日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

錦繍の飛騨を行く - 本郷

2015-11-22 22:28:49 | 居酒屋
「樽平」を出たところで手痛い誤算が。四軒あった持ち駒の中で最も期待していた「あじ平」に早仕舞いで振られたのです。「樽平」を出た時点であちらにはまだ明かりがついていたため、結局行きたい順に回っておけばよかったということになります。策士策に溺れるとはこのことです。しかし、結果論をいくら述べても仕方ありません。これにより選択肢は残る一軒の「本郷」に絞られました。
昨日教祖の番組に言及したとき、紹介された高山の四軒を老練な店、小洒落た店、大衆的な店の三通りに分類しました。この店は小洒落た店と評したものです。気鋭の女性店主が二十代の前半で開業したそうで、町家を生かしつつ洋風酒場の趣も採り入れた、見るからに斬新な店でした。しかし、人間年を追えば追うほど老練な店、大衆的な店に傾倒して行きます。かような観点からこの店にも食指が伸びづらく、余力があれば行ってもよかろうという程度の考えだったのが実情です。それが目当ての店に振られたことで訪ねる機会を得たわけなのですが、幸いにして余計な先入観を払拭するよい店でした。

アーケードに面した間口は真っ白な壁となっていて、事前情報がなければ町家とはまず気付きません。ギネスの立看板が置かれていることからしても紛うことなき洋風酒場で、ここに飛び込もうとはおよそ考えられない店構えです。これではさすがの教祖も発掘できなさそうに思われ、実際人伝に聞いて知ったとの発言が番組内でありました。
長い廊下を通って一番奥のカウンターに至るところは番組で見た通りです。しかし、品のよさそうな老婦人らが向かっていたカウンターは、若い地元客で埋まっていました。たしかに、中高年より若い年代に受けそうな店です。中年の一人客にはやや落ち着かない面はあるものの、観光客で混むよりもはるかにましには違いありません。
肴が間もなくラストオーダーと告げられ、それを承知で入ったのはよいものの、席に着くやいなや注文を聞かれても、和洋折衷の見慣れない品々から的確に選ぶのは至難の業です。幸いにして、チーズなどすぐに出る一部の酒肴は11時まで猶予があると聞かされたため、それらと突き出しで十分と割り切り、とりあえず酒だけを注文。選び抜かれた飛騨の地酒はちろりで適温に温められ、なおかつ最後の一滴まで適温を保っており、突き出しの温かいトマト煮も一品料理として成立していて、それだけでもこの店の実力はおよそ察しがつきます。
話し上手な店主もさることながら、番頭格と思しきお姉さんを含め酒については皆造詣が深く、こちらの好みに応じて的確なものを見繕ってくれ、付かず離れずの接客は心地よいものがあります。教祖が訪ねてきたときの裏話を聞くのも楽しく、結局徳利を三本空けて看板まで滞在してしまいました。

上記の通り、中年の一人客には不釣り合いな小洒落た店です。肴が少々お高いことからしても、この店を柱に据えるというよりは、二軒目、三軒目あたりに訪ねるのが順当かもしれません。しかし、酒についてはごく良心的な価格であり、店主やお姉さんを相手に一献傾けるには最高の店ともいえます。高山の夜を締めくくるなら、ここの瀟洒なカウンターがおあつらえ向きといえそうです。

本郷
高山市本町3-20
0577-33-5144
1800PM-2230PM(LO)
日曜定休(祝日の場合翌日休業)

深山菊・天恩二合
突き出し(鶏肉トマト煮)
おいしいチーズの盛り合わせ
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錦繍の飛騨を行く - 樽平

2015-11-22 21:18:44 | 居酒屋
二軒目は教祖をして高山の実家と言わしめた真打の登場です。飛騨の聖地「樽平」を訪ねます。
教祖が紹介した高山の店が四軒ある中で、最も行きたかったのは老練な店でも小洒落た店でもなく、大衆的な店の方だと昨晩申しました。しかるに老練な店を先に回したのは看板との兼ね合いによります。昨日10時前に訪ねた時点で「樽平」が早仕舞いしていたため、さらに一軒挟むと今夜もおそらく店仕舞いだろうと判断したわけです。
しかしいの一番に乗り込むこともしなかったのは、混み合う時間を避けたかったからに他なりません。たとえ開店直後に乗り込んでも、後から予約客が次々に現れてカウンターが埋まり、それに従い調理も切迫し始めて、間延びした展開に陥るという経験を何度もしています。連休の高山の有名店なら少なからずそうなりそうだという予感がありました。早くても遅くてもいけないという状況を考えると、訪ねるなら今しかないと思い立った次第です。

