日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

ふらり旅 いい酒いい肴(4)

2016-04-13 22:30:58 | 居酒屋
このblogで「教祖」と崇めている居酒屋探訪家、太田和彦氏による「ふらり旅 いい酒いい肴」が、先週放映の第73回をもって四年目に突入しました。一回の放映につき平均二軒以上を扱うとして、これまでに登場した酒場はざっと150軒ほどになるでしょうか。訪ねた都道府県は40に達し、全都道府県踏破を射程に捉えています。古希を迎えた教祖の御年からしても、11年にわたって続いた「全国居酒屋紀行シリーズ」に及ぶかどうかは微妙な情勢ながら、少なくともTV番組としては、それと双璧をなす代表作になることだけは間違いないでしょう。今朝の全国紙のTV欄にも、番組の宣伝が教祖の御尊顔入りで掲載されており、局の力の入れようが窺われました。

放映が始まった三年前、この番組について僭越ながら寸評を述べました。有名店と新規の店を適宜織り交ぜつつ、厳選された名酒場を紹介するところにさすがと感服する一方、「全国居酒屋紀行シリーズ」に比べて旅番組然とした姑息な演出が目立ち、あたかもグルメ雑誌の映像版を見ているような気分にさせられるというのがおおよその論調です。その後はこの番組に言及することもほとんどなくなり現在に至るわけなのですが、これは上記の印象が一貫して変わらなかったことによります。
常々申している通り、教祖の真骨頂とは酒場の情景を文字だけで描ききるところにあるというのが私見です。かような観点からすると、映像はあくまで付属物にすぎません。ところがこの番組では、教祖がカメラ片手にはしゃいだり、出てきた肴を執拗に映したり、胡散臭い芝居や鼻歌が差し挟まれたりといった、こちらにすれば無用な演出が目立ちます。教祖にしか作れない唯一無二の存在価値という点において、「全国居酒屋紀行シリーズ」あるいは数多の出版物の水準には及ばないというのが、当番組に対する印象です。

もっとも、回数を重ねるにつれて洗練されてきた面はあり、その傾向は新作と再放送を立て続けに視聴すると顕著に感じられます。たとえば、開始当初に苦言を呈した、酒場での映像に霞んだようなフィルターを入れるという演出は、いつの間にやら姿を消しました。店主らの発言に被せられる目障りな字幕も、最小限に抑えられました。最近放映された中野の回では、前座をほぼ省略して四軒の酒場をはしごするなど、「全国居酒屋紀行シリーズ」の路線に回帰した感さえあります。万人受けを狙った演出は逆効果と見て、次第に虚飾を排していったのでしょうか。真偽のほどはともかく、こちらにとっては歓迎すべき変化です。
加えて、2冊出版された単行本が秀作です。9巻まで刊行された「酒場放浪記」の単行本は、番組には出演しない作家の書いたもので、内容的にもありふれた情報誌の域を出ません。それに対し、こちらの単行本は教祖御自らの執筆で、小さめの写真を織り交ぜつつ、道中の模様が軽妙洒脱な筆致で綴られ、往年の名著「ひとり旅 ひとり酒」を彷彿させます。今後続編が出版されれば、「ニッポン居酒屋放浪記」と並ぶ代表作となって行くかもしれません。

「全国居酒屋紀行シリーズ」に一歩譲る感はあるものの、隔たりは多少なりとも縮まり、加えて単行本という新たな財産がもたらされました。自分自身、高山の「あんらく亭」「本郷」に弘前の「山水」など、この番組が初出の店には度々世話になっています。それを含め、番組の価値は次第に増してきたというのが実感です。これからも放映が続くことについては、素直に歓迎したいものだと思います。
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