もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記⑮ ・・・ シノクラさんの雪 

2015-01-10 12:32:30 | E市での記憶
お正月が過ぎて
でも、まだ学校はお休みの頃
おじいちゃんが
シノクラさんに連れてってくれた。

おじいちゃんは、あんまり
アタシたちと出歩いたりしない。

大体、あんまり
家から外にも出ない・・・と思う。

だからおねえちゃんと三人で
遠くの神社にお参りに行くなんて
とっても珍しい。

シノクラさんに行くのも
アタシは初めて。

どこにあるのかも知らないから
行ってみてちょっとビックリした。

とにかく「遠い」。

歩いても歩いても
なかなか着かない。

サンノウさんや
カメヤマさんよりずっと遠くて
アタシはちょっと
歩くのに飽きてきた。

そのうちに
前を歩いてたおじいちゃんが
振り返ってアタシたちの方を見た。

遠くにちっちゃく
神社のトリイが見える。

わ~あとちょっと。

でも、トリイが近づいて来るほど
雪がだんだん深くなって・・・

トリイの下をくぐったら
とうとう「道」が無くなっちゃった。


雪の中の「道」っていうのは
誰かが歩いたあとにできるんだけど
トリイの向こうは、まだ
誰も歩いてないみたい。

雪がもうちょっと少なかったら
「わ~い、いちば~ん」って
おねえちゃんと競争して歩くんだけど
長靴の高さより、積もってる雪の方が
ずっと高いから・・・

歩こうとしても
ずぼっ、ずぼって
ゴボってばっかし。

長靴の中に雪が入って
脱いで、はらっても
だんだん靴下がぬれてきて・・・

とにかくおじいちゃんの足跡の上を
気をつけて歩く。

でも、おじいちゃんは背が高いし
オトナだから一歩が大きい。
アタシが真似して歩くのは無理みたい。

やっぱり、あちこち
ゴボリながら歩く。

おじいちゃんが急に振り向いて
「そこはアカン」。

木の枝にこんもり雪が乗ってて
落ちてきたら危ないってこと・・・みたい。

そういえば、シノクラさんの木は
どれもモノ凄く太い。

トリイを過ぎてから
ずっと足元ばっかり見てたけど
周りを見たら
雪が積もった木がいっぱい。

見上げても、空が見えないくらい
どの木もみんな高かった。


なんとか神社にたどり着く。

呼んでもだれも出て来ない。

どうするんやろ・・・って思ったけど
オジイチャンは全然困らなくて
すたすた中に入ってく。

廊下の途中でカンヌシさんに出会うと
おじいちゃんは笑顔になって
「おめでとうございます」とか
平気で普通にあいさつしてた。


カンヌシさんにオハライしてもらって
うちに帰る頃には
ちょっとだけお日さまも出てきて
景色が全然違って見えた。

来るときの神社の森は
なんだか夜だったみたいな気がして。

白と黒と緑しかなかったからかなあ。
アタシはちょっと怖かった。

大きな木が、雪をかぶって
じわじわ押し寄せて来るみたいな気がした。

でも今、お日さまの光があたってると
雪はなんだか「白」じゃなくて「金色」。
木の「緑」も「黒」も、
おんなじように輝いて見える。

空の色も明るくなって
ほんのちょっとだけ「青」も見える。

長靴の中は冷たかったけど
アタシはなんとなく嬉しくなって
元気出して歩いて帰った。

おじいちゃんは、やっぱり
なんでもないみたいな顔してた。





コメント
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