もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

音匣 おるごおる

2024-08-18 15:16:13 | K市での記憶

オルゴールが好きだと言っていた父は

晩年になって、外国のメロディーの入った

大きなオルゴールを買った。


なんていう曲かはわからなかったけれど

父の書斎の「箱型の棚」に置くと

棚が共鳴して、素晴らしい響きになるとわかった。


テーブルに置いて、ふたを開けたときは

ごく普通に「きれいな音色」


でも、棚に置いて開けると、突然

魔法の楽団が現れたみたいになる。


「共鳴ってすごいね」

「音の魔術だね」


姉もわたしも、ただうっとり聞きほれた。


オルゴールの秘密を教えてくれた母は

発見したのは自分と言いたそうだった。

 

ほんの数分の室内楽。

音の箱をじっと見つめて。

 

オルゴールを「音匣」と書くと知ってから

あのときの光景が

一枚の静止画になって目に浮かぶ。

 

あれから40年以上。

今はオルゴールも、あの家もなく

父も母も別世界の人。


姉の声を聞くこともなくなって…

 

それでも、またいつか

いっしょにあの曲を聴ける日が

来るような気がして、仕方ないのだ。

 

 

 

 

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