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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

明日

2015-03-18 06:50:07 | 瑠璃の小部屋

苦しみが胸から去らない時は
心を青空に飛ばそう

木々の梢を櫛といてゆく
風のように飛んでいこう

花々の香りが作り出した
透明な海に飛び込んでいこう

光は心の壁を透いて
暗がりにひずんでいた君の胸を
温めてくれるだろう

かすかな鐘の音が聞こえるのは
世界の裏側で誰かが
神様の愛のために歌っているからだ

涙は消えなくても
明日を生きていく力が
胸の奥から あふれてくる

笑ってごらん




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神様の声

2015-03-17 06:53:34 | 瑠璃の小部屋

オルゴールのように
ぼくを開けてごらん
ほら 小さな声が聞こえるだろう
まるで静かな音楽のような
これはね ぼくが
一度だけ聞いたことのある
神様の声なんだよ
ほんとうさ

神様の声は
つげの木のささやきに似ていて
からまつの林の静けさに似ていて
爪よりも小さな白い小人のように
ぼくの耳から入ってきて
ぼくの心に小さな穴を掘って
うさぎのように すみついてしまった

神様の声は なんて言っていると思う?
ぼくはそれを 一生懸命に書いてみたんだ
知っている限りの言葉を使って
使える限りの技術を使って
直喩に使える魚や鳥を探して
隠喩に使える絹や毛織の絨毯を探して
そうやって 神様の言葉を全部
やっと書けたと思ったら
ぼくはいつしか 小さな青い小鳥を作っていた

小鳥はちるると鳴いて
そのまま僕の手から飛んで行って
あれきり帰ってこない
どこへ行ったのか わからない
でも ぼくはもう一度 神様の声を書いてみた
そうしたらぼくはいつしか
とてもきれいな銀色の蛾を作ってしまって
それもまた 夜のしじまの向こうに
すぐに飛んで行ってしまった

おかげでぼくは 神様がなんて言ったのか
いまだにわからない
でもあの声は いつでも聴くことができる
この胸の中で ぼくの心臓と一緒に生きているから

いつかきっと ぼくには
神様が 本当は何を言いたいのか
わかる時が来る
そうしたらみなに 教えてあげよう
ああ ぼくはそのとき それはたくさんの
薔薇を 世界中にまくように
幸せなことだろう




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悲しみは夜に

2015-03-16 07:05:46 | 瑠璃の小部屋

悲しみは 夜に歌おう
白い星が 雨あられのように
降ってくる この地上の
奇跡の映画が 見えるときに

悲しみは 夜に歌おう
小さなグラスに 虹色の金平糖を入れると
星の火が燃えて そこから生まれた白い小鳥が
君の心の小窓を 訪ねてくるときに

悲しみは 夜に歌おう
銀の瓶に差した 赤いバラが
閉じた心を開いて
真珠のようなため息を 
君の耳元に届けるときに

悲しみは 夜に歌おう




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風と真珠

2015-03-15 07:48:54 | 瑠璃の小部屋

この世界のすべては たった一羽の小鳥の中にある
この青い空のすべては たったいっぱいのコーヒーの中に入る

この青い世界のすべての花は 君の心の中に咲く
この空のすべての星は 
君の大すきな小さな小猫の瞳の中で光る
この世界のすべての愛は 
一つの小さなかわいい真珠の中にある
この世界に吹くすべての風は 
花弁の形をした貝細工のような 
君の耳の中を吹き抜ける

そして今夜は みんなでいくんだね
内緒の夜の ハーフ・ムーン・コンサートに
そしてみんなはやっとわかるのだ
この世界のすべての声はみな 
愛してると言ってることに

白い銀河のほとりで 今夜 今夜 今夜こそ
僕は君をみつける 君に出会える
そうしたら僕は君のために 
虹の香りで銀の薔薇を作ってあげよう

愛してるよ 君を とても
まるであの 静かな緑山の子宮の小屋に住む
秘密の金の蝶のように




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魔法

2015-03-14 07:24:12 | 瑠璃の小部屋

銀の炎を着た君は
風に揺れる白い菊のように指を揺らす
すると本当に
指先に白い真珠のようなつぼみが現れて
それを卵にして 君はたくさんの白い鳩を生むのだ
鳩はしばらく群れとなって上空を何度か回った後
ばらばらになって菫色の空に溶けていく

