もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記⑪ ・・・ ユミヤのワタアメ 

2014-11-16 19:01:28 | E市での記憶
明日からサンノーさんのお祭りだ。

今日は「ユミヤ」だって
おねえちゃんが言った。

「おねえちゃんとユミヤ行くの」

「ユミヤ?」

「ユ、ミ、ヤ、お祭りの」

「あ・・・ヨミヤ」

ミヤモトさんは笑顔になって
「いいわね~」って言った。

サンノーさんは、家から
わりと近い。

「サンノージンジャ」かと思ったら
「ヒヨシ神社って書いてあったよ」って
おねえちゃんが言ってた。

よくわからないけど
みんなサンノーさんって言うから
いいんだと思う。

サンノーさんのお祭りは
提灯なんかも明るくて、お店も一杯で
すごーくにぎやかな感じ。

カメヤマのふもとの
もうひとつのジンジャのお祭りと
全然ちがう。

ちょっと前、ここへ来てまだ
あんまり経ってない頃
おねえちゃんが
カメヤマさんの方のユミヤに
連れて行ってくれた。

アタシはお祭りってどんなトコか
まだあんまり知らなかったから・・・

おねえちゃんが、もらってきたお小遣いで
「ワタアメ」を買って
ちぎって食べさせてくれたとき
ビックリした。

ワタアメ見たことなかったし
食べたこともなかったから。

どこからかわからないけど
ワタみたいな糸みたいなモノが
少しずつ湧いてきて
いつのまにか「ワタアメ」が出来て・・・
いつまで見てても飽きない感じ。

食べたら甘くて
もうものすごーく美味しかった!!

でも、いつの間にか暗くなってきちゃって
アタシはだんだん怖くなった。

カメヤマさんのユミヤは
お店も提灯や灯籠も少なかったんだと思う。

友だちに会ったりして、おねえちゃんは
まだ遊んでいたそうだったけど
アタシが帰りたいって言い張ったから
あきらめて連れて帰ってくれた。

アタシはみんなに
「ワタアメ」の話をした。

みんなワタアメのことは知ってるみたいで
モリシタさんもオダさんも
「美味しいよね~」って笑ってた。


もっと大きくなってからは
お祭りは、おねえちゃんとじゃなくて
友だちと一緒に行くようになった。

でも、綿あめは
いつも買ってる。

ほんとはアタシも誰かに
綿あめ買ってあげたいな~って思うんだけど
買ってあげられる子いないから・・・

アタシも妹か弟がいれば
良かったのかな~

でも、自分が妹の方が
なんとなくトクな気がするし・・・
やっぱり、いなくて良かったのかな。




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ねねの日記⑩ ・・・・・ えみちゃん

2014-11-07 15:53:13 | E市での記憶
うちはお医者さんで、向かいは
洋服屋さんとパーマ屋さん。

お隣は、貸本屋さんで
10円持ってくとお菓子も買える。

反対がわのお隣はふつうの家。

りんご見つけたとき一緒だった
ヒロちゃんは、その家の子だ。

ヒロちゃんは、うちのおねえちゃんと
同い年のお姉さんがいて
えみちゃんっていう名前だった。

アタシたちがこの家に来てから
最初のうちは、えみちゃんも
みんなと一緒に遊んでた。

えみちゃんは、おねえちゃんより
なんだか静かで、ほっそりしてて
まりつきとかすごく上手。

なんとなくやさしい感じがして
アタシはえみちゃんも好きだった。
よく一緒に遊ぶのは
妹のヒロちゃんの方だったけど。


えみちゃんの家は、最初から
おかあさんがいなかったような気がする。

もしかしたら病気か何か
だったのかもしれないけど。

おばあちゃんとお父さんがいて
お父さんは夜になると
かばん持って帰ってきた(と思う)。

ある晩、そのお父さんがうちの玄関に、
きれいな着物きた女の人を連れてきた。

髪に白い羽根の飾りつけて
女の人はゆっくりお辞儀をした。

そばにはヒロちゃんのおばあちゃんもいて
もっと丁寧にお辞儀していた。

新しいお母さんだって
うちのおばあちゃんは言った。

でも、モリシタさんたちは
「ヒロちゃんは実のお母さんやからいいけど
えみちゃんはかわいそうやね」って。

おばあちゃんに、どうしてえみちゃんだけ
かわいそうなん?って聞いたら
「そんなことはあんまり言われん、言われん」。

結局、教えてくれなかった。

えみちゃんは、だんだん
アタシたちとは遊ばなくなった。


しばらくして、お隣に
男の赤ちゃんが生まれた。

ノリユキっていう名前になったって
ヒロちゃんが言った。
みんなはノリちゃんって呼んだ。

えみちゃんはときどき
ノリちゃんをオンブして外に出てきた。

ノリちゃんが歩けるようになっても
いつもえみちゃんは、そばについてた。

もう、えみちゃんは
アタシたちとは遊ばなかった。

「え~み~ちゃん」って呼びに行っても
玄関まで出て来なくて
えみちゃんのおばあちゃんが
今日は遊べないって言うだけ。

えみちゃんは家の手伝いで忙しいんだって
オトナの人が言ってた気もする。
(アタシの勘違いかもしれないけど)