まず特筆すべきは店構えです。箱型の二階建は一見すると安普請ながら、庇の下に扁額を掲げた一階の玄関はただならぬ気配を感じさせます。教祖の事前情報を抜きにして、全くの独力で高山の酒場を訪ねるとしても、一軒目にはここを選んでいたでしょう。長年の煙で燻され飴色に光った店内も秀逸という他ありません。
北陸の魚介と飛騨の食材を織り交ぜ、女将の故郷である秋田の郷土料理も加えた品書きは郷土色に満ちています。袴を履かせた上品な徳利と盃の取り合わせがよく、お通しのゲソぬたなども気が利いていて、女将と若女将の二人による付かず離れずの接客も絶妙。飛騨の名店として万人に自信を持って勧められそうで、教祖が激賞するのも宜なるかなです。

ただし、以上はいずれも想定の範囲内です。事前情報が多過ぎるばかりにある程度の予測ができてしまい、それをも超える感銘は受けないというありがちな現象が、この店にも少なからず妥当しました。これは、自身の経験が蓄積されたことで、よほどのことがなければ感動しなくなっているということでもあるのでしょう。ある意味贅沢な悩みではありますが。
しかしこの手の店の場合、二度、三度と足を運ぶことで本当のよさに気付いてくるということも経験上分かっています。次に来るなら深い雪に閉ざされた冬場でしょう。その頃には観光客も多少は減り、気兼ねなく呑めるのではないかという期待もあります。そのための方策が自分の中で徐々にまとまってきました。来たる冬に再訪できるのを楽しみにしています。

樽平
高山市総和町1-50-6
0577-32-5490
1730PM-2330PM
日曜定休

久寿玉二合
突き出し
にしんこうじ漬
牛すじ煮
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錦繍の飛騨を行く - ぞん家

2015-11-22 20:09:47 | 居酒屋
今夜は自らの勘を信じると申しました。その直感に従い、自ら当たりをつけた店に飛び込みます。訪ねるのは「ぞん家」です。
アルファベットでZONCHIと添え書きされていたから分かったものの、前衛書道家が書いたかのような行灯の屋号を初見で読むのは難しいのではないでしょうか。そのような屋号からも、若い店主の店なのだろうということは何となく想像できました。場所はまたも「樽平」「あんらく亭」と同じ南北方向の通りで、東西の目抜き通りを入ったところにある「樽平」、中ほどにある「あんらく亭」を通り過ぎ、飲食店の明かりが尽きる直前にあります。町家が小ぎれいに改装されており、格子戸の向こうにはカウンターを中心にした店内が見え、これならある程度期待できそうだと思える店構えです。呑み屋街を観光客が闊歩する中、幸いにして先客はおらず、まずはここだと決めて暖簾をくぐりました。

二重になった玄関で靴を脱いで中へ入ると、手前に掘り炬燵のテーブルが二つ、突き当たりにカウンターがあり、若い店主とお姉さんが迎えてくれました。床は畳でテーブルとカウンターは艶やかな一枚板、壁には幅何mあるのかと思うようなただならぬ屏風絵が。和を基調にしながらも現代的に再構成されたような店内は、魚津の「ねんじり亭」を彷彿とさせます。そう感じるのはカウンターが間口に対して若干斜めになっているからでもあり、よくよく見ると敷地が長方形ではなく台形になっていました。変則的な敷地の形状を巧みに生かした店内の造りは上々です。
横長の和紙に上下二段組で綴られた日替わりの品書きは魚介中心で、飛騨牛以外のご当地ものはありません。「あんらく亭」と同様、こちらも観光客には迎合しない御常連御用達の店なのでしょう。しかし「あんらく亭」と違うのは、調理法が見るからに凝っていることで、油掛け焼き、松前焼き、大和蒸しといった聞き慣れないものが多くを占めます。果たしてお通しに出されたお椀は蕪をくり抜いて海老真丈を詰め、飾り包丁を入れて柚子皮を添えるという、見るからに手の込んだ一品でした。次いで選んだ鴨肉も、深めの器に塩を詰め、そこに焼いた石を置いてから肉を乗せ、葱と金山寺味噌を添えるという凝りようです。教祖の推奨店の中でも、技巧についてとりわけ絶賛されているのが浜松の「貴田乃瀬」ですが、あちらもかくやと想像させられました。聞けば以前は奥飛騨の旅館にいたそうで、居酒屋の域を超えた技巧も宜なるかなといった感があります。
それはよいのですが、店主とお姉さんに対して一見客一人という状況は少々ぎこちないものがあります。そう感じていたところへ常連と思しき一人客が現れ、店内の空気が変わりました。明らかに西日本寄り、しかし関西とは全く違う、北陸的な飛騨弁が旅情を誘い、この店本来の姿を垣間見たようでした。静かに呑めるのが一番とはいえ、酒場には適度な賑わいも大切ということでしょう。当たり前の事実を再認識したところで席を立ちます。

