雅工房 作品集

長編小説を中心に、中短編小説・コラムなどを発表しています。

変わるもの変わらないもの ・ 小さな小さな物語 ( 1154 )

2019-05-30 14:08:46 | 小さな小さな物語 第二十部
毎年言っているような気がするのですが、早いもので、今年も終わろうとしています。
この一年に起こった出来事については、テレビ各局が詳しく教えてくれています。振り返って見てみれば、「とても信じられない」とか、「よくも堪えられたものだ」とか、「今なお許せない」といった厳しく悲しい事件も少なくなかったと思うのですが、時の流れは、時には緩急を見せながらも一瞬も止まることなく流れ続け、いつの間にか過去のものとなりつつあります。

事件というほどの出来事でなくても、何か普通とは違う場面に出会うと、私たちは無意識のうちに立ち止り、息を止め、現状を維持しようとするようです。
物事に対して、積極的な思考を持っ入る人と、消極的に考えがちの人がいることは確かですが、瞬間的には、私たちは肉体的にも精神的にも防衛本能のようなものが支配し、攻撃、あるいは逃避に移るのはその後のことのように思われます。つまり、私たちの思考の原点は現状維持にあり、その次に実行する攻撃であれ逃避であれ、それはやむを得ず行う手段であって、本当の狙いは、現状維持なのではないでしょうか。

少々理屈っぽくなりましたが、私たちには自分を取り巻く環境を変えることにとても臆病な一面を持っているように思うのです。
わが国では、様々な場面で変化を強調するのを見ますが、それは、変化を望まない人が圧倒的に多い証でもあるように思うのです。
私たちは、常に変化していく環境に身を置いており、それが幸せな状態であればあるほど、いつかは変化し終焉に至るものだということに脅えを感じていて、無意識のうちに変化に対して抵抗しようとするスイッチが入るようになっているように思えてならないのです。

変わるものと変わらないもの、私たちはそうしたものが入り組んで存在しているように感じてしまうのですが、実は私たちは、変わらないものなど一つとして存在していないことを承知していながら、何とかその真実には触れないようにして、大切なものは変わらないものと自分自身に納得させ、懸命の日を重ねているような気もするのです。
しかし、年の瀬にあたって、この一年を振り返ってみると、ゆったりとしたと思っていた日々が、驚くほどの変化の日々であったことが思い知らされます。
それだからこそ、私たちは、私たちにとって大切なものを守ろうとしているのではないでしょうか。そこには、矛盾があり、思いのままにいかない恨みがあり、愛する者への執着は膨らむばかりです。
まあ、それもこれも、先人が残してくれた知恵をお借りして、除夜の鐘などきいてこの一年の煩悩を洗い流すことにして、新しい一年も、「変わらないもの」を大切にすべく尽くすための禊とするとしますか。
どうぞ、新しい年が皆様方にとって良いお年でありますよう祈念申し上げます。

( 2018.12.31 )


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