もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記① ・・・ おばあちゃんのナムアミダブツ  

2014-07-31 11:55:31 | E市での記憶
おばあちゃんは、いつでもどこでも、何を見ても
「ナマンダブ、ナマンダブ、ありがたいのぉ」って言う。

ナマンダブっていうのは「南無阿弥陀仏」のことだって
おじいちゃんが言ってた。

「南無阿弥陀仏」っていうのは
うちのお仏壇にあるお経の本にも書いてあって
それさえ言えばゴクラクに行けるんだって。

ゴクラクっていうのは天国みたいなモンらしい。

ヨーチエンのセンセーは
ゴクラクじゃなくて天国って言う。
ホトケサンじゃなくて神サマだし
イエスさまもいるし
おばあちゃんとはちょっとちがう。


とにかく、おばあちゃんには
ナムアミダブツがいっぱい詰まってるんだと思う。

たま~に、ゼンドージに行くとき
いっしょに連れていってくれる。
ゼンドージは、「うちのお寺」だ。

まず、外のお墓にお参りする。

それからお寺の中にはいって
裏にいっぱい名前が彫ってある
大きな「おいはい」の前でもお参りする。

それから、お寺の門のそばの
小さなお地蔵さんがいっぱいある小屋に行く。

おばあちゃんは、真ん中の
いちばん大きなお地蔵さんを拝む。

「ナマンダブ、ナマンダブ、ナマンダブ」

うちのお地蔵さんもあるんだけど
小さいのはあんまりいっぱいあるから
いつもどれだかわからない。


おばあちゃんは朝のお日さまも拝む。

夜のお月さまも
どこかから「はつもの」をいただいたときも
道ばたにお地蔵さんがあったときも
手を合わせて、ちっちゃい声で
「ナマンダブ」言いながら、目をつぶる。

お米といでて、ちょっと流しちゃったら
「ガキにほどこす、ガキにほどこす」

お米は一粒でも粗末にしたらあかんでのって
おねえちゃんもアタシも、いつも言われる。

でも、流しに流れちゃったお米粒は
「ガキにほどこす」って言ってやると
オナカ空いて空いて死にそうなひとに
あげたことになるんだって。

カサかぶって、ワラジはいて、黒いキモノ着て
ツエ持ったお坊さんが、玄関でお経をよむと
いつもアタシかおねえちゃんに
十円玉持っていかせてくれる。

お坊さんの顔は見えない。

ただ黙って、深々とアタマを下げて
もうちょっとお経を言ってからいなくなる。

エーヘージっていうところから来て
またそこへ帰るんだって
いつかだれかが言ってた。

ゴクラクはなんだか何もしないとこみたいだけど
ジゴクは痛くて忙しそうで
アタシはぜ~ったい!行きたくない。

でも、おじいちゃんもおばあちゃんも
ジゴクはこの世にあるんだって言う。

この世っていうのは
生きてる間のことなんだって。

アタシはこの世も
あんまり好きになれないかも。


今日はここまで。おやすみなさい。
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