ああ よく見れば
銀の炎と見えた君の服は
風を凍らせて作った雪のように白いスーツだ
光が毛羽立つように君を覆っている
氷なのに 静かに燃えている
熱くはないのかい?と尋ねてみると
君は 氷だからねと そっけなく答える
ああ ほんとに
僕ときたら わかるはずなのに
わからなくて いつも
変な質問ばかり君に聞かせてしまうのだ

心が 目から滴って
体の重さに負けてしまう前に
僕は彼をまねて 魔法をやってみた
すると 僕の手は風に踊る菜の花のように揺れて
黄色いつぼみを卵にして 白い蝶々がたくさん生まれるのだ
ああ と僕は叫ぶ
白い蝶々は風の中を紙ふぶきのように舞いながら
やがて風に乗ってどこへともなく消えてゆく
僕がうれしそうな顔でそれを見ていると
君がいうのだ

すてきだね 君はもっと
心を大きくしていいと思うよ

うん
君がそう言ってくれるので
ぼくは本当に助かる
アクリルで作った偽物の空気が 
一瞬で本物の空気に戻って
呼吸が楽になって
ああ まだ生きていけそうだなって 思う




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蒼杉

2015-03-13 06:49:06 | 瑠璃の小部屋

ひとりゆく 蒼い杉の森を
耳の奥の ちいさなまいまいが
かすかな笛の音につまずいて
よろめいたと思うと
ぼくはいつの間にか倒れていた
地面がぼくの体温をすべて
吸い取ってしまう前に
立ち上がったが

ぼくはそのとき
めろんのように大きな真珠が
鳥のように目の前を飛んで行ったことに気付いた
何事なのだろうと
思わずそれについていくと
蒼い杉の森はだんだんと暗闇に塗りこまれて
さて困った
ぼくはどこからきたのか
どこへいけばいいのか

とにかく 大きな真珠はまるで
空から降りてきた白い月のようだ
杉の森の奥に 一本だけ
青ざめて生えている小さな銀杏の木の上で
くるくると回っている
ああ 周りを背の高い杉に囲まれて
まだ若い銀杏は日を浴びることができず
痩せ衰えて
黄葉をするにも絵具が足りずに
まるで青白く 今にも倒れそうなのだ

なぜ 蒼い杉の森などに 君は来てしまったのか
なぜ ぼくは 人間の町で 生きているのか

時々 わからなくなる
はたして僕は みなと同じ種類の生き物なのだろうか
もしかしたら僕は 人間ではなく
森の奥に芽生えるはずだったブナの木ではないのか

落ちていた古い杉の枝を削り
僕は小さなオカリナを作る
そして 青ざめた銀杏のそばに座り
カノンを真似た旋律を静かに吹いてみる
君も僕も 似ている
きっと僕も 君と同じように
誰かが 間違って違うところに落とした
小さな種だったのだ

オカリナの調べに
月のような真珠はくるくると回り
誰も知らぬ秘密のことばを ぼくらにささやいて
ふふ と笑う

昔 人間はみんな
あなたのような人ばかりでしたよ
それがいつのまにか
みんな違う種類の人間になったのです

僕は目を閉じて オカリナを吹く
なぜと 尋ねてはいけないことを僕は知っている
ただ ひととき
僕は一本の銀杏の木を慰めるために
笛を吹こう
月の光に染まった 僕の小さな時間の帯を
神様はひっそりと見ていて下さるだろう




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愛よ

2015-03-12 06:44:02 | 瑠璃の小部屋

愛よ おまえはいく
愛の ために
愛よ おまえはいく
愛の ために

針の 雨の中を
たぎりたつ 風の中を
ののしる いかづちの森を
愛よ おまえはいく
愛の ために

国境を越え 怒りを捨て
愛よ おまえはいく
愛の ために

愛よ おまえはいく
愛の ために





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銀の栗鼠

2015-03-11 06:47:37 | 瑠璃の小部屋

春は来るとぞ冬はいふ
わが胸はうつろにはあらず
ひそやかに住む銀の栗鼠
氷風の眼にも混じるか青き棘
若槻の血もしたたらむ石畳
硬き青磁の空の下
なにをなすべき わが心

