世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

ケバルライ①

2018-07-30 04:10:48 | 風紋


賢き者
遠き道をゆけ
難き道をゆけ
正しきものついには勝たむ

歌が聞こえる。コルの声だ。

アシメックは目を覚ました。天井の木組みに光が差していた。朝なのだ。このところ、アシメックはソミナやコルよりも目を覚ます時間が遅くなっている。

目を覚ましてからしばらくは、思うように体が動かせない。寝ている間に冷たくなった足がじんわりと暖かくなってくるまで、しばらくじっとしているしかない。

こんな調子になってきてから、もう二月はたつ。季節はまた冬になっていた。冷え冷えとした家の中の空気が、骨に染みた。

ようやく体が動くようになったので、アシメックは身を起こした。コルはまだ歌っていた。歌えるのがうれしくてならないようだ。それはカシワナカの教えの歌だった。いろんな儀式のときに歌う。ソミナに教えてもらったのだろう。コルは物覚えが良かった。大人が歌うような難しい歌でも、かなりすらすら歌える。

いいやつだ。大人になったら、頭を使う仕事をさせたらいいだろう。ソミナのことも助けてくれる。

アシメックはコルのかわいい声を聴きながら思った。

寝床から立ちあがって、囲炉裏のそばまで来ると、ソミナが中に入ってきた。今日の朝餉は糠だんごではない。米の粥だ。昨日ソミナがついてくれた米を、外で焚火をして煮てくれたのだ。囲炉裏を使うと、アシメックが目を覚ますからだろう。

タモロ沼で米がたくさんとれてから、食事に米が出る回数が多くなっていた。そのせいか、村人はみな幸せそうだ。幾分ふっくらと太ってきたようにも見える。ソミナにもその様子はあった。コルを得てから、いくらか母親らしく丸くなってはきていたが。




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