もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記⑲ ・・・ モンちゃん

2016-01-02 18:08:50 | E市での記憶
カンゴフさんのモンちゃんは
うちに住んでる人だ。

うちの茶の間の押入れは
右がオダさん、左がモンちゃんので
「あんたたちは絶対開けちゃダメだよ!」って
おかあちゃんに言われた。

夜は、茶の間のチャブダイ片づけて
オダさんとモンちゃんの二人分
おふとんひいて寝てる。

お昼間は、オモテでカンゴフさんやって
夕方になると、二人とも
黒いセイフク着て、カバン持って
電車の駅の方、駆けてくみたい。


モンちゃんが「集金」に行くとき
アタシ、自転車の後ろに
乗せてもらったことがある。

自転車の後ろなんて
初めてだった。

はじめはヨロヨロして
こわかったんだけど
すぐにビュンビュン。

もう、すごーく面白かった。

三ヶ所くらい回って
そのたんびに降りて
モンちゃんが帰ってくるのを
自転車のそばで待ってた。

アタシを乗せてても
モンちゃんは平気そうだった。

ふっくらして
いつも赤いほっぺが
もっと赤くなったけど。

でも、乗せてもらったのは
そのときだけ。

後から、おかあちゃんに
二度とやっちゃいけないって
きつーく言われた。

モンちゃんも、もしかしたら
おこられたのかなあ。

ワルイことしちゃったかなあ。


もっと大きくなってから
モンちゃんのこと、いろいろ聞いた。

「集金にやったら、帰ってこん」って
おばあちゃんが言った。

「河原に寝っころがって
若いもんと一緒に空見てた」って
近所の人から聞いたって。

いいよね、それくらい。
ちゃんと帰ってくるんだし。


モンちゃんは芸者さんの子だって
誰かが言ってた。

お父さんは「ワカラナイ」とか
お母さんは「病気」だとか
その病気がモンちゃんに
「うつってないといいけど」とか。

モンちゃんが中学出てうちに来たのは
そのお母さんに頼まれたからだって。


モンちゃんは、お風呂屋さんに行くと
帰りに、洗面器に山盛り
アイスキャンデー買ってくる。

1本あげるって言われて
おねえちゃんと半分こしたことある。


モンちゃんはいつも
なんだか楽しそう。

「あて、この人がいい」って
雑誌の写真指さして
「サイゴウテルヒコっていうんよ」

アタシがわからないのを見て
「まだ出たばっかりだから」って
ひとりでうなずいてた。

アタシ、モンちゃん
こわくないから好きだった。

あんなオネエサンになりたいなあって
なあんとなく思ってた。








コメント
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