ぞん家
高山市総和町1-23
0577-35-2022
1800PM-2300PM

氷室
突き出し(海老真丈のお椀)
カモ肉もろ味噌漬け
焼穴子の大和蒸し
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錦繍の飛騨を行く - 第二夜

2015-11-22 19:24:35 | 東海
その後日没を待って呑み屋街を一周し、宿に戻って一息つきました。撮るべきものは一通り撮ったため、昨夜と同様手ぶらで出直します。自転車で往復した感覚からすると、呑み屋街までの距離は昨夜の宿より大分近くなりそうです。散策と酔い覚ましを兼ねて歩きます。
取るものもとりあえず教祖の推奨店に駆け込んだ昨夜に対し、本日は呑み屋街の全貌を把握し、これはという店も二、三見当をつけました。常に教祖の後追いばかりというのも面白くありません。今夜は自らの勘を信じるのも悪くなかろうと考えています。
それにしても、今日は熱い風呂が身体に染み入りました。震えるほどの寒さではないものの、屋外に長時間滞在して身体の芯が冷えたということでしょう。熱燗で一献やるにはおあつらえ向きの夜になりそうです。
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錦繍の飛騨を行く - 時間切れ

2015-11-22 16:32:45 | 東海
空が一時明るくなったとはいっても、この時期なら四時を過ぎれば日没も同然です。光量が限界に達したところで時間切れと相成りました。
初めて腰を据えたことにより、高山市街の全体像というものがようやく見えてきました。今回知ったのは、宮川の東と西で街並みが相当変わるということです。駅と呑み屋街がある西側にも、古い建物は随所に残っています。しかし、町並みそのものの古さということになると、川を渡った東側に俄然趣があります。立派な寺社が点在することからしても、元々は東側に街の中心があり、それが鉄道の開通により次第に西側へ移ったのかもしれません。
古い町並みと聞いて連想したのは、電線を地中に埋めて町家を小ぎれいに修復した、いかにも観光地然とした町並みです。それだけに、そこを観光客が闊歩する光景を想像すると、とても近寄りたいとは思いませんでした。しかし今回訪ねてみれば、そのような町並みばかりでないことも分かってきました。人々の生活感が色濃く滲み出た町並みは随所にあります。家々の様式、街路の形状、地形の起伏などは京都、金沢などとは違う高山特有のものです。それらを心行くまで訪ね歩くには、一日などでは到底足りず、何度か通い続けるしかないでしょう。
もっとも、京都、金沢などと違って、高山を再訪するのは面倒です。往復にそれぞれ一日費やすとなると、三連休を注ぎ込んで中日の一日を充てられるに過ぎないわけです。しかるに、来年の大まかな予定を考えても、今回のような機会を捻出できる可能性は低いと言わざるを得ません。さりとて、高速バスで往復するつまらない旅にしたくもありません。高山を再訪する機会をどのようにして作るかは、今後の重要課題の一つとなりそうです。
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錦繍の飛騨を行く - 宮川

2015-11-22 15:44:48 | 東海
商店街に並行する形で市街を南北方向に貫くのが宮川です。川幅と町並み、山並みとの取り合わせは、自身知る中でいうなら松本の女鳥羽川にどことなく似ています。
紅葉はもう終わったというのが「鍵や」の女将の談ではありましたが、川の畔の木々は最盛期こそ過ぎたもののまだ鮮やかに色づいていました。しかもありがたいのは、今更ながら空が少し明るくなってきたことです。空が次第に暗くなり、三時以降は使い物にならなかった昨日に対し、今日はもう少し粘れるかもしれません。
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錦繍の飛騨を行く - 商店街

