前夜の借りを返したいという考えが、延泊を決めた一因となりました。ただし、「麦とろ」には
去年の暮れにも行ったため、今回是非にと思うほどの執着まではありませんでした。むしろ大きかったのは「鳥玄」も選べるという条件です。しみじみ鑑賞したくなる設え、美意識の高さを感じさせる器と盛り付け、さらには店主の所作を含め、視覚的にも楽しめるという点で、当店の右に出るものはないと自分は思います。しかし、唯一にして最大の難点は看板が早いことです。日曜定休という条件もあり、「籠太」「麦とろ」の二軒に比べて、行ける機会はごく限られます。去年の暮れに訪ねているのは同様でも、再訪の困難性という点では歴然とした違いがあるため、今夜はこちらを優先したいという事情があったのです。
八時前にもかかわらず断られた仲間もいます。ましてや物騒なご時世、七時半を過ぎれば早仕舞いもあり得る時間帯です。とるものもとりあえず店へ向かうと、店先に灯る明かりが見えてきました。ただしまだ予断は許されません。恐る恐る暖簾をくぐると、先客は一組残っているだけでした。彼等が帰り次第終わりにする前提なら、今更来てもお断りということは十分あり得ます。しかし、何事もないかのように通されて、安堵感がようやく押し寄せてきました。
当店で感嘆すべきは、隅々まで周到に設計された美しさだけにとどまりません。値段においてもきわめて良心的なのです。とりわけ破格なのがコースと呼ばれるおまかせです。かつて2500円のAコースを頼んだところ、すっかり満腹になってしまい、その状態で「籠太」とはしごした結果、破綻を来したという
経験もあります。そのときの教訓を踏まえ、前回は単品を選択し、これで十分という結論に達しました。しかし今回は再びコースに回帰しました。比較的短い間隔での再訪なら、「麦とろ」には余力があれば行くという割り切りが可能です。一軒限りとすることも視野に入れれば、もう一方のBコースを試してみることもできます。その結果、今しかできない方を選んだ次第です。
寿司の松竹梅についてもそうですが、値段の違いは品数よりも食材に依存します。Aコースとの最大の違いは、見るからに立派な海老塩焼きにあります。その海老を主役にして、序盤に串焼き、終盤にとり蒸しが出て、最後に甘味という構成です。献立の幅広さを求める向きにはAコース、焼物を主体にするならBコースというのが適切な選択でしょう。いずれにしても、値段以上に満足できる献立です。
そのようなわけで、海老塩焼きが最大の目玉となるはずだったのですが、今夜はそれをも上回る代物がありました。おなじみの漬物と酒粕が出た後、店主が花を生けているのかと思いきや、その皿がこちらに差し出されたのです。よく見ればこごみを山盛りにした皿でした。市場にはまだ出回っていないものの、知り合いの伝で入った初物だそうです。何かにつけて控えめな店主が、自ら紹介するということは、それだけ貴重なものなのでしょう。しみじみ感謝しつついただきました。
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鳥玄
会津若松市栄町4-46
0242-24-9663
1700PM-2200PM(売切御免)
日祝日定休
栄川三合
茄子辛子漬け
蕪漬け
酒粕
こごみ
厚揚げ
かしら串焼
紫蘇巻焼
トマト巻焼
海老塩焼
とり蒸し
バニラアイス