がったり。

すべる長靴だと
怖くて歩けない。

道路が元々はどんなんだったかも
全然思い出せなくなっちゃう感じ。

お向かいのヤッちゃんの家なんて
このごろは二階の窓から
出入りしてる。

診察場の軒先のツララも
ものすごく長く太くなる。
さわっても、もうビクともしない。


そんな冬の日曜日、朝から
庭の方でおとうちゃんの声がした。

一階の窓なんて開けられないし
開けられても、雪囲いがしてあるから
庭は全然見えないし・・・

で、おねえちゃんと二階に上がって
窓を開けてみたら
なんと!おとうちゃんが
雪でいっぱいの庭に出てた。

おとうちゃんは
大きなカマクラのそばで
嬉しそうに笑ってた。

アタシが見たこともないような
ほんとに大きなカマクラ。

おねえちゃんと一緒に大声出して

「どうやってそこまで行ったの~?」

おとうちゃんも大声で

「君たちのいるとこからだよ~」

え~~~~!!!

オトナはいいなあ。
二階の窓から出てもいいんだあ。

「カマクラ、おっきいね~」

「そうかい?」

おとうちゃんは不思議そう。

「こんなもんだよ。すぐ出来る」だって。


おとうちゃんが、そのあとどこから
うちに入ったのか、アタシは知らない。

二階の窓からは、飛び降りられても
上がってくるのは無理だと思った。

それに・・・きっとまた
「患者さん」が来ちゃったんだと思う。

でも、それから何日も
アタシはそのカマクラで遊んだ。
お友だちとママゴトもした。

カマクラはなかなか
融けなかった。


おとうちゃんがカマクラ作ってくれたのは
そのとき一度だけだったけど
あたしはちゃ~んと覚えてる。




コメント
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