ケセン川の岸辺は、女たちの洗濯や水汲みの場にもなっていた。土器の皿や壺を洗いに来るものもたくさんいた。働き者の女たちは、朝早くから大きな壺を肩に載せ、川辺に向かう。水がなければ一日の暮らしは何もできない。一壺の水では足りないから、何度でも家と川を往復する。
それはヤルスベ族でも同じだった。昔の族長たちが取り決めを交わし、ケセン川は、カシワナ族とヤルスベ族が共有するものだということになっていた。漁をする男たちも漁場を決め、互いの漁場は侵さないことになっていた。
むろん、川を渡るときは、勝手に渡ってはいけない。楽師を立てて歌を歌い、向こう岸に渡っていくことを知らせてから渡らねばならない。
二つの違う部族が共存していくには、それなりの協定が必要なのだ。争いなどしていてはみんながつらいことになる。いやなことがないように、バランスをとりつつやっていかねばならない。
ヤルスベ族の村でも、朝早くから女たちが行列をつくり、壺をもって川辺に向かっていた。小鳥の声を聞きながらいつもの道を川に向かっていく。その女たちの行列の中に、アロンダがいた。
ひときわ目立つ黒い大きな目をしている。つややかな黒い髪を長くのばし、茅ひもでひとつにまとめて背中に流していた。肌の色がほかの女よりわずかに明るく、細いしなやかな手が、肩に載せた壺を抑えている。遠目にも、際立って美しい女だとわかる。
カシワナ族でもヤルスベ族でも、アロンダを知らない人間はいなかった。