上高地を題材にした小説ということで井上靖の「氷壁」を読んでみた…
どうだった?
うーん、全体的に暗い雰囲気&わかりやすくない話なので感想を言うのが簡単ではない。ある程度読書慣れした人でないとお勧めはしないかなといった感想。勿論面白くはあるが…
この小説にテーマがあるのかはわからないが、
「皆自分の信じたいことを信じる」ことと
「真実は何なのかは誰にもわからない」
ことがかなり執拗に描かれていることを特筆すべきだろう。
何がわからないのかだが…
①ザイルはなぜ切れたのか
帯にも書いてある「ザイルはなぜ切れたのか?」の答えは結局最後までハッキリしなかった。衝撃で切れたらしいことは分かったが、それが何によるものかは不明のままだった。だから何?ということになるわけだが、
主人公の取引先にザイルのメーカーに勤めている人がいたために、友人の滑落死の事実よりザイルが切れた原因の方に注目が集まり、思わぬ方向に話が進んでしまう。
まぁ、登山家にとってはザイルが切れるか切れないかはアカの他人の死より重要なのだということがわかる。
②登場人物の関係、死因
結局友人は主人公のことをどう思っていたのかは最後までわからなかった。彼が彼自身の生死にどこまで関わったのか。
実質の死神役の美那子、何故友人だけでなく主人公にまで惹かれたのか。彼女が友人の火遊び相手である以上の存在意味は何だったのか。わからない。
主人公が最後に死の影に取り憑かれたのは何故なのか?わからない。
いや、本文中に書いてはあるが、
横断歩道の白い部分を歩かないと死ぬ、というようなひどく個人的なルールに囚われて彼命を落とすこととなった。
絶望のような、自暴自棄のような、過去を捨て、新たな生を選ぶ意志のような、様々な想いが入り混じる幻想の中で彼は死んだ。
重い気持ちを抱えながら友人の妹(かおる)と共に生きる、そんなビターエンドでも良かったじゃないか。しかしそうはならなかった。なぜか。答は書いてない。
個人的には、彼が死んだのは、自分が正しいと思うものを正しいと信じてそれを貫いた結果だ、と説明するしかない。
以上から、読後感としては、結局この話は何だったんだろう?となりがち。
何回か繰り返して読みたい本かも知れない。
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