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世界はキラキラおもちゃ箱・2

わたしはてんこ。少々自閉傾向のある詩人です。わたしの仕事は、神様が世界中に隠した、キラキラおもちゃを探すこと。

星の魚

2015-03-28 07:16:56 | 瑠璃の小部屋

そのときのぼくは
ようやくおむつを卒業して
ぱんつをはくようになったくらいの年だった
日のあまり差さない 暗い部屋で
積み木かなんかで遊んでいたと思う

ふと ぼくの中で
白く燃える魚のような星が
ぴしりとはねた
そのときばくは はっとして
ぼくが いることに気付いた
おぼえているんだ 不思議なことだけどね
ぼくの ぼくとしての記憶はあの一瞬から始まっている

かたかたと後ろの方から音が聞こえて
振り向くと お母さんが
洗い場で食器を洗っている
ぼくは思わず立ち上がって
おかあさんに近寄ろうとした
だけど結局は何も言わないで
元の積み木の場所に戻った

ふしぎだな ぼくはだれだろう
わかっているような気もするけど
なんだかよくわからない
そう思ったぼくは
おかあさんのピアノの椅子に登って
ピアノの横の壁にかけてある鏡をのぞいたのだ
それが はじめて
ぼくがぼくに出会った瞬間だった

何とも言えなかったな
鏡に映っているぼくが
どうしてもぼくに思えなくて
何だか ほんとの自分と全然違うような気がして
でも この顔はぼくの顔なんだ

今でもときどき あの時のことを
鮮明に思い出す
ぼくはあれからもずっと
この顔につきあって
この顔で自分をやっているけど
今もたびたび 自分の顔が
本当の自分の顔じゃないような気がするんだよ

ほんとうのぼくは どんな顔をしてるんだろうな
そしてどんなやつなんだろう
よくはわからないけど
ぼくはきっと そいつに出会うために
こうして 詩を書きながら
生きているんだと思う




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好きだって言えれば苦労はしないんだってさ

2015-03-27 07:04:37 | 瑠璃の小部屋

そりゃあ君 ただ
愛してるっていえばいいんじゃないの?
ごめんなさいって
だって悪いのは自分だって
わかってるんだろ?
簡単なことだと思うけどな

ふん なるほどね
君の気持ちもわかるよ
確かに 女の子ってのはわからないよな

でも人選ミスもいいとこだ
言っとくけどぼくは
初恋もまだなんだぞ
幼稚園のときのゆりちゃんは別として
女の子と手を握ったのなんて
高校時代のフォークダンスの時が最後だ
なんでぼくにそんなこと
相談するんだよ

恋のしかたなんて
誰も教えてくれない
教科書もない
聖書か論語に書いてあればいいのにね
あ そういえば
論語にこんなのがあるよ
女の子に恋するくらい勉強する奴はめったにいないって
あ それぜんぜんちがう
あ そう

