脱法ハーブティー

　人間てのは恐ろしいもので、ニートも３年やっているとだんだん危機感が薄れてくるのだけど、それでも眠れぬ夜、言いようのない不安に襲われることがある。

　唐突だけど、世の中には頭のおかしい奴がたくさんいる。こないだ友人と話していて笑ったのは、ある日、あいつを片思いしている大学の同級生の女が「明日の講義、一緒に出よう」みたいな約束を持ちかけてきたんだって。でも実際はオレと受けることになり、そしたら彼の元に「裏切り者！」というメールが届いたと。

　その女の子はきっと幸せなんだろうと思う。しつこくアプローチすればいつか付き合えると信じて疑わぬからこそ非常識なメールが送れるわけだし、鬱憤をそのつど晴らしておけばストレスも一切溜まらない。傍から見れば迷惑極まりない行為も、彼女の中の世界では全て正当化される。

　自分もそっちのワールドに行けたら楽なのに…と本気で思う。オレのことを「頭がちょっとおかしい」と見る人がいるのは薄々感じてるけど、半分は演技だからね。実際は笑っちゃうくらいに小心者で、現在進行形で気になっている女の子とも距離を詰めれずにいるし、一事が万事、男女問わず誰に対しても「こんなこと言って大丈夫かな？」と常にビクビクしている。そんな自分がたまらなく嫌だから、変わり者を演じているだけでさ。

　就活が上手くいかないのも、きっとその延長線上、弱気な性格に原因があるんじゃないか。ハローワークで求人を眺めていても「自分じゃ務まらないか」とまず考える癖がついていて、３年以上、何ひとつ変われぬままにここまで来てしまった。オレは寂しがり屋だから結婚願望などもそれなりにあるけど、こんな状況では全ての扉が開かない。

　３年間、ひたすらひとつの問題を考えてきても鬱病にすらなれないのは、自分の感受性がダメになってしまったということなのかな。悲しみにも苦しみにも、全ての感情に対して鈍感にしまっているから、悲惨な状況に置かれている今にさえも狂うことができない。狂いたいと思えば思うだけ、チキンな自分が目を覚ます。

　じゃあクスリをやるしかないね。自然に狂うことができないのなら、無理矢理にでも頭をおかしくしてしまうほかない。シャブを打ったら身も心も滅ぼしてしまうかもだけど、オレなんてすでに死んだも同然なんだからさ。むしろドラッグのおかげで今までにない発想やアイディアが湧いてきて、それがきっかけで人生が開ける可能性だってあるんじゃないのか。

　些細なことで悩んで、苦しんで、本当に惨めなオレだけど、自分のその全てを笑い飛ばせる日が来たらいいのになぁ…と思ったり思わなかったりする、そんなダービー前夜。