ジャン・レオン・ジェローム、19世紀フランス、アカデミズム。
アレクサンドロス大王は、樽の中に住む哲学者ディオゲネスに会った折、自分以外の人間になるとしたらディオゲネスがいいと言ったそうだが、わたしはそれは馬鹿だと思うね。のんきに日向ぼっこをしていて日陰になるからそこをどいてくれと言った哲学者よりも、馬鹿と失敗ばかりをやり、傷だらけになりながら世界中を暴れまわり、結局は何もならなかったアレクサンドロスのほうが尊い。アレクサンドロスは戦いに明け暮れる自分の身を振り返り、心の平安の中に生きているかに見えるディオゲネスをうらやんだのだろうが、ふたりの人生を比べれば、なしたことが大きいのはアレクサンドロスのほうだ。高尚な意見を述べてあくせくする人間社会を馬鹿にしていたディオゲネスは、自分の身が奴隷に売られようとしても反抗すらしなかった。そして結局は、何もせずに終わったのだ。