でもさ
結局は好きなんだろ?
彼女の作るクリームコロッケ
食べたいんだろ?
クリームコロッケはぼくも好きだ
けっこう得点高いよ クリームコロッケ

謝っちゃえよ
好きだって言えよ
好きなんだったら
それでいいんじゃないの?
ぼくは 友達には
素直にそういうよ
好きだって
だって好きだからさ

あ なんかわかった?
もういい そうか
なんか参考になってればいいけど
いやいいよ お礼なんて

あれでよかったのかな
ぼくもよく
詩人なら恋の一つくらいしろって言われるけど
こればっかりはな
得意不得意ってものが

え? そういう問題じゃないって?
君まだいたのか




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わすれなぐさの

2015-03-26 07:16:31 | 瑠璃の小部屋

わすれなぐさの そらにみる
よあけのほしの とけのこる
あさのさやけき しづけさに
われのみひとり めざめたつ
あかきこころを たれやみむ

あかきこころを たれやみむ

つゆくさいろの そらにみる
ひるのまぶしき ひはありて
とりのさへづる こえをきき
ひかりあらへる あめつちの
なみだをしるは われのみか

なみだをしるは われのみか

いづくにか こころ
   あらむ

とりよ とべ




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夜空

2015-03-25 07:05:54 | 瑠璃の小部屋

青い 悲しみを
閉じ込める 頭骨は
瑠璃に 濃く染まってゆく
まるで 星を忘れた
夜空のように

ああ 今のぼくに 必要なのは
あたたかな 光の 絵具だ
赤や 青や 黄色や 白の
光る 絵具と
あと 小さな細い 
蝶の髭でつくった 筆を

そうすれば ぼくは
ぼくの頭骨に 星を描く
ひとつひとつ 丁寧に
星座を組んで 
十字や升の アステリズムを選び
音楽を 教え込み
静かな歌を 歌わせる

プラネタリウムのように
ぼくは ぼくの夜空を夢見る
ああ 悲しくなんかない
淋しくなんかない
ひとりでも

青い 悲しみは
どこからくるのか
ぼくが呼吸をするたび
冷たい風が 肺に舞い込んでくる
ああ 誰かの淋しさの棘が
ぼくの胸を刺して
それが一瞬 青く燃えるのだ

ぼくは 悲しくて
目を閉じて ぼくの夜空を見る
ひとりぼっちじゃ ないよ
ぼくはささやく
遠い風の声に ささやく





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折鶴

2015-03-24 06:58:24 | 瑠璃の小部屋

太陽を おりたたみ
おりたたみ おりたたみ
ちいさく おりたたみ
あなたに 赤い小さな
折鶴の つばさをあげよう

嵐の中で 傷んでしまった
あなたの 白い光の
つばさのかわりに

白い小さな部屋に
ひとりいることにあいたら
夢の中で 折鶴の翼を広げ
小窓から外に出て行ってみよう
わたしもともに
あなたとゆくことができる

いつもいっしょだ
あなたと わたしは
とおい日々の悲しみも
わたしといっしょなら
泣いていい

森の上を飛ぼう
海の上を飛ぼう
星の中を飛ぼう

小さな花の中に落ちて
細い根が吐息する
地球の歌を聞きに行こう

遠い日々の苦しみを
抱きしめてあげる
あなたが好きなだけ
しっかりと抱きしめていてあげる

泣いていいというのに
あなたが泣かないのは
わたしがもう先に 泣いているからだ
仕方ないね

夢が覚めたら
なにも覚えていないあなたに
折鶴がささやくだろう
今でも 愛していると




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銀河

2015-03-23 06:53:31 | 瑠璃の小部屋

金の音 銀の音
拾いながら
星をふみ 星をふみ
銀河の水を わたってゆく
向こう岸に
水晶の柱のように
立っている 君がいる

玉の音 花の音
拾いながら
星をふみ 星をふみ
銀河の水を わたってゆく
ああ 河は 海のように広い
光る石のような 星に
一足一足を 預けて
歩いていく 歩いて渡る
ぼくを 悲しいと誰かが鳴く
空を見上げてみると
白い鷺が 静かにわたってゆく

日の音 月の音
拾いながら
星をふみ 星をふみ
銀河の水を わたってゆく
君が 手を振っている
呼んでいる でも
ああ

星をふんだと思ったら
それは銀河を泳いでいる
銀の魚だった
ぼくはいっぺんに
銀河の水に落ちて
そして 目を覚ます

まぶしい光の中で 誰かの声がする
ああ ここにいたのか 君は
夢の中で ずっと探していたんだよ




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うたうたい

2015-03-22 07:34:40 | 瑠璃の小部屋

うたうたい うたうたう
からからと 銅の鈴の中で踊るのは
悲しみでできた 翡翠玉だ
青くて 白くて 緑で
銅の玉の闇の中で
澄んだ光を静かにまとい
聞こえない意味の風を
ひそやかに胎に吸い込む

うたうたい うたうたう
銀の細いトンボは
白い雲から風がひねり出した糸で作る
神様が描いた風景画の
乾いた絵具の小さな割れ目のように
飛ぶ それは
誰も知らないもう一つの
本当の物語へゆくための
小さな入り口

うたうたい うたうたう
緑の小鳥が 枝に絡みつく頃
硬い花芽の中で眠っている紅は
知っている
花は咲くとき 自分の身が割れて
ああ 痛い とかすかに叫ぶことを
とりどりの季節の祈りのように それは咲くとき
甘くも苦い痛みを味わうことを
花に宿る紅の玉は 春の薄日の中に
ちいさくささやき続ける

