月光院璋子の映画日記

気ままな映画備忘録日記です。

「あじさいの歌」

2008年10月21日 | ◆ア行

1960年制作、監督滝沢英輔。石原裕次郎特集をやっていて放映されていた1本。未見の映画だったので見たのだが、これは、デビュー数年後の石原裕次郎出演の青春映画というよりは、「太陽の季節」「狂った果実」での鮮烈なデビューイメージ、そして「俺は待ってるぜ」「嵐を呼ぶ男」「錆びたナイフ」での男が共感する男のイメージが定着した石原裕次郎の、ある意味イメージチェンジを図った「乳母車」や「陽の当る坂道」ラインの家族青春ドラマ。



そういえば、「陽の当る坂道」でも、あの堂々たる本妻役は轟夕喜子だったような気がするので、調べてみたらビンゴ。


(肥満ぎみであることで母親役やマダム役が似合う女優になってしまったとも言える轟夕喜子)

本作も、主演は石原裕次郎というよりは、その往年の大女優の一人だったはずの轟夕喜子ではないかと思われるほど、一人の女性、一人の女優としての存在感が示された映画。
早くに亡くなられたけれど、沖縄アクターズスクールでユニークな教育論で日本の教育界に一石を投じた牧野正幸氏のご母堂ですね。この映画でも酸いも甘いも噛み分けた苦労人でいながら品格を失わない堂々たる母親像を演じきっていました。

本作の内容を、まず、こちらでご覧ください。http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD22975/story.html

深刻な内容になってもおかしくはないストーリーながら、どことなく軽妙なコメディタッチともいえる味わいになっているのは、裕次郎の演じる茫洋として厚かましい青年のキャラもあるけれど、脇を固めている使用人夫婦の殿山泰司と北林谷栄が軽妙ないい味を出していて、


(殿山泰司と北林谷栄。このお二人も変わらないですね・・・)


(上京して売りに出ていた旅館を買うために持ち主の不動産会社を訪問したところ、東野栄治郎と再会する大阪志郎と轟夕喜子)

お屋敷の主の奥方と駆け落ちした(ことになっている)元使用人の藤村役の大阪志郎の存在。
母親が不倫の果てに夫と子供である自分を捨てていったという幼少時の出来事がトラウマになっている主人の東野栄治郎から、
妻との不倫を疑われ屋敷を出て行った男ながら、その後は轟夕喜子を主として付き従ってきた忠誠心ぶり。
少しも暗い影がない不思議な軽さを見せているのも、演じているのが大阪志郎だからでしょう。まるで、ドラマ「大岡越前」と同じですね。(笑)

茫洋とした好青年河田という役は、ある意味石原裕次郎によく似合うっていたけれども、

深窓の令嬢役の芦原いづみが、野暮ったく見えて仕方がなかったと感じるのは私だけだろうか。

後年、裕次郎の奥方になって引退した女優の北原美枝と、
当時日活で人気を二部していた芦川いづみ。当然、若手人気スターとなった裕次郎との共演は多いけれど、


(家を出てから赤線で売春をしていたという母親を訪ねて大阪に向かう芦川いづみと彼女に頼まれて同行する裕次郎)

どうして人気があったのかと不思議でならない。白痴的な無垢な表情を見せるところが、戦後の焼け跡でのパンパンイメージで傷ついた日本女性のイメージを忘れさせる女性像だったのかもしれないですね。個人的には、北原美枝が女優を辞めたことが残念でならない私です。ま、相手が裕次郎なら、仕方がない。


(母親が家を出た理由を娘に語る東野栄治郎。短気でワンマンだったが、娘の将来を憂え二度と過ちを犯したくないと自分に非があったことを悟る。)

ヨーロッパの古の上流階級の師弟教育のように、学校に行かずに大学教授たちの家庭教師で勉学をして世間をまったく知らない令嬢役という芦川いづみの父親役が東野栄治郎ですが、これにも違和感があったのは、祖父役ならピッタリだったのにという思いのせいかもしれません。
当時43歳の轟夕喜子の相手役ができる俳優が日活にはいなかったのかもしれない。当時53歳だった東野栄治郎だけれど、いまの感覚からすると、70歳以上に見える老け顔です。


(母と娘と知りながら名乗りあわない二人。こうして見ると、昭和30年代の新旧世代の女優が並んでいるシーンゆえ、感慨深いです)

昭和30年代の日本は、老成するのが現代よりはずっと早かったのかもしれませんね。当時制作された映画を観ていると、女性は40歳、男性は50歳を過ぎるともう老境だったのではないか・・・・と感じられることが少なくない私です。

石坂洋次郎が描いた世界は、当時にあっても、東京の山の手で見かけられた日本人像でしょうから、日本人全体を代表するものでは無論ないだろうけれど、こういう映画を観ていると、この数十年間で、日本人はすっかり変わってしまったということを痛感させられますね。


(裕次郎のガールフレンド役の中原早苗。こんな役を演じていた彼女が、後年化け猫や俗の極みのような女性役が多くなるとは・・・・、感慨深いものがありましたね)

ところで、彼のガールフレンド役の一人が中原早苗だと分かるまでには時間がかかってしまいました。利発でモダンな女子大生役がとても似合っていたので、後年の化け猫役のイメージが強い私としては、驚きモノでした。


 


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