閉じる眼に映る夢
色とりどりの風は吹き
しじまのうちにぞ星に染む
夜明けの鳥の声はして
風にさすらふわが胸の
珠の心を唇に
吹いては鳴らすびいどろの
音にぞしばしやすらはむ

なにをなすべき わが心




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鳥音渡詩集・銀の栗鼠

2015-03-10 07:03:32 | 瑠璃の小部屋

鳥音渡は、彼女が作り出した架空の詩人の一人である。かのじょは彼のために、かなりたくさんの詩を書いて残している。それをこれから少しずつ発表していこうと思う。

鳥音渡のモデルはかのじょ自身だと言ったが、もちろんかのじょよりはずっと恵まれている。一人っ子で両親に愛されて育った。才能のある子どもだったが、神経が細すぎて心を病み、勤め先を辞めて家事手伝いをしている。ここらへんは篠崎什に似ている。違うのは、心を許せる二人の友人がいることだ。

愛情を素直に表現しても、馬鹿にしない友達が二人いる。それだけで、鳥音渡は生きていくことができた。短い人生の間にも豊かな表現をすることができた。これはかのじょ自身が、夢に描いていたことかもしれない。

遠く離れている仲間とともに生きていくことができたら、どんなにうれしいだろうかと。

鳥音渡は瞳のきれいな詩人だった。曲がったことやずるいことがまるでできなくて、社会の落ちこぼれになった。詩を書くことによって、がんばって生き抜こうとしたが、結局は病で若くして死んだ。

「ガラスのたまご」を書いていた時、かのじょはまだ自分の運命を知らなかった。だが、何となく、風の中に感じるものはあったのだ。

明日から、第1詩集「銀の栗鼠」を、一編ずつ発表していく。かのじょが残した甘い愛の詩の世界を、しばらく楽しんでくれたまえ。




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ガラスのたまご・35

2015-03-08 07:33:49 | 瑠璃の小部屋

★ガラスのたまごはゼロの形

ケヤキ並木の続く石畳の舗道を歩いていくと、その古いカフェはあった。

「やあ、まだやってたんだな、このカフェ」オープンカフェの隅のテーブルにつきながら、手品師さんが言った。
「経営者は代わってるそうだけどな。前のオーナーがなくなって、甥御さんがついでるらしい」画家さんも手品師さんの前に座りながら言った。

「このコーヒー券、まだ使えるかな?」画家さんが古いコーヒー券を一枚出していった。それを見た手品師さんが笑いながら言った。
「何年前のだ、それ。まだ持ってたのか?」
「渡が生きてた頃のだから、10年は経ってるかな?」

季節は秋だった。ケヤキがうっすらと紅葉し始めていた。石畳の上に落ちる木の葉を見ていると、詩人さんの詩を思い出さずにいられなかった。

若槻の 血もしたたらむ 石畳

生きてた頃、たぶんあいつは、傷だらけだったんだろうな。画家さんはコーヒー券を見ながら、目を細めた。

古いコーヒー券は一応ウェイトレスさんに聞いてみたのだが、やはり使えなかった。その代り、サービスでクッキーをつけてくれた。画家さんはもう、このとき、地元ではかなりの有名人になっていたのだ。長身美形の外見で、若いころからかなりめだってはいたが。

コーヒーは、3つ頼んだ。昔のように。ウェイトレスさんは何も聞かずに、だまって三つのコーヒーを持ってきてくれた。手品師さんは、3つ目のコーヒーを、詩人さんの定位置だった、二人の間においた。

「みえないけど、いるんだろうな、あいつ」手品師さんが言った。
「ああ、たぶんな」画家さんが言った。ケヤキの木を、かすかな風が揺らす。

「国境派グループ展か。どんなものかと思ってたけど、おもしろかったな。かなりの人が集まってたね」
「まあね。最初は4人だったんだが、みながいろんなところに声をかけてくれて、十人集まった。まあ俺は、自由にほんとの自分がやりたいことをやれって言っただけだ。そしたら、こうなった。でもおまえがわざわざ見にきてくれるとは思わんかったよ」
「ネットの国境派サイトを見てね、どうしても見たくなった。強引に休みをとったから、あとがたいへんなんだけど。あのサイトも、国境派のアーティストの作品だろう?びっくりだね。鳥音渡の肖像と詩をトップにおいてあった」
「奴の言葉はパンチ力があるんだ。愛よ、おまえはいく。あれを読むと、胸が熱くなるんだってさ」
「ああ、それにはぼくも賛成するよ。その詩を思い出すと、やらなければいけないことをやるときに、勇気と活力が出てくる。やりたいって心が、燃えてくる」

