日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

新しい世界観

2020-06-26 21:08:20 | 旅日記
営業日が五日の週なら、三日以上職場で業務に当たるというのが当面の取り決めです。交渉により二日に減らす余地が生まれはしたものの、さすがにそれが限度でしょう。既に三日を在宅にした今週、金曜は必然的に職場へ出向くはずでした。ところが今日も思わぬ形で在宅に落ち着きました。
実は、昨日から胃腸の具合がよろしくありませんでした。新型感染症の初期症状が胃腸に出た例もあると聞きます。大事を取って在宅にしたいと申し出て、許されるという顛末です。他に異状は何もなく、腹具合も今は回復したものの、体調を理由に出勤を免れた以上、酒場で一献というわけにはいきません。持ち帰りも一晩休みと相成りました。

結果として、今週職場に出向いたのは一日でした。先週は在宅が一日だったため、出勤と在宅の比率が逆転した形です。対照的な環境で二週を過ごしたことにより、自分には在宅の方が合っていると再認識させられました。
復帰の初日に感じたのは、これから職場へ赴くことに対するいいようのない憂鬱さでした。それによって気付いたのは、働くことが憂鬱だったわけではなく、集団生活に何より苦痛を感じていたという事実です。巷で話題の言葉を借りれば、適度な「社会的距離」を保てる在宅勤務が、自分にはとりわけ性に合っていたことになります。職場から毎日定時に帰れるのと、在宅で毎日遅くまで働くのといずれがよいかと問われれば、迷うことなく後者を選びたいというのが本音です。

「自粛」と「新しい生活様式」を散々批判してきましたが、足止めされても意外なほどに楽しんでおり、それどころかいくつかの恩恵にも与ってきました。逆に、職場での業務が再開された途端、「生活の質」が落ちたと不平を述べました。このことからもお分かりの通り、「新しい生活様式」の理念自体に異議を唱えているわけではありません。全く同意できないのはマスクの着用だけといってもよいでしょう。何が気に入らないかといえば闇雲な同調です。
去る週末、かつてのAKB公式ライバル達によるWeb配信を肯定的に評価しました。しかし、実をいうと共感しかねる部分が一つだけありました。いわゆる「新しい生活様式」を、本来あるべき生活様式へ戻るための、暫定的な状態とみなしている節があることです。これは、その名と裏腹に苦肉の策、有り体にいえばその場しのぎの対応と位置付けられていることを意味します。どうやらこれが世間的な理解ということのようです。
その背後に窺われるのは、病原体を「敵」とみなす思想です。憎き敵との「聖戦」を勝ち抜くために必要な特効薬という新兵器が開発されるまで、「新しい生活様式」に則って「我慢」せよということなのでしょう。戦中標語にも通ずるその思想は、同調しない勢力に対する批判と攻撃を誘発します。そのことがもたらした弊害については、このblogでも度々主張してきた通りです。

自分の理解は全く異なります。地球規模の気候変動が明白になり、毎年のように異常気象と災害に見舞われている現状は周知の通りです。それらの現象を大局的に捉えれば、我が物顔で跋扈し大量の生産、消費と廃棄を続けてきた人類が、地球上から追い出されかかっていると見ることもできます。異世界から現れたかのようにみなされがちな病原体も、我々を追い出すために差し向けられた刺客に映るというわけです。
最初の職場で教えられた言葉の一つに「全て自分」というものがあります。物事の結果に、少しでも自分の責任と思い当たる節があるなら、全て自分の責任と受け止める心構えを説いたものです。かような心構えに基づき、このようなことになったそもそもの発端は何かと考えるに、それは大勢の労働者、現代風にいえば「社畜」が大都市圏に居住し、同じ場所で一斉に働き一斉に休むという、産業革命の頃から連綿と続いてきた「古い生活様式」にあります。つまり、責任は我々人類にあるということです。しかるにそれが棚上げにされ、人類同士が責任をなすり合っている現状はいかがなものでしょうか。病原体を殲滅しても、その生活様式を改めない限り、いつの日か次なる刺客が現れるでしょう。

第二波なるものには過剰なまでの警戒心を向ける一方、「聖戦」に勝てば平和が戻るかのような思想には、人類を中心にした「古い世界観」の影響が色濃く感じられます。今求められているのは、我々も地球の一員にすぎないと心得て、謙虚に振る舞う「新しい世界観」ではないでしょうか。身から出た錆により地球上から追い出されかかっている人類が、引き続き生活させてもらえるようにするための行動様式こそ、本来あるべき「新しい生活様式」のように思えてなりません。
お上が血道を上げている「3密」とやらの回避という観点でいうなら、荒療治はいくらでも思いつきます。まず祝日を全廃し、その分だけ労働者の有給休暇と教育機関の休業日を上積みしましょう。大規模集客施設での売上と盆正月の移動にかかる消費税を倍額にして、稼いだ税収は土日以外を休業日にした事業者に「協力金」として給付します。それだけでも人出は相当分散されると思うのですが。
仮にそこまでやるとすれば、産業界が猛烈に抵抗するのは必至でしょう。彼等の味方であるお上が本気になって取り組むとも思われません。そのことからも、所詮は「暫定的な生活様式」に過ぎないのが明らかです。しかし、少なくとも好き好んで「社畜」に戻ろうとする必要はなさそうな気がします。
一時は見殺しにされかかっていた飲食店が、ようやく賑わいを取り戻してきたのは歓迎すべきことです。しかし、何もかもが元通りということになると、こちらにとっては手放しで歓迎できなくなってきます。件の番組でもしきりに繰り返されていた通り、離れていても心は一緒です。一ヶ所に集まる必要などないと思います。新しい世界観の下、ほどよい間合いを保つ文化が、これを機会に培われていくことを願う次第です。
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