世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

冬の子⑦

2017-11-23 04:13:01 | 風紋


エマナは一晩中苦しんだ。手伝いの女たちも、ほぼ一睡もせずに助けた。ミコルも家の外でまじないの歌を歌い続けてくれた。家の中から女の叫び声が聞こえるたび、周りに幽霊のような気が走るのを、ミコルは感じた。魔が、邪魔しようとしている。やつらは隙あらば小さい赤子の霊魂を食べようとするのだ。ミコルは必死に神に祈った。それが巫医の仕事だったからだ。

星が巡り、時が過ぎた。一晩はあっという間に過ぎた。

みんなの祈りが通じたのか、夜明けごろに、子供は生まれた。

女が身の割れるような思いをして産んだ子供は、男の子だった。朝日とともに生まれたのだ。

産声が聞こえたとき、女たちの間に歓声が起こった。

「生まれた!!」
「よくがんばったねえ、エマナ! アシムだよ!!」

木舟の中のぬるま湯に赤子をつけて洗いながら、ソノエがぽろぽろ涙を流していた。産婆のソノエはいつも、新しい子供が生まれるたびに泣くのだ。だれの子が産まれても、うれしくてたまらないという。

「こっちにおくれ! あたしの子!!」

陣痛の間は、しきりにトレクへの恨み言を言っていたくせに、生んだとたんにエマナは母の顔になっていた。そしてきれいに洗われた我が子を胸に抱いた時、震えるように喜んだ。

「ああ、なんて立派な子なんだ。おまえはアシムだよ」

エマナは泣きながら言った。そして早速乳をふくませてやった。赤子はすぐに吸い付いた。




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