画家さんはふっと口をゆがめて笑った。そして、風だけが座っているように見える、隣の椅子を見た。

「渡は、どう思う」と画家さんが言った。聞こえない声が聞こえる。

(すばらしかったよ。君はやっぱり、できるやつだ)

ふ、と画家さんは笑う。聞こえないけど、なんとなく詩人さんの言いそうなことがわかったからだ。

手品師さんも、詩人さんの席を見た。
「何もかも、君のやったことだろう、渡」言いながら、手品師さんは右手を振り、ハートの6を出す。そしてそのカードを、詩人さんのコーヒーの隣に置いた。

「今なら、君の言いたかったことがわかる。君のやりたかったことが。馬鹿正直でドジな奴、でも君は伝えたかった。世界に、本当の愛を。君はぼくたちに、それをやらせただろう。ぼくたちをつかって、自分の夢を叶えたろう」

画家さんはきょとんとした顔で、手品師さんを見た。画家さんには、手品師さんの言いたいことが、わからなかった。

ふふ。三人の中では、手品師さんだけが高卒だ。だけど、三人の中では最も頭が切れる。手品師さんには、わかったのだ。渡が生きてるってこと。見えない小鳥になって、自分たちを裏から動かしていたってこと。

手品師さんの舞台は、詩人さんの影響を受けて、まるで夢のような愛を演じてみせる。愛のために戦う、勇者の物語を。手品師さんの舞台から、人々は本物の愛と勇気の種を、知らぬ間に受け取ってゆく。愛が広がってゆく、知らないうちに。

国境派の作品群を見ても、鳥音渡の詩の影響を受けていない作品はなかった。

「ふ。君はすごい。本当の愛を最後まで信じてた。それで君は、世界を変えたかったんだ。君は死んだけど、生きていた。風と一緒に、いつも僕らと一緒にいた。そして、僕たちは生きて、愛を叫ぶ。世界を変える一人の勇者になる。君は、それを、ぼくたちにやらせた。すべては、君が始まりだった」

画家さんは黙っていた。画家さんを一流の画家にしてくれたのは、詩人さんの目だった。まっすぐで、きれいな目だ。見ると胸が澄んできれいになってくるような、まっすぐな瞳だった。あの絵を見た人間は、突然大きくなる。なぜかはわからない。偽物の世界から、突然本物の世界が見えて、生きている自分をがっしりとつかむことができるのだ。

「そうだ。すべては、おまえがやった。渡。死んでも、生きてる、おまえは、ずっといっしょに、いたな」画家さんが言った。

(うん)聞こえない声が言った。

(そんなつもりは、なかったけど。ただぼくは、なんでもない一羽の小鳥になって、自由に愛の声で鳴きたかっただけなんだ)

風が吹き、一枚のケヤキの葉を、テーブルの上に運んできた。その向こうに、一瞬、ふたりは見えない詩人さんの気配を感じたような気がした。

愛よ おまえはいく
国境を越え 怒りを捨て
すべてを 導く ために

静かな時が過ぎた。画家さんも手品師さんも、笑って、詩人さんを見つめた。見えなくてもいることが、わかった。
ハートの6が、風に翻り、ケヤキの葉と一緒に、風に吹かれて、飛んで行った。

(すべては、愛だっていう意味だよ。ハートの6は)

「わかってるさ。ぼくは生きてる限り、ハートの6を、世界中にばらまいていく。正真正銘、本当の自分の力で。誰にも負けはしない」

「ああ、ほんとうの、自分の力で」

画家さんと手品師さんは、愛に満ちた目で、見えない詩人さんを、見た。

すべてはまだ、これからだ。菫色の空の下で、3人は生きていく。そしてやっていく。すべてを、みちびく、ために。

愛よ おまえは いく。


(おわり)






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