ノリちゃんが保育園に行くようになると
えみちゃんを見ることもなくなった。


最後に会ったころのえみちゃんの顔は
ビックリするほど色が白かった。
アタシには、なんだか
大事にされてないお人形さんみたいに見えた。


えみちゃん、今、何してるんだろ。
どこかへ行っちゃったのかなあ。

ヒロちゃんもノリちゃんも
ずっとお隣に住んでるのに。

お手伝いで忙しくったって
ちょっとくらい会えるはずなのに。

えみちゃん、どこにいるんだろな~。





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ねねの日記⑨ ・・・ 落しもの見つけた!

2014-11-02 21:03:21 | E市での記憶
学校の裏の方に
すごくきれいなお庭がある。

前に、おねえちゃんが
「ひみつだよ」って教えてくれた。

お庭には、こどもは
入ったらいけないみたい。

探したけど
入り口もなかった。

おねえちゃんが教えてくれたのは
緑の垣根の破れ目だけ。

そこから見えるお庭は
なんだか外国のお城の中みたい。

小川があって
小さなお池もあって
きれいな花が浮かんでて・・・

「あれはスイレンっていうんよ」

おねえちゃんは
なんだか何でも知ってるみたい。

それから後も
アタシはお庭が気になって
ヤッちゃんやヒロちゃんと見に行った。

二人とも「きれえやね~」って言った。

アタシは見てると
なんだかドキドキした。
「こらあ~!」って
誰かに怒られそうな気がして。

何度目か、ヒロちゃんと行ったとき
いつもすわる垣根のそばに
モミガラみたいなのが、山になってた。

一緒に「山」を崩してみたら
大きなリンゴがゴロンって出てきた。

ヒロちゃんもアタシもびっくりした。

「どーする?」って顔で
ヒロちゃんがアタシの方を見る。

どうしよう・・・

このまま持って帰ったら
アタシたち、ドロボウになっちゃうし。

でも、置いていくのは
モッタイナイ気がするし。

二人でしばらく考えたけど
どうしていいかわかんない。

・・・そのとき、突然ひらめいた。

「警察に持って行こう!」

お庭は警察の近くにあって
アタシはこの間、学校から
見学に行ったばっかり。

持ってって、おまわりさんに見せたら
もしかして「あんたたちにあげる」とか
言ってくれるかもしれない。

ヒロちゃんはちょっと困ってたけど
アタシはわしわし歩いていって
警察の玄関はいって
入り口の人に

「このリンゴ、落ちてました」

入り口のおまわりさんは

「あそこの人に言いなさい」

おまわりさんたちが見てる中
知らん顔して歩いて行って
部屋の奥の方で、机に向ってるおじさんに
もう一度言った。

「このリンゴ、道ばたの
モミガラの中にありました」

「ひとつだけ?」

アタシとヒロちゃんがうんって言うと
おじさんは(思った通り!)

「そんなら家に持って帰りなさい」

やった~~!!!

アタシとヒロちゃんは
走ってうちに帰った。

ヒロちゃんが持ちたいって言うから
リンゴはヒロちゃんに渡した。

アタシよりひとつ年下のヒロちゃんは
危なっかしくて落っことしそうで
アタシは気が気じゃなかったけど。

うちに着いてから、もう一回
みんなにリンゴの話をした。

みんなが「えらいね」って
ほめてくれた。

りんごは「立派なスターキング」で
おばあちゃんが包丁で切ってくれて
ヒロちゃんと半分こしても、まだ
みんなで食べられるくらい大きかった。

でも・・・

だれにも言わなかったけど・・・

「そうだ、警察に行こう!」って思ったときから
アタシって、もしかして
ちょっとイヤな子かなあ・・・って思った。

リンゴは、思ったとおり
アタシたちのものになったけど
「いい子」のフリしたんやもん。

おまわりさんたちが、みんな
「なんや?あれ」って顔して見てる中
「大丈夫!」って知らん顔できるアタシは
やっぱりちょっと「厚かましい」子なんかも。

リンゴはすごーく美味しいって
みんな言ってくれたけど
アタシは、それほどじゃない気がした。

ほんとはどーしたら良かったのかなあ。

でも、仕方なかったよね。



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