うたうたい うたうたう
うたうたいは うたうたう
なぜ うたう
ちいさな 瑠璃の 頭骨の中で
金色の光の鮒が
ぼくのちいさな脳みそを
ちりちりと焼くものだから
あの 風景を焼く 夕日の光で
孤独のろうそくに灯る 白い月の炎で

いたくて くるしくて 
うたうたい うたうたわずに いられない
ほほえんではいけないと 言わないでくれ
ほほえまずにいられない
目を閉じて思うのは君のことだけだ
幸せを 分け合うことが難しいのは
君がぼくを 怒っているのは
どうしても ぼくが歌いながら
笑ってしまうからだ

ほんとうは悲しいんだろう?
そう ぼくを見つめる 君の瞳が言っている

うたうたい うたうたう
悲しくなんかない




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2015-03-21 07:05:20 | 瑠璃の小部屋

とまった時計の中で
死んだ地球の上に
ひとり立っていた

海は ガラスをどこまでもしいてあるように
静かに 動かない
風は流れのままに固まった ゼリーのような手触り
もう少しすれば きっと氷のように硬くなるだろう

ぼくは人形のように動かずに立って
岸辺から海を見ている
空だけが 動いている
菫色の空に 白い雲だけが静かに流れている

淋しいと思うことなんかない
地球が生きていた頃も
ぼくはこどくだった
友達はいたけれど
いつもぼくは ひとり
自分だけが皆と違うような気がしていた

動かない地球を 眺めているうちに
ぼくはひとり歩き出した
生きているのはぼくだけかな
ならばぼくにはしなければならないことがある

そしてぼくは 砂浜に落ちていた石をひとつとると
それに小さな詩を吹きこんで
空に投げたのだ
小さな石は空に飛びだした途端に
白い鳩になってかなたに向かって飛んでゆく
これでいい

そしてぼくは ベッドの中で目を覚ます
ほら いつもぼくはこうやって
世界をすくっているのだ
死んでしまった地球も
滅んでしまった人間も
焼きつくされた森も山も
干上がった海も
無残な血の流れた町も
すべては ぼくが見た夢になった

だから地球は まだ生きている
まだ間に合う
まだ助かる

すべては




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栗鼠

2015-03-20 07:02:53 | 瑠璃の小部屋

緑色のろうそくに 火をつけよう
ほら 朱色の小さな小人が
ダンスを踊りだす
光をまとって 歌いながら
火花のようにリズムがはじけるよ
夢みたいだね

赤いろうそくに 火をつけよう
ほら 紅の薔薇の妖精が
ダンスを踊りだす
まっかなはなびらのドレスが
くるくると回ってリズムに乗るよ
きれいだね

青いろうそくに 火をつけよう
ほら 星の海に住む銀のメダカが
ダンスを踊りだす
真珠のようなしずくがはねて
光の中で虹のリズムを歌うよ
信じられないね

白いろうそくに 火をつけよう
ほら 君の胸に住む小さな栗鼠が
ダンスを踊りだす
クルミの木の香りが笑って
静かな森のリズムを呼んでくるよ
不思議だね




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この道を

2015-03-19 07:01:11 | 瑠璃の小部屋

雪降る 白きも静かなる道を
こころなき 白貝のごとき雪の
冷たく ほろほろと落ちる道を
ぬれそぼち 歩きゆく
紅梅のごとき われの耳を
穏やかな刃のごとき冷風の切る

雪は鉛の粒のごとく重く
凍てつくこほりにとぢこめし
にくきあざけりの
しじまの舌のごとく
われのほほを打ちにければ
われのほほを流れる涙は
湯のごとく熱く したたり落ち
白き雪の上に
うさぎの足跡のごとき
ちさき穴をこしらへゆきたり

まだ ゆくか この道を
風の中に姿なくも我に問ふものはたれか
問ひてきくもせん無きことと
知りながらも問ふ
おまへはたれか こたへはすまい

かろきつみも おもきやみも
すべてを ましろなるこほりの雪にて
かくしつくさむとした者の
いつはりをかなしむは
おろかともおもひつつもわれはいふ

まだ ゆく この道を
ましろにも こころなき
白き蛾の雪の降る こほるしじまの道を
われはゆく

まっすぐに




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