球形ダイスの目

90%の空想と10%の事実

読書メモ:二十四の瞳

2022-07-13 | 趣味(旅行・娯楽・読書・食)
またしても小豆島への旅行で目にした作品を読んでいくという逆パターン。

自分はこの作品を以前に知っていたような気がしていたが、
実際は瞳の数を1000万倍した歌を知っているだけで、この小説は知らなかった。
忘れないうちに感想を述べてみたいと思う。

1. あらすじ
全体的には遠めの人称で描かれていて群像劇の性格を持っているが、主人公としては大石先生ということになるだろう。
昭和一桁の時代、洋服と自転車というハイカラないでたちで岬の小学校に赴任して12人の小学校1年を担当する。最初はそのハイカラさを奇異の目で見られれるが、島の古臭い慣習に縛られない独特の魅力を持つ先生として人気を得ることとなる。その後子供の悪戯によるケガや妊娠などから何回か小学校から離れつつも折々で子供たちと接する機会を持ちながら時は過ぎる。戦争が近づくにつれ軍国主義が教育に持ち込まれ、逆らう者は"アカ"として社会的に抹殺された。大石先生は生徒たちの心の支えとなるも、反戦の意を口にできずに心をすり減らしていく。
教え子は成長し、大石先生は戦争に駆り出される男生徒をしぶしぶ送り出すこととなる。戦争が終わり、先生と生徒は再び集まる。歌を得意としていた生徒が、小学校の時と同じように荒城の月を歌う。その場の一同は、"みんな、辛かったよね"…とばかりに、過ぎ去ったこと、失ったものを思いながら涙した。大石先生は40歳そこそこというのに、すっかり心をすり減らして老婆のようになってしまった。

2. 感想-昭和一桁という時代の古臭い価値観
2022年、LGBTや男女平等といったワードが日々SNSを賑やかす昨今、この小説内の価値観が古臭すぎて読んでいて眩暈がしそうだった。
人手が足りないので7歳くらいの子供であっても帰宅後は幼子の世話をする義務を強いられる、女性の先生は30代後半で実質上の引退を迫られる、学校の先生が2人で、"おとこ先生"、"おんな先生"と呼ばれる、貧しいという理由で修学旅行に行くことができない子供が結構いる…
例を出すだけでもきりがない。まぁ自分はそういう価値観に嫌悪感を感じたということ。
今読んでも昔と変わらず存在すると思うのは、
 貧しいなどの理由 → やりたいことをさせてもらえない → 自分の運命と思って諦める(時折爆発する)
という"恵まれない人"特有の思考メカニズムである。
成人してもどこか諦め癖がついている人という見え方をするアレである。

もう一点、最初に書いているようにこの物語は群像劇の性格を持っていて、12人の子はそれぞれに違った進路へ進んでいく。ただ、我々が思うような大学進学→どこに就職?というようなものではなく、
家が貧しく他所に売られた子供、母が早くに亡くなり小学生で母親代わりを務めざる得なくなった子供、兵士となって階級を上げることを願う子供といった感じで、多くの子供が自分の意志で自分の進路を選べていない。家庭や社会の事情に翻弄されている。しかし、当時の事情を勘案すると、これは誇張ではなく、当時の片田舎の"普通の"子供の進路の考え方だったのだろう。いや、やってられないよな、と思ってしまう。

3. 作者の文章スタイル
他の作品は読んだことがないが、坪井栄さんの文章は短く、余計な描写を極力抑えているように思われるところに特徴を感じた。本作品は小1の子供が20台そこそこになるまでの十数年を描いているが、それでも200ページそこそこの分量にまとまっている。例えば劇中では大石さんの妊娠に関する描写はあっても、旦那に関する情報はほぼ0。子供と先生との関係…という部分と関係ないからということもあるが、漁師である情報のみで、名前すら出てこず、なんならいつの間にかナレ死していた。
戦争というつらい出来事が描かれているが、舞台が四国くんだりのため直接空襲があったような描写はなく、描かれているのは一部の生徒が戦争で死んだこと、失明したこと。先生の家族が半分に減ったこと。(当時の)一部の生徒と先生が久々に集まり、昔を思い出ししみじみと悲しむこと。淡々としている。
坪井さん本人は"戦争は決してあってはいけないこと"というコメントをしていたようだが、作品内でその言葉を言わせることはせず、登場人物は、もともと限られていた選択肢をさらに狭められ、それを運命のように受け入れて生きた、という風に描いた。

4.おまけ メディアミックスへの苦言
この話にせよ、からかいの高木さんにせよ、原作では特に舞台を特定していないのに(作者が小豆島出身であることを理由に)後付けでメディアミックスの際に舞台を小豆島ということにすることが起きているのはちょっと興ざめした。
映画村や土庄港では有名なマンガや映画の舞台という触れ込みで推されていたが、本編ではそんなこと言ってないじゃん、と。八日目の蝉はセーフ。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ニュースだいすきw | トップ | 読書メモ:OUT »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