2015-11-22 15:29:18 | 東海
自転車を漕いで市街にやってきました。観光客が溢れる駅前の光景に辟易する場面はあったものの、少しでも場所を外せば途端にいなくなることが多いものです。そのような経験則に従い、観光客が来そうにもない商店街を中心に回っています。
まず感心させられるのは、日曜にもかかわらず多くの店舗が開いていることです。加えて、昔ながらの町家、凝った洋風建築、戦後に建った鉄筋造まで様々な建物が混在しながらも、高い建築物が一切なく、街並みの調和が保たれています。地方都市の商店街といえば、多くの店がシャッターを下ろし、アーケードは更地で虫食い状態になって、開いているのはおばちゃん向けの衣料品店だけというのが常です。それだけに、昔ながらの商店街が今なお健全に保たれているのはまことに好ましいものがあります。
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錦繍の飛騨を行く - 糸冬日シ帯在

2015-11-22 12:48:18 | 東海
必要以上に逡巡した挙句ようやく結論が出ました。本日は終日高山に滞在します。冴えない天候はどこへ行っても変わらない以上、ガソリンを焚いて延々走るより、ほぼ未体験の高山市街に腰を据えるのがよかろうと判断した次第です。アルファーワンから今夜の宿までわずか1.5kmを移動して、本日の走行は早くも終了となります。
はるばる車で来た以上、車がなければできないことをするのが順当であり、街に滞在するなら公共交通機関を使えば済む話です。しかし、都内から高山へ交通機関で行こうにも、北陸への経路に選べた周遊券ありし頃ならともかく、今や正規の運賃と料金を払う以外の手段がありません。加えて国鉄型車両も淘汰されてしまいました。結局無味乾燥な高速バスに頼るしかない以上、飛騨への交通手段は実質的に自家用車しかないわけです。そのような条件下で高山市街に滞在するなら、車を一日遊ばせるのも致し方ありません。
終日滞在するとはいっても、昨日の実績からすると、日中の実質的な持ち時間は長くとも三時頃まででしょう。心ゆくまで訪ね歩くというより、市街の全体的な位置関係を把握できれば上出来といったところではないでしょうか。腰を据えた真価はむしろ夜の部に発揮されると思われます。

なお、上記の通り、今晩世話になる宿へ先に移動してきました。二泊目の宿となるのはバイパスから少し離れた住宅街の中の旅館で、市街までは徒歩15分といったところでしょうか。連休中日に関しては宿泊事情に多少の余裕があり、市街のビジネスホテルも選べる状況だったものの、飛騨の小京都に泊まるからには和室を選ぶに越したことはありません。そのような中、素泊まり四千円台という渡りに船の宿があったため、こちらを選んだ次第です。
車を事前に置くことについて快諾してもらい、自転車もこちらで借りられたのは助かります。部屋には入らず出発しますが、年配の館主が営む小ぢんまりした雰囲気は上々です。先ほど朝食もお願いしたため、それを含めて楽しみにしています。
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錦繍の飛騨を行く - アルファーワン高山バイパス

2015-11-22 10:55:59 | 東海
さて、昨晩世話になったのはバイパス沿いのアルファーワンでした。高山の市街とバイパス沿いに二軒もあるのが、アルファーワンならではといったところでしょうか。どこへ行っても宿が混む11月の連休だけに、飛騨へ行こうと思い立った時点で市内の宿はあらかた埋まっていたものの、辛うじて徒歩圏内にあるこの宿が残っていたため、即決で滑り込んだ次第です。

自分の中でアルファーワンの印象はある程度確立しています。第一に、前回泊まった米沢にしても今回の高山にしても、大都市ではなく中規模都市がほとんどということで、このあたりは県下の二番手、三番手の都市に集中する高専に通ずるものがあります。
もう一つは、各地に出店したのが二昔ほど前で、その後ほとんど増減していないため、今なお増殖する後発の全国チェーンとは一線を画する独特の雰囲気があることです。二昔前といえば、自分が全国各地を単身旅するようになった草創期でした。携帯端末であらゆる宿を比較検討できる現代とは違い、ポケットサイズのホテルガイドと、現地の電話帳を頼りにその日の宿を探していた時代です。そのような時代だけに、どこへ行っても外れのない全国チェーンのありがたみは今日と比べものにならないほど大きく、アルファーワンにもしばしば世話になっていたわけです。
その後全国チェーンが乱立し、合理性、経済性が徹底追求されて行く中、あえて拡大路線に走らなかったアルファーワンには、多少なりとも大らかだった時代の雰囲気が残されました。その雰囲気が、自分の若かりし頃の思い出に重なり、曰く言い難い居心地を生むとでも申しましょうか。加えて、何十台止まれるのかというほど広大な駐車場は、酒場めぐりが旅の主目的となる前のレンタカー時代に利用していたルートインなどを彷彿とさせ、その点でも懐かしさを覚えました。全国チェーンを極力避け、地場の宿を優先するのが近年の方針ではありますが、アルファーワンもたまにはよいものだというのが率直なところです。

