おまへの
耐えがたきも耐ゆるべき
その罪の重さの
林檎よりも軽く
月よりも重きものを
そも
いづへにか
連れ去らむとす
灰色の猫のまなざしが
ひそやかにおまへを追ふ
インド翡翠の小さな夜蛾が
静けさに舞ひ踊りて
かすかに月光の地に落つる音を
おまへに伝へむとす
言ふべきことも
言はぬでよきことも
どちらも悲しい
おまへのために秘する
蛾に記してありし
愛を 未だ生まれぬ
こいぬのまなざしの中に閉ぢこめ
月満ちて生まれくるものを
またむともするか
悲しみよ
林檎を選べば おまへは落ちる
月を選べば おまへは落ちぬ
だが
逃げるおまへの足元から
珊瑚が光を産卵するかのように
インド翡翠のかけらが飛ぶ
翠の光に囲まれて
おまえはまるで
夜光虫をまとった幽霊のようだ
どんどん消えてゆく
足元のくぼみにつまずき
声もなく倒れるお前の背中に
小さな猫の眼球が二つ
びいだまのように転び
にゃあ と鳴く
いつまで いつまで
逃げる気か