ちなみに、今回は800円の追加料金を払って朝食をいただいてみました。和惣菜、洋惣菜、郷土料理が一通り揃ったバイキングは、目移りするほどではないにしても十分な品数で、全ての品を少しずつ盛り付けてお盆に乗り切るという点では過不足がありません。この朝食が楽しみになるというほどではないにしても、コンビニ弁当が500円前後することを考えれば、これで800円なら価格相応といってよいのではないでしょうか。周囲に高い建物が一切ない中、屹立する14階の建物の高層階からは高山市街が一望でき、朝晩両方入れる石造りの立派な大浴場も秀逸でした。それらを含め、快適に過ごさせてもらったことには感謝しています。
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錦繍の飛騨を行く - 二日目

2015-11-22 10:45:30 | 東海
おはようございます。二日目はかなり遅めの活動再開となります。只今ようやく出発の準備を整えたところです。
少々寝坊したのもさることながら、空が厚い雲に覆われてしまい、今日をどうやり過ごすかについて妙案が浮かばないというのが最大の理由です。
車を走らせてまでどこかへ行きたいという天候ではないため、宿の自転車を借り高山市街を散策するのが一案ではあるのでしょう。とはいえ、この曇り空では何をするにも興ざめです。早めに投宿して一風呂浴び、五時の開店に合わせて呑み屋街に繰り出し、駆け足で終わってしまった昨晩の借りを返すのが最も効果的な使い道でしょうか。さらによい案がないかどうかもうしばらく検討してみます。
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錦繍の飛騨を行く - 鍵や

2015-11-22 00:21:15 | 居酒屋
「あんらく亭」を出た時点で時刻は11時に迫り、心当たりのある店はいずれも事実上看板となりました。呑み屋街を一から歩く余力もなく、あとは地元客が決まって飛び込む老舗のラーメン屋でもあればという状況です。しかし、呑み屋街が広い割には開いているラーメン屋がほとんどなく、上記のような注文まで付け加えると選択肢は皆無に近いものがありました。とはいえこのまま宿へ戻るのも惜しく、教祖が番組で言及していた一軒の店に飛び込みました。訪ねるのは「鍵や」です。
「紹介」ではなく「言及」と表現したのは、呑み屋街を歩く中で、以前入った店の一つとしてごく簡単に触れられたに過ぎないからで、どのような店なのかについては未知数でした。しかし、行灯にお茶漬、雑炊の文字があることからしても、呑んだ後に立ち寄り軽く一杯やる店なのは想像できます。ラーメンの代わりに雑炊をいただくつもりで暖簾をくぐると、野球場のダグアウトのごとく地面を掘った一段低いところに店内があり、年配のおばちゃんが一人で営業していました。艶やかな木材で統一された店内はよいとして、やや散らかっているのはご愛嬌といったところでしょうか。
カウンターの背面に品書きの黒板が二枚あるのは「あんらく亭」と同様ながら、その内容はお茶漬け、雑炊、味噌汁、季節料理、煮物に酢の物といった具合に大雑把で、あってないようなものといっても過言ではありません。おそらくは、腹具合を伝えた上で適当に見繕ってもらうということなのでしょう。しかし残念ながら、一軒目で腹があらかた満ちており、さらには疲労も加わって、あれこれ飲み食いする余力がありません。酒一本と雑炊だけをいただいて、高山での第一夜を締めくくりました。
おばちゃんは話し好きで、お客の顔を一度で覚えられるのが特技だそうです。目移りするほどの酒と肴はないにしても、年季の入ったカウンターで、老練なおばちゃん相手に軽く一杯やって締めくくるという点では、花見のときに訪ねた松本のうどん屋に通ずるものを感じました。高山に泊まる機会が再び巡ってきたときには、この店を最後に訪ね、今回の思い出話をさせてもらうのもよさそうです。

鍵や
高山市朝日町28
0577-32-5391

玉の